はじめに

 思えば、(財)建設業振興基金建設業経理研究会が、この工事進行基準に係る研究を始めたのは、研究会を設置した時(平成7年)からであった。創設後すぐに建設業会計における収益認識の業界固有のテーマであるこの基準のあり方について激論を始めた。当初は、会計ビッグバンの直前であったから、国際会計基準が工事進行基準のみを原則的な認識基準にするといういわば過激な方向に強い違和感をもつものも多かった。
 そこで、わが国の実態を調査するとともに、欧米の状況もきちんと把握しておこうということで、平成9年に、海外調査のために米国班と欧州班が結成され、調査結果は、平成10年に『欧米の公共工事と建設業経理−実態調査報告』を刊行し公表した。
 一方、法人税法では、平成10年から長期・大規模(150億円以上)の工事に工事進行基準を強制適用することが始まっていたから、わが国においても、収益認識基準として工事進行基準が主流となる時代かと思わせたのである。
 しかしながら、同基準の進展は、われわれが思い至らぬ方向から促進されることとなった。それは、10年を超え停滞するわが国の経済環境と厳格な負の遺産処理に向かう会計基準の大改正から、大手上場建設企業を中心とした、完成工事高の早期計上の手当てであった。特にこの動きは、債務免除を受けた企業、その危険性の高い企業において顕著であった。この点については、建設産業経理研究所が、2001年3月決算から毎年公表する『上場建設企業の決算分析』で詳細に分析されている。参照されたい。

 建設業界には、公共工事の受注という制度上の必要性から、「経営事項審査」がある。入札参加のために10数万の会社が受審しているといわれている。その中には、証券市場に上場する200社程度の大手総合建設業者・大手専門工事業者もあれば、全国で地域建設業界を支える10数万のゼネコンもあり、会計基準の異なった企業が混在している。経審においては、「統一した会計基準」での企業評価がなされなければならないことは、何の議論の余地もない。しかし、公認会計士監査の対象となる企業(上場会社と商法大会社等)と商法のみの会計規制下にある企業とでは、歴然とした会計処理上の相違が存在する。

 ここに『工事進行基準の研究』と題する書物を上梓する意義は、会計の「比較可能性」概念を尊重する意識を問うことである。
 今後、この調査研究分析書を活用して、適切な工事進行基準の指針(ガイドライン)が纏め上げられることを期待もしくは確信する。
建設業経理研究会 収益認識研究部会
主査 東 海 幹 夫