建設工事原価計算基準 (試案)         

 

第1章  総 則                      

1.建設工事原価計算の一般的な目的

    建設工事の原価を計算する目的は、建設業に携わる企業における諸種の経営問題

   に適確な原価情報を提供することであるが、より具体的には、次のような目的を達

   成することに役立つ。

   (1) 受注した建設工事の原価管理に役立つ原価情報を提供する。ここにいう原価管

     理とは、受注した個別工事の原価を望ましい水準に維持すること、さらにはより

     厳しい水準の原価に縮減する努力に貢献することである。

   (2) 財務諸表の作成を目的とする会計に対して、実績工事原価に関するデータを提

     供する。具体的には、適正に算定された個々の実績工事原価の集計により、損益

     計算書の完成工事高(売上高)に対応する完成工事原価を確定することである。

   (3) 建設業に携わる企業の経営全般に対して、積極的な原価低減活動に効果的な原

     価情報を提供する。

   (4) 建設業に携わる企業の全般的な利益管理、業績管理、予算管理等に役立つ原価

     情報を提供する。

   (5) 建設業に携わる企業の経営意思決定に対して、建設工事に関連する情報を提供

     する。

     以上のような目的のうち、「建設工事原価計算基準」は、次に定義する「建設工

   事原価計算制度」の有効な運営に資するために規定するものであるから、直接的に

   は(1)及び(2)と関係する。また、間接的には、企業がそのような経営管理情報の活

   用に積極的であれば、(3)、(4)、(5)にも重要な影響をもつものである。

2.建設工事原価計算制度の意義

     本基準における「建設工事原価計算制度」とは、受注した個別工事に適用される

   予算原価計算と実際原価計算とが、会計組織上、有機的に結びついて常時継続的に

   運営される原価計算をいう。この制度の基本的な目的は、次の2つである。

   (1) 受注工事に対する「建設工事コストコントロール」の実施

   (2) 適正なルールに基づいた「実績完成工事原価」の計算

     したがって、この制度の適用される対象は、受注した一件一件の建設工事である。

   その一般的なサイクルは、当該工事について実行予算が作成されるときからその工

   事の実績完成工事原価を確定し、これを「完成工事原価報告書」として報告すると

   きまでである。

     受注営業活動時の積算は、このような制度には含まれないが、データ構築上の関

   連性が深いので、両者は各々の理念を尊重しながらも、その整合性を十分に配慮す

   ることが望まれる。

3.建設工事原価の概念

     本基準の「建設工事原価」は、受注した建設工事の完遂に伴い発生する経済的な

   価値犠牲と定義し、当該工事の収益によって直接的に負担することが妥当と判断す

   ることのできる原価と定義する。したがって、建設工事原価は、次に示す内容によっ

   て構成される。

cost-consept.gif (2305 バイト)

     純工事費は、建設工事の請負遂行に直接的に必要とされる原価で、直接工事費と

   共通仮設費(あるいは総合仮設費用)から成る。工事管理費は、工事現場の維持・

   管理に必要とされる原価である。

     一般的には、建設工事原価は、以上の純工事費と工事管理費から構成されるもの

   であるが、この他、設計費・保証料等、当該工事との関係が個別的に発生するその

   他の費用を建設工事原価に含めることがある。本基準では、これを工事関係諸費と

   呼び他の原価と区別することにする。

4.建設工事原価計算の一般的基準

   (1) 建設工事原価計算は、測定対象として選定された各工事別の個別原価計算によっ

     て実施される。

   (2) 原価計算対象として区別する建設工事は、原則として、受注した個々の工事で

     あるが、工事間の関連性や計算の経済性等の合理的な理由から、複数の工事を1

     件の原価計算対象とすることも許される。しかし、少なくとも公共工事と民間工

     事の別、元請工事と下請工事の別は峻別されなければならない。さらには、異な

     る受注であるものについては、土木工事、建築工事、設備工事、専門(職別)工

     事の別を区分することが望ましい。

   (3) 建設工事原価計算のシステムは、制度として定義したごとく、予算原価計算と

     実際原価計算とが常に項目別に対比できる仕組みを有しているものを意味する。

   (4) 建設工事原価計算は、原則として、月次で計算・集計されるものとする。

5.建設工事原価計算の種類

 A.予算原価計算と実際原価計算

      予算原価計算とは、各工事別の実行予算作成時に見積計算する原価計算をいう。

    ただし、個別の工事を構成する諸活動に対して設定される標準的原価を活用する

    原価計算も予算原価計算に含まれる。

      実際原価計算とは、工事の進捗とともにまたは工事の完了時に実費計算する原

    価計算をいう。ただし、計算の迅速性と適正性を確保するために予定価格計算を

    挿入する場合であっても、実績工事原価の把握を目的とするものは、この実際原

    価計算に含まれる。この場合、原価差異は、後述する適切な方法によって処理さ

    れなければならない。

 B.工種別原価計算と形態別原価計算

      純工事費を工事種類別(工種別)に把握する場合、これを工種別原価計算とい

    う。また、純工事費を材料費、労務費、機械費、経費、外注費のように区分して

    把握する場合、これを形態別原価計算という。

      経営内部の原価計算目的にとっては、いずれの原価計算の結果を報告書として

    まとめるかは、当該企業のニーズに委ねられるものであるが、企業外部に公開す

    る原価報告書としては、各々に特殊性をもつ工事をひとつの概念でまとめるため

    に、原則として、形態別原価計算の結果を集計するのが適切である。したがって、

    形態別原価計算は、いずれの建設工事原価計算においても採用されていることが

    望ましい。

6.建設工事原価の区分

    建設工事原価を純工事費(直接工事費と共通仮設費)と工事管理費に区分するこ

  とは、予定原価計算においても実際原価計算においても採用されるべき原価区分で

  ある。

    純工事費を形態別に集計する場合は、原則として、材料費、労務費、機械費、経

  費、外注費の5つに区分する。

    予算原価計算では、純工事費は、主として工事種類別(工種別)に把握されるが、

  工事の内容によっては形態別に区分されることもある。実際原価計算では、純工事

  費は実行予算の編成に対応するように集計されるが、最終的には形態別に区分され

  て把握される。

    また、工事関係諸費を建設工事原価に含める場合には、これらは純工事費、工事

  管理費と峻別して把握されなければならない。

    以上の原価区分を一表に示すと次のようになる。

std-field.gif (5386 バイト)

   ここに示す各原価項目の建設工事原価に占める比率が重要性をもたないほどに僅

少である場合は、当該項目を区別把握せずに、他の適切な項目に合算して測定する

ことができる。

 

第2章  実際工事原価の計算(1) -純工事費の計算-                   

1.材料費の計算

    純工事費としての材料費を形成する材料とは、建設工事の目的物を生産するため

  に直接的に必要となる物品をいう。一般的には、建設工事のための鉄筋・木材・コ

  ンクリート等の主体材料をいうが、その他、主体材料を使用する工事に付随的に必

  要となる釘、結束線等の部品を含む。したがって、材料は、主体材料と付随部品か

  ら成る。

    建設工事における材料の購入から消費にともなう費用を材料費という。

  (注)この基準では、仮設工事に係る物品の損耗額を材料費としないことにしている。

 A.材料費の基本的な計算

  (1) 材料は、一般的には、個々の工事を特定して調達されるものであるから、原則

    として、購入・受入れと同時に当該工事の建設工事原価(材料費)に算入する。

  (2) 材料については、原則として、工事現場においてその数量管理をするために材

    料台帳を作成し計算・管理する。ただし、購入即消費される材料で、原価管理台

    帳等により管理可能なもの、または金額的に重要性のないものについては、当該

    台帳の作成を省略することができる。

  (3) 常時備え置いて現場に投入する材料がある場合については、購入時には資産

  (材料貯蔵品)として処理し、建設工事のために使用する都度、これを建設工事原

    価に振り替えて材料費とする。この場合、材料元帳を作成し計算・管理する。

  (4) 工事に使用しなかった再利用可能な材料(残材という)が発生した場合は、適

    切な方法によりこれを評価して工事原価から除外し、資産(材料貯蔵品)として

    計上する。

 B.購入付帯費用の処理

  (1) 材料の購入活動にともなって企業外部に支払いの発生する手数料・引取運賃・

    保険料等の材料購入の付帯費用は、これを当該建設工事の材料費に含める。また、

    常時備え置いて現場に投入する材料に係る付帯費用については、材料貯蔵品に含

    める。

  (2) 複数の建設工事に共通的に発生する購入付帯費用は、購入した材料の代価等を

    基準としてこれを各材料費に配賦する。

2.労務費の計算

    純工事費としての労務費とは、建設工事の目的物を生産するために、直接的に消

  費される労働の対価たる費用をいう(外注費として処理されるものを除く)。ここ

  にいう労働の対価とは、時間等の測定に基づく賃金、週や月のような期間によって

  支払われる給料、契約等に基づく報酬などの、支払いの形態の相違によってその意

  義を異にするものではない。

    労務費は、一般的には、建設の主体的な工事に係る労務費(主体工事労務費)を

  いうが、その他それらの工事を支援するために仮設的に実施される工事に係る労務

  費(仮設工事労務費)を含む。

 A.労務費の基本的な計算

  (1) 労務費は、原則として、個々の建設工事を構成する工事種類別(工種別)に、

    各々の労働の対価を集計し、当該工事の建設工事原価(労務費)に算入する。

  (2) 予算原価計算において工種別と異なった区分を採用している場合には、その区

    分にしたがって実績労務費を把握するが、それらの区分把握が原価管理上の意義

    を有しないものについては、実績労務費は建設工事別に集計することで足りる。

 B.工事共通労務費の処理

      建設工事に共通的に発生する労務費は、労務作業に関わった時間等の適切な基

    準に基づいて各工事に配賦する。

 C.法定福利費の処理

      主体工事及び仮設工事の労働の対価に付帯する健康保険料・厚生年金保険料等

    の法定福利費(労災保険料を除く)は、ここにいう労務費に含める。

 D.賞与の処理

      賞与は、原則として、年間支給見込額を合理的に見積もり、各工事に配賦する。

    ただし、当該処理を実施しない場合には、期末にその支給総額を一括して完成工

    事原価と未成工事原価に配分することができる。

 E.予定賃率による計算

  (1) 実績原価としての労務費を計算する過程において、労務費の管理等の目的のた

    め、労務単価を内部的にあらかじめ定めた単価(予定賃率)によって計算するこ

    とができる。

  (2) 予定賃率による労務費の計算を実施した場合は、適切な時点で原価差異(労務

    賃率差異)を算出しなければならない。

  (3) 労務賃率差異は、原則として、関係した建設工事原価に配分する。僅少な場合

    には、会計期間中の完成工事原価として処理することができる。

3.機械費の計算

    純工事費としての機械費とは、建設工事の目的物を生産するために直接的に必要

  とされる機械あるいは工具・器具・用具の使用による損耗分並びに保有に付帯する

  費用をいう。機械費として処理する機械等(以下、「機械」という)には、クレー

  ン等の建設機械(運搬機能を付設したものを含む)、ドリル等の工具・器具・用具、

  仮設工事に使用する仮設資機材がある。ただし、もっぱら現場への人員の移動に係

  る運搬を目的とする車両運搬具はこれに属さない。

 A.機械費の基本的な計算

  (1) 機械費は、その取得形態を問わず、個々の建設工事において使用された程度に

    応じてその損耗分を集計し、以下の区分に従い当該工事の建設工事原価(機械費)

    とする。

  (2) 購入等によって取得した機械については、その減価償却費、維持修繕費用、当

    該資産の保有に課される租税公課、保険料を集計し、当該建設工事に使用された

    程度(日数、時間等)に応じて機械費とする。

     なお、その取得にともなって企業外部に支払いの発生する手数料・引取運賃・

    租税公課・保険料等の付帯費用は、当該機械等の取得価額に算入する。

  (3) リース、レンタル等によって賃借する機械等については、当該賃借料(維持修

    繕費用を含む)を当該建設工事に使用された程度(日数、時間等)に応じて機械

    費とする。

  (4) 資産として計上しなかった消耗的な工具・器具・用具については、これを機械

    費とする。

 B.工事共通機械費の処理

      建設工事に共通的に発生する機械費は、機械作業に関わった時間等の適切な基

    準に基づいて各工事に配賦する。

 C.予定機械率(機械損料)による計算

  (1) 実績原価としての機械費を計算する過程において、機械費の管理等の目的のた

    め、機械単価を内部的にあらかじめ定めた単価(予定機械率あるいは機械損料)

    によって計算することができる。

  (2) 予定機械率による機械費の計算を実施した場合は、適切な時点で原価差異(機

    械率差異あるいは機械損料差異)を算出しなければならない。

  (3) 機械率差異は、原則として、関係した建設工事原価に配分する。僅少な場合に

    は、会計期間中の完成工事原価として処理することができる。

4.経費の計算

    純工事費の経費とは、材料費、労務費、機械費及び次項の外注費として処理しな

  かったその他の純工事費である。本来は、材料副費、労務副費、機械副費等の取扱

  いをして各原価要素に加算されるべきものではあるが、その発生態様や金額の重要

  性を判断して材料費、労務費、機械費に算入しなかったものが主体となる。具体的

  には、機械の稼働に要する動力・燃料関係費用、労務作業の円滑な管理に係る諸費

  用、材料の運搬・現場保管に伴う諸費用等をいう。

 A.経費の基本的な計算

  (1) 個々の工事別に支払いの発生する経費は、その支払うべき金額を当該工事の建

    設工事原価(経費)とする。

  (2) 保険料・租税公課などのように、会計期間における総額が先に計算されるよう

    な場合は、原則として、その1か月分を月次の原価計算に算入する。

  (3) 労務作業に従事する者に対する退職給付関係費用は、当該工事に属することが

    明らかなものについては、当該工事の建設工事原価とする。

     工事間に共通すると判断されるものは、次項Bによって配分賦課するが、その

    いずれもが不明な場合には、販売費及び一般管理費として処理する。

 B.工事共通経費の処理

      建設工事に共通的に発生する経費は、適切な基準に基づいて各工事に配賦する。

    この配賦基準には、機械の稼働時間・燃料の使用量・労務人員・材料費額等があ

    る。

5.外注費の計算

     純工事費としての外注費とは、工事の工種あるいは工程の一部を外部の建設工事

   業者に発注して実施させた場合、その契約等に基づく支払額をいう。

  A.外注費の基本的な処理

   (1) 一般的な外注費は、契約等により支払うべき事実が到来したとき、その金額を

     当該工事の建設工事原価(外注費)とする。

   (2) 主体材料の購入を含めた外注工事については、原則として、材料購入原価を材

     料費、作業に係る支払金額を外注費として区分して処理する。ただし、この材料

     費として処理すべき部分が当該外注費の総額のうち相対的に重要性をもたないと

     判断される場合は、この支払金額のすべてを外注費として処理することができる。

   (3) 主体材料、付随材料の区分にかかわらず、材料そのものの加工に係る外注作業

     は、ここにいう外注費に含まない。このような外注作業費は、材料費として処理

     される。

   (4) 労務作業の提供を受けることを主たる目的として他者へ発注する場合は、これ

     を他の外注費と区別(たとえば労務外注費)して処理する。

 

第3章  実際工事原価の計算(2) -工事管理費、工事関係諸費の計算-                    

1.工事管理費の意義

    建設工事原価の工事管理費とは、建設工事の純工事を適切な技術水準を保持しな

  がら円滑かつ効率的に、また安全な環境のなかで遂行するために、工事全般をマネ

  ジメントするための諸費用をいう。具体的には、建設工事の技術管理費、施工管理

  費、安全管理費、労務管理費、事務管理費等から成る。

 A.工事管理費の基本的な処理

  (1) 工事管理費は、上記のような機能を遂行するために発生するものであるから、

    純工事費や一般管理費と明確に区別して把握しなければならない。

  (2) 個別の建設工事に関係する諸費用ではあるが、これまで述べた純工事費、ここ

    にいう工事管理費に所属しないもので建設工事原価算入しようとするものは、後

    述の工事関係諸費として処理し、この工事管理費との曖昧な混在を避けるように

    努めなければならない。

  (3) 工事管理費は、形態別にその内容を示す適当な科目によって処理する。具体的

    には、給料手当、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、租税公課、

    保険料等の区分によって整理する。

2.工事関係諸費の意義

    一般的には、建設工事原価は建設業法に規定する建設工事に係る原価と定義し、

  純工事費と工事管理費によって構成されるものであるが、その他当該個別の工事と

  の関係を明確に認識することができ、かつ当該工事の収益によって直接的に負担す

  ることが妥当であると判断できるものについては、建設工事原価に含め工事関係諸

  費として処理する。

    建設工事原価に含まれる典型的な工事関係諸費には、次のようなものがある。

    イ.設計料  建設物の設計業務は、建設工事の遂行に不可欠なものである。

                自社の設計部門を利用する場合、あるいは他者へこれを外注する

                場合のいずれも、ここにいう設計料とする。

    ロ.保証料  公共工事の資金調達のために前払保証会社を利用した場合、そ

                の保証料は本来的には財務に関する費用として営業外費用として

                処理するものであるが、工事との個別性が確かなために工事関係

                諸費とすることができる。

    ハ.受注活動費 工事を受注するために発生する費用は一般的には営業費(販

        売費及び一般管理費)と理解されるが、特定の工事について発生

        した費用はこれを工事関係諸費に含めることができる。

  ニ.補償費  やむを得ない状況によって他人もしくは他人のものに損害を与

           えたことによる補償に関する諸費用については、これを工事関係

           諸費に含めることができる。ただし、異常な状態を原因とするも

           のは除く。

 A.工事関係諸費の処理

 (1) 工事関係諸費として処理すべき費用が発生した場合は、当該工事との個別性に

    十分留意して、本来の建設工事原価と明確に区別して把握する。

  (2) 原則として、支払うべきあるいは支払った金額によって計上するものであるが、

    企業内部において発生したこのような諸費は、適切な区分計算によって当該建設

    工事に賦課すべき金額を査定する。

 

第4章  実行予算による原価管理                       

1.実行予算による原価管理の意義

    本基準の「建設工事原価計算制度」とは、受注した個別工事に適用される予算原

  価計算と実際原価計算とを、会計組織上有機的に結びつけて常時継続的に運用され

  る原価計算をいうものである。したがって、このような原価計算の過程においては、

  まず受注した個別工事について適切な目標管理に役立つ予算を設定しなければなら

  ない。建設工事の場合、受注段階で収益額が確定しているため、この予算の意味は

  ほぼ工事原価に関するものとなる。建設工事原価計算制度における予算とは、この

  ような原価に関する実行目標値たる実行予算をいう。

    建設工事原価計算制度において、実行予算を設定することは、受注した個別工事

  の原価を望ましい水準に維持するとともに、さらに厳しい水準に原価を縮減する努

  力を促進するための原価管理のために実施される。

    このような各々の工事原価管理に関する情報は、データベース化しその後の受注・

  積算・施工等の基礎資料として有効に活用されるべきものである。

2.実行予算による原価管理の基本原則

  (1) 建設業において工事を受注した場合、原則として、そのすべてについて実行予

    算を設定する。

  (2) 実行予算は、純工事費、工事管理費、工事関係諸費の区分に基づいて設定され

    なければならない。

  (3) 設定された実行予算は「工事原価管理台帳」に記帳するとともに、工事をコン

    トロールする責任ある者に充分周知されなければならない。

  (4) 工事原価管理台帳は、原則として、実行予算と対応する実績原価が対照的に記

    入され、随時、予算の消化程度、工事に関する効率や能率が判定できるものでな

    ければならない。

  (5) 当初設定した実行予算は、原則として、当該工事の完了まで変更しない。ただ

    し、設計変更等明らかに工事の実行内容に変更があった場合には、当初設定した

    実行予算を直接修正するのではなく、追加実行予算を新たに作成し修正実行予算

    とすることが必要である。

  (6) 実行予算は、工事原価管理台帳において実績原価と対比され、その差異が明示

    されなければならない。

  (7) 予算と実績の差異は、単に設定した項目別の差異を明示するだけでなく、その

    差異を発生させた要因の別に分析・把握されなければならない。

3.予算設定上の細則

  (1) 純工事費は、一般的には当該工事を完了させるために必要となる各種の工事種

    類(工種)別に編成するものであるが、工事の特性に応じて形態別等その他の区

    分によって設定することができる。

  (2) 純工事費は、原則として、個々の要素につき数量(消費量、作業時間、作業面

    積等)と価格(購入単価、賃率、損料等)を見積もることによって算出する。こ

    の場合、作業を標準化できるものについては、達成目標となる標準原価を設定し、

    その原価能率の向上に資するよう実施されることが望ましい。

      また、特定の要素と比例的に発生すると予想される項目については、一定率を

    乗じて算出することもできる。

  (3) 工事管理費は、原則として、必要とされる機能の別に見積もり計算する。

     純工事費総額あるいは純工事費の一部金額と比例的に発生すると予想される場

    合には、一定率を乗じて算出することもできる。

     なお、工事管理費に係る人件費については、一般的には工事管理全体に投入す

    る人員の給料手当等を積上計算する方法を採用する。

  (4) 工事関係諸費は、個々の項目を個別的に見積もる方法によって計算する。

4.工事原価管理報告書の作成

    実行予算と実績原価を対照する方式の原価管理の実践は、原則として、月次の

  「工事原価管理報告書」にまとめられ、工事管理関係者に報告されるものである。

    工事原価管理報告書の形式には、次のような内容を明示するものであることが望

  ましい。

    ア.当初設定した実行予算と実績原価の累計額を対比して、予算の消化程度を把

      握する。

    イ.工事の目的物が形として確認できる出来上がった部分(出来形)を基礎にし

      て算出した原価と実績原価を対比して、工事原価能率を逐次把握する。

    ウ.工事の進捗状況に対応した工事収益(出来高)と実績原価を対比し、当該工

      事の収益性を逐次把握する。

    以上のような内容を、「工事原価管理報告書」に具体的にどのようにして表示・

  報告するかについては、個々の企業もしくは工事の状況や特性によって工夫される

  べきものである。

 

第5章  完成工事原価報告書                          

1.完成工事原価報告書の意義

    建設業においては、決算として工事収益を確定し、これと工事原価を対比して、

  工事総利益を計算・開示しなければならない。工事収益の確定方法には工事完成基

  準と工事進行基準とがあるが、いずれの場合においても工事原価の明細を表示する

  原価報告書を作成しなければならない。

    ここにいう「完成工事原価報告書」とは、特定の会計期間において収益に計上し

  た工事収益に対応する工事原価を総括的に明細表示した報告書をいう。別言すれば、

  企業外部に報告される財務諸表の明細書としての「完成工事原価報告書」をいう。

2.完成工事原価報告書の様式

  (1) 完成工事原価報告書は、原則として、次の様式によって作成される。

    cost-repo-form.gif (8412 バイト)

 

  (2) 純工事費については、1〜5のいずれの項目にあっても、この記載を省略もし

    くは他の項目への算入をすることはできない。

  (3) 工事管理費のうち人件費とは、給料手当(役員報酬であって工事管理費とした

    ものを含む)、法定福利費、賞与をいう。

  (4) 工事関係諸費の金額が相対的に重要性をもたない場合は、これを工事管理費に

    算入し、Uは工事管理費他として記載することができる。

                                                                          

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