知っておきたい電子入札・電子納品ABC
第2回 電子入札・電子納品への準備(基礎知識編2)
 公共工事の受発注に,インターネットを使って行う「電子入札」が導入され,本格普及が始まった。昨年11月に,国土交通省の直轄工事を対象に始まった電子入札は,今年3月までに計画通りに約100件の直轄工事に適用。今年度は適用範囲を一気に2000件に拡大するほか,今年6月には地方自治体向けにも電子入札コアシステムの提供が開始される予定だ。
 政府が推進するe-Japan計画も加速・前倒しが決まっており,地方自治体も含めて予想以上に速いスピードで,電子入札の普及が進む可能性が高まっている。公共事業に関わる建設会社,設計・コンサルタント会社などにとって,電子入札への対応は,待ったなしの状況だ。


動き出した電子入札


 昨年11月13日,東京・霞が関の国土交通省で,扇千景大臣自らパソコンを操作し,国土交通省としては初の電子入札が行われた。約1か月前の10月1日から電子入札システムによる参加手続きが開始され,記念すべき第1号案件は中部地方整備局発注の公募型指名競争入札案件の「東海環状中屋敷高架橋上部工工事」に。翌14日には東北地方整備局でも開札が行われ,順次,各地方整備局でも電子入札が導入されていった。
 電子入札元年となる平成13年度(2001年度)は,ほぼ半年間に比較的規模の大きな直轄工事を対象に100件で電子入札を行う計画を打ち出していたが,今年3月までに97件とほぼ計画通りの件数を実施。パソコンなどのトラブルが発生した案件もあったが,大きな混乱もなく,基盤となる電子入札システムそのものは非常にスムーズに立ち上がったと評価されている。


加速・前倒しされた導入計画


 政府は現在,わが国の重要政策課題のひとつとして「e-Japan計画」を積極的に推進している。2000年秋に「2005年度までに世界最先端のIT国家の実現をめざす」との基本戦略が打ち出され,2001年春のe-Japan計画では「ブロードバンド化の推進」「電子政府・電子自治体の実現」など5つの重点計画が策定された。
 公共事業を含めた政府調達の電子化も,もちろん重点計画「電子政府・電子自治体の実現」の中の重要な柱に位置付けられている。
 実は,国土交通省が電子入札を導入する直前の昨年10月に,政府はe-Japan計画の加速・前倒しを行うことを発表した。電子政府・電子自治体関連の施策の多くも,当初のスケジュールから1年程度,前倒しして実施する方針を決めたのである。
 この政府の方針に沿う形で国土交通省でも,電子入札の適用拡大ペースを1年前倒しすることを決定。直轄工事約4万件の全てに電子入札を適用する時期を,当初計画の2004年度から2003年度にすることを決めた。もう1年後の来年度には,全ての直轄工事で電子入札が実施されることになったのである。


CALS/ECと公共事業改革


 「電子入札」は,国土交通省が推進する「CALS/EC」(日本語名称・公共事業支援統合情報システム)の一環として導入準備が進められてきた。96年にはCALS/ECの基本構想がまとめられ,公共事業の円滑で効率的な執行を通じて公共工事の品質の確保・向上とコスト縮減を図ることを目的にシステム構築が進められてきた。
 その後,電子入札にはもうひとつの目的が加わった。“公共事業改革”を担う重要なツールと位置付けられるようになったのである。
 2000年に表面化した公共事業の受発注を巡る不祥事に対応するため,国土交通省は,公共工事の入札及び契約という大切なプロセスを透明にする目的で「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」を制定し,2001年4月から施行した。
 この法律では次の4つの基本原則を明示している。
 1 透明性の確保
 2 公正な競争の促進
 3 適正な施工の確保
 4 不公正行為の排除の徹底
 法律の施行で,公共事業改革に向けた制度面や事務手続き面で準備が完了。引き続き,インターネットを利用した電子入札を,技術面や事務手続き面での切り札として,導入・普及を推進することになったのである。


電子入札の効果

◎CALS/EC
 日本語名称は「公共事業支援統合情報システム」。
 最初にCALSという言葉が登場したのが,旧・建設省が95年5月に発足させた建設CALS/EC研究会。当時,CALSは,統合情報生産システムの略称から取った名称だったが,電子商取引を意味するECと結合。英語名称はその後何度か変更されて,現在は「Continuous Acquisition and Life-cycle Support」を意味している。
 2001年1月の国土交通省発足で,旧・運輸省系の港湾CALS,空港施設CALSと統合され,“建設”が取れて「CALS/EC」となった。
 国土交通省では,電子入札の導入によって次のような効果を期待している。
1) 競争性の向上=情報が入手しやすくするため入札参加希望者が増え,海外を含めた技術提案を受けやすくなる。
2) コスト縮減=受注者の移動や書類作成の費用が削減される部分だけで国土交通省の直轄工事だけで年間約260億円,地方公共団体などを含めると年2,000億〜3,000億円のコスト削減が見込める。
3) 事務迅速化=自動処理によって重複入力などの事務負担が軽減。
4) その他=紙資源,人・ものの移動によるエネルギー消費の軽減。
 現時点では,コスト削減の見込み額には,競争性の向上に伴う効果を盛り込んでいないが,いずれは電子入札によってコスト競争が活性化することになるだろう。


動き出した地方展開


 国土交通省が構築した直轄工事向けの電子入札システムは,運用が開始されて半年が経過し,順調に稼動を開始。あとは対象工事の適用範囲を拡大していくだけとなった。
 今後の焦点は,電子入札が地方公共団体などにどのように導入・普及していくかだろう。地方の中堅・中小業者にとっては,直轄工事より,むしろ地方公共団体などへの電子入札の普及状況が気になるかもしれない。
 国土交通省の委託で電子入札システムの開発を進めてきた外郭団体の日本建設情報総合センター(JACIC)と港湾空港建設技術サービスセンター(SCOPE)は,地方への電子入札の普及を図るために,今年に入って電子入札システムの大幅な見直しを実施した。
 
 今回の見直しは,国土交通省の電子入札システムをベースに開発することになっていた地方公共団体向けの「電子入札コアシステム」のアーキテクチャーや開発体制,さらにシステム提供費用など多岐にわたる。昨年11月に国土交通省の電子入札システムは運用を開始したばかりにも関わらず,見直しを決断した素早い対応振りから地方への普及に向けた並々ならない意欲が伝わってくる。 ◎アーキテクチャー
 コンピューターソフトウェアの基本設計概念の意味。
 国土交通省では,直轄工事への電子入札導入のメドが立った昨年春に「CALS/EC地方展開アクションプログラム(全国版)」を策定。地方公共団体などの公共工事(年約40万件)向けの「電子入札コアシステム」を開発するため,JACICを事務局に,昨年7月にNEC,富士通などのITベンダー10社を正会員に,地方公共団体を特別会員とした共同開発組織「電子入札コアシステム開発コンソーシアム」を発足させた。
 しかし,昨年11月に国土交通省向けシステムの運用が開始されると,コンソーシアムに参加した地方公共団体などからシステムの問題点を指摘する声が浮上してきた。電子入札コアシステムのベースとなる国土交通省向けシステムが「地方公共団体が利用するには重過ぎて使いづらい」とか,「導入費用が高すぎる」といった厳しい批判も出されてきた。
 さらに,技術革新の激しいIT分野において,JACICを中心に開発された電子入札システムが,価格や性能などの面で果たして最適なものと言えるのか。最先端技術へのアップデートも適切に行えるかどうか。そうしたいろいろな課題が指摘されたのである。


■CALS/EC地方展開アクションプログラム(全国版)における年次計画の目安
CALS/EC地方展開アクションプログラム(全国版)における年次計画の目安

■電子入札システムの2大要件(本人性と公正性)
電子入札システムの2大要件(本人性と公正性)
●本人性: 電子署名及び認証業務に関する法律に基づかないシステムの場合は,カギの所有者が受注者本人だけとは言い切れません。
●公正性: 発注者が事前に入札書を開封できるようなシステムでは,電子入札による官製談合があり得ます。例えば電子投票システムがブラックボックスでは有権者に信頼されないように,電子政府では「新たな説明責任」としてシステムの内容の公表が求められます。また,公表により特定ITベンダーによる独占を回避し,競争原理による合理的なシステム整備が可能になり一石二鳥です。


マルチプラットフォームの採用


◎電子入札コアシステム開発コンソーシアム

 2001年7月に,地方公共団体向けの電子入札システムを開発する目的で設立。総合ITベンダー10社が正会員として参加し,ソフトハウスなどが賛助会員,地方公共団体が特別会員として参画している。正会員は,NTTデータ,日本ユニシス,ダイテック,日立製作所,東芝,富士通,日本IBM,NEC,富士電機,三菱電機。特別会員は,今年3月に東京都が参加することが決まり,47都道府県が全て参加することになった。
 電子入札コアシステム開発コンソーシアムでは,そうした会員の声をもとに検討を行った結果,国土交通省システムは,サーバのOS(基本ソフト)をUNIXに限定してCGIを利用しているため,今後の技術革新への追随が困難,汎用性の高いインターフェースの提供も難しい, クライアント側もJavaアプレットが大型化してシステムが重たくなっている―と結論付けた。
 電子入札コアシステムでは,国土交通省向けシステムのアーキテクチャーをそのまま利用するのを取りやめ,新アーキテクチャーに切り替えることにしたのである。
 
 新しいアーキテクチャーの最大の特徴は,OSを従来のUNIXのほかに,Linux,ウインドウズNTを加えたマルチプラットフォームとした点だ。
 UNIXベースでは,システム開発コストを下げるのにも限界があり,地方公共団体向けには安い費用で導入できるプラットフォームを用意する必要があると判断したからだ。
 さらにサーバ部分のアーキテクチャーに“フレームワーク”という考え方を取り入れて,地方自治体が必要に応じて改良を加えやすいカスタマイズ部分(バウンダリ層)と,バウンダリ層に影響を与えずに機能強化などを行うことが可能なコア部分(ビジネスロジック層)に分割。これによって,各地方公共団体のニーズにあわせてカスタマイズ(改良)しやすい構造となった。


システム提供価格の引き下げ

◎プラットフォーム
 アプリケーションソフトを動作させる基盤となる基本ソフトの種類,環境,設定などをプラットフォームと呼ぶ。
◎マルチプラットフォーム
 複数のプラットフォームに対応したソフトウェアをマルチプラットフォーム対応と言う
 電子入札コアシステムは,新アーキテクチャーの採用によって提供価格が大幅に引き下げられることになった。政令指定都市以外の大多数の市町村への提供価格は,わずか500万円。都道府県レベルでも1,500〜2,000万円という水準に設定されたのである。
 しかも,都道府県と市町村が共同利用する場合には,さらに有利となる。例えば,人口が500万人未満の県が,県下の10の市町村を共同利用する場合,県の分の1,500万円に,1市町村分の500万円をプラスした2,000万円だけ。県下の全ての市町村が共同利用しても2,000万円で済むという価格を設定したわけだ。
 さらに,3年間の無償バージョンアップに加えて,年間保守料金も提供価格に対して年率15%程度をめざすことを決めた。提供価格が2,000万円であれば,保守料金はわずかに年300万円という計算となる。
 現行の国土交通省システムをそのまま流用する当初計画では,県と14の市がそれぞれに電子入札システムを導入した場合,5年間に要する費用を年平均したもので約19億円の費用がかかると試算されていた。
 また,県と14の市が個別にシステムを導入するのではなく,共有サーバを設置して利用する場合でも,年平均約5億円と試算されていたが,それに比べても劇的に提供価格が低下したことは間違いない。
 年間の発注工事金額が数億円〜数百億円レベルの市町村に電子入札システムを普及させていくには,電子入札の経費だけで年間数千万〜数億円ではやはり高すぎるだろう。今回の500万円という価格設定であれば,十分に導入可能な水準であり,高く評価できる。


■一般競争入札処理イメージ図
一般競争入札処理イメージ図


今後の普及見通しは?


 国土交通省では,2010年度までに地方公共団体などを含めて全ての公共事業で電子入札を導入する計画を打ち出している。全てに適用するのは,まだ8年後ということになる。
 しかし,今回全面的に見直しを行った電子入札コアシステムは,今年6月には,UNIXを採用したサーバ標準プラットフォーム版がリリースされる予定だ。マルチプラットフォーム対応によるLinux版,ウインドウズNT版のリリースも2003年度に予定されている。
 つまり,地方公共団体にとって,2003年度には電子入札システムの導入費用も一気に低下する見通しとなったわけで,そうなれば地方でも電子入札を導入する気運が大いに高まるのは間違いないだろう。先行する地方公共団体では,6月にリリースされるUNIX版をベースに検討を進め,来年度予算で導入経費を計上し,来年度には電子入札をスタートするところも出てくるかもしれない。
 電子入札の普及は,直轄工事だけでなく,地方を含めて予想以上に早まる可能性も出てきていると言えそうだ。