知っておきたい電子入札・電子納品ABC
第10回 CALS/EC後の業務
 前回まで電子入札・電子納品について,受注者が現時点で必要な対応などについて述べてきたが,今回は改めて“CALS/EC後”の実務の変化,特に施工サイドの現場管理業務,受注活動業務の変化,課題についてより具体的なケースを想定して整理し,それらを踏まえて企業としての必要な対応について述べていきたい。  
施工現場での実施

 施工現場での実業務の変化についてまず言えることは,日常の記録作成のすべてが,電子納品を前提としたものになることである。電子納品すべきものに含まれるものには,工事施工前の計画書,日常各段階での施工者との協議事項の記録,また工事の成果物としての各種出来形管理記録(成果表,出来型図……)(現状では工事検査直前に作成されていることも多いかもしれない)などすべての業務がデジタル上で行われていくことになる。
 現場での,工事受注から竣工・検査・引渡しまでに必要となる業務について以下何点かピックアップして考えてみたい。

1.計画書
 これまで施工計画書については,各発注者とも共通仕様書の中で必要記載項目について列記されており,各施工者がそれに対応したものを作成し最終的に紙ベースで提出されているが,現状でもすべて手書きで作成しているということは少ないのではないだろうか。
 企業によっては,既に社内で発注者ごとに雛形となる様式をワープロソフトあるいは表計算ソフトなどで作成していることもあるかもしれない。各現場ではこれらの様式の中にいかに必要となる情報を貼り付けていくか,という作業になろう。計画書に記載すべき情報は,設計書・発注図面に記載されたデータが数多くある。それらをいかに効率的に活用するか。簡単にいうと,設計書・発注図面にある情報は,要領よくコピーアンドペーストで引用できればいいのである。そのためには,基となる設計書・発注図面のデータ形式に柔軟に対応できる能力が作成者に必要となる。数量データであれば,いったんCSVファイルのような中間形式ファイルに落として,その上で計画書内の所定表に貼り付ける(ペースト)ということを,各現場員が臨機応変にできることが期待される。図面データであれば,発注図面の中から一部分を切り出して,仮設設備を追記して貼り付けたいということがあるだろう。その際に,CADデータにレイヤーを追加し仮設計画図をつくり必要部分をトリミングして貼り付けるといったこと,ラスターデータの図についても,部分的にトリミングして,たとえば強調の矢印を入れたい,といった際にどうすればよいか,といったこと,いわばパソコン上の汎用の技術について各現場員が対応できる能力が必要である。
 各現場員にとってワープロソフト,表計算ソフト,CADソフトなどの個別ソフトの使い方とともに,ファイルの操作などのパソコン上の汎用の技術が重要になってくる。
 外注した専門工種の部分については,工種別計画書として別添することがある。この際に,専門工事業者から紙媒体でしか入手できないとすれば,総合工事業者としては,場合によってはスキャニング……といった作業が生じてしまう。元請工事業者だけでなく,下請けとなる専門工事業者としても,デジタルデータで工種別の計画書を作成することも必要となる。
 他の書類一般にもいえることであるが,パソコン上で書類を作成する際に問題となるのは,必要以上に体裁にこだわりがちになるということがある。現段階では計画書などもあくまで紙への印刷イメージを残してページレイアウトを気にして作成することになるが,内容を伝えるデータということを意識する必要があろう。
 この工事独自の工法を明確にするということは重要な意味をもつ。しかしそれを見栄えよく作成するということとは別次元である。見栄えをよくすることにとらわれて一部分の図の作成に労力を割くということは本末転倒である。より本質的な作業,施工計画の“検討”,工法の“吟味”といった本質的な業務に労力を割くことが期待される。

2.発注者との協議記録
 現状,受注から検査引渡しにいたるまで,受注者と発注者サイドとのやり取りは紙ベースで作成され,発注者側の捺印を経て,両者で保管管理される。これらの協議記録の様式についても,各発注者の共通仕様書等に規定されているものである。施工業者によっては,この様式をコピーして手書き記入しているところもあるかもしれないが,各自表計算ソフト,ワープロソフトなどで罫線を作成し,規定の様式の雛形をあらかじめ用意しているところもあると思う。これらの様式については,現在のところ監督員と協議によるとなっている。
(工事完成図書の電子納品要領(案)H13.8)
(現場における電子納品に関する事前協議ガイドライン(案)[土木工事編]H14.2)

(参考)国土交通省 電子部品に関する各種基準
http://www.nilim.go.jp/japanese/denshi/calsec/tekiyou.htm


 CALSへの取り組みにおいて,先行する自治体(たとえば岐阜県)においては,ワープロソフト,表計算ソフトでこれまでの紙への印刷イメージを残した形のファイルを雛形として提供し,これを電子納品する形をとっている。

(参考)岐阜県建設CALS/ECホームページ
http://www.pref.gifu.jp/s11690/calsec/top.htm


 現段階では,電子納品するものは,あくまで副本である元ファイルであり,実際の協議の流れは印刷した紙をやり取りし捺印していく形をとるようである。しかし,協議記録に関しては,記録の管理という側面とともにワークフロー,業務の流れをいかにデジタル化するかという問題でもある。したがって今後メールシステムなど受発注者間で共有サーバーを介して協議事項をやり取りし,記録についてもこのメールの記録を管理するという形になるものと思われる。方法については,共有サーバーの設置あるいは,ASPの仕組みを活用するなどの方法が考えられる。
 また,メール等のシステムを活用することになれば,過渡期的には,現状の書式の添付ファイルのやり取りの形がとられるかもしれないが,将来的には協議の内容をデータ項目化,XMLなどを積極的に活用して管理してゆくということも予想される。

3.工事写真
 写真管理については,デジタル化することによって写真の管理もパソコン上で行われることになる。そのためには写真管理ソフト等が必要になり,これらのソフトは現在も各社からすでに多く提供されている。簡単に考えてしまうと,これらのソフトを活用して記録を管理すればいいということになってしまうが,それ以上に現場管理上重要なことがある。
 現状フィルムカメラで撮ったフィルムについても,現場担当者としては,なんらかのルールに基づいて管理していると思う。たとえば現像前のフィルムの保管場所,工種名等の識別の記入……など。そして現像後の写真の整理についても,整理前のもの,また整理後のもの,と。これら現場担当者であれば無意識に行われている写真の管理について,デジタル上で行う際の落とし穴について言えば,フィルムに比べて,デジカメのメディアに記録されたデータは消失などのリスクが高いということがある。データを日常,いかにバックアップするか。毎日パソコンのハードディスクに取り込むとともに,ファイルサーバーあるいはMOなどの外部メディアにバックアップするなどの方法である。膨大な写真データを,パソコンの画面上で操作し扱うのであるから,これら手順について,現場単位にルールを手順化して実施していくことが必要となる。

4.出来形成果(完成図)
 国土交通省による「工事完成図書の電子納品要領(案)」の中では完成図は“出来形測量の結果,最終的に出来上がった図面を指す”と定義されている。完成図については完成フォルダ図(Drawingf)フォルダの中に格納することとなっているが,その他の出来形関係資料については,打ち合わせの中に含むこととなっている。
 完成図面を作成する作業は,出来形の成果が整理された上でである。竣工間際の現場の作業は,現状でもそうであるが,出来形の測量,成果表の作成,完成図面の作成……といった膨大な作業が集中することになる。この場合,いかに現場担当者間で協調作業が行えるかが重要になろう。
 以上に述べた現場での必要な対応については,(社)日本土木工業協会CALS/EC部会の研究成果の中で,整理されている。現場の担当者にとっては参考になるものである。

(参考)(社)日本土木工業協会CALS/EC部会
http://cals.dokokyo.com/sec_studywg/denshinouhin/nouhin.html


受注関連の業務は・・・・・・
 受注関連の業務についていえば現在,国土交通省発注工事の一部において,電子入札は実施されており,資格申請の電子受付も実施されている。これら資格申請から落札にいたるまでの流れにおいて,指名通知の確認など従来の手順に頼る部分も残っており,電子入札のシステム上はまだ課題が残っているが,ここではシステム上の個々の問題ではなく,企業としての必要な対応について述べていく。

1.電子入札
 電子入札の行為そのものについては,電子認証のシステムへの対応等,受注者にとっては,ややとっつきにくい部分もある。しかし,作業自身は事務的な操作であり,入札システムの操作性については意見はあるものの担当者が一度経験してしまえば大きな問題となるものではないと思われる。ただし,入札担当者のミスが企業にとって重大なミスを招くことは紙の入札のときと同様である。入札時のチェックの仕組み,たとえば入札時には複数の人間でチェックを行うということが必要となるであろう。

(参考)電子入札施設管理センター
http://www.e-bisc.go.jp/


2.入札結果情報の活用
 受注活動業務にとって入札行為の前段階となる入札情報もインターネット上で提供されるが,同時に入札結果についての情報もデータとして公開されることになる。現在,国土交通省の案件に関しては,入札情報サービスにおいて入札結果が公開されているが,今後自治体発注工事についても入札結果がインターネット上で公表されていくことになる。これらは言い換えると,同業他社の受注動向も公開されるということである。企業として受注戦略に活用しない手はないのではなかろうか。電子上のデータは加工が容易であるので,発注者ごとに提供されるデータであってもこれらを取り込んで業者ごとに整理することは容易である。すでに,“入札結果分析ソフト”なるものも公開されている。入札情報サービスなどから提供される情報を,受注戦略へ活用することができるということは,特に中小の建設関連企業の営業活動のあり方を大きく変える要素を含んでいる。

(参考)入札情報サービス
http://www.ppi.go.jp/


3.入札の仕組みの変化への対応
 重要なことは,電子入札の仕組みが整備されることと時期を同じくして従来の指名競争型から公募型,希望型などへ入札の仕組みの多様化が進んでいることである。企業にとって応札機会の増大とともにより積算,自社の施工能力の検討といったことがより重要性を増してくるはずである。
 公共工事の受注について企業を取り巻く現状については,ここで繰り返すまでもないことであるが厳しいものがある。応札価格の決定に際して,市場単価に基づく積算という作業にとどまらず,より実行予算に近い検討が必要となるであろう。具体的に自社であればどれだけの原価で施工できるのかということの検討が必要となってくるはずである。


企業としてのCALSの活用

 
 多くの企業にとって,電子納品に直接対応するのは現場の担当者,電子入札に対応するのは営業担当者ということになろう。しかし,電子データのやり取りが現場・営業といった各部署とそれぞれ外部との対応にとどまっていては,企業にとっては担当者の負荷が増えるばかりで,電子入札・電子納品のメリットはない。
 現場での完成工事電子納品のデータは,発注者に納品するとともに,企業内で別の現場での仕事に活用することは容易に想像がつく。たとえば次年度に同一の発注者から同種の工事を受注した際に,それらのデータを活用して書類作成の効率化ができるのである。また企業内の別の担当者が担当することとなっても,打ち合わせ事項の記録等が整理されていれば,繰り返し問題となる部分を重点的に管理するなど工事管理上も大いに参考になるはずである。
 企業として社内的なファイルの共有の仕組みが必要となろう。また,それらのデータを社内の技術者への教育訓練に活用する社内的な仕組みが必要となる。現在にいたるまで現場の担当者の管理技術については“経験”に頼る部分が大きかった。誰々はこの工種なら任しておいて大丈夫,また,この発注者の仕事であれば彼に……といったことがあったかもしれない。しかし,今後,企業を取り巻く環境が厳しくなる中,未経験の分野であっても仕事をこなしてゆくといったことも必要になってくる。その際に,過去の企業内の工事実績のデータを若手技術者への教育へ活用できる企業と,一個人の経験に頼りきる企業とでは,企業としての能力が大きく差が出てくるはずである。
 電子入札にかかわる部分のデータについても,戦略的に積算時のデータを現場の担当者が確認しながら実行予算作成の参考とするといったことも想定されるが,電子データで作成されたデータを有効に活用するためには,仕組みがなければならない。
 LAN,メールシステムの構築といった仕組みを整備することも重要であるが,それらの仕組みを企業として全社内的に運用するためには,社内ルールづくりが必要となってくる。企業の経営者としては,ハード面の投資とともに社内的に動かしてゆくためのビジョンの策定,実施のルールに関して大事な役割を担うことになる。本連載で繰り返し述べたとおり,経営者として社内の“IT化”に取り組んでいくかということが重要である。
 電子入札・電子納品によって業者側には様々の労力を強いることになるわけだからこそ,発注者側への期待も大きい。社会資本の整備という大きな目的を達成するために,効果的に建設生産システムへの変革へつなげていくためには発注者側の果たす役割が大きい。その意味では,施工業者から納品された完成工事資料がいかに活用されるかということも期待される。単に個々の工事の納品データというだけでなく,同種工事の効率的な進め方,ライフサイクルを見据えた社会資本の整備など,将来的に活用が期待されることには大きなものがある。
 現状では,まず運用上,まず共通仕様書,各種様式などが電子化され提供されることが,早急に期待される。





 
さいごに

 
  CALS/EC後の業務については,いまだ確定しないことも多いが,受注者側,発注者側とも,将来を見据えてCALS/ECに取り組んでいくことが重要ではないだろうか。CALS/ECへのタイムスケジュールにせかされて,いたずらに目の前の情報に踊らされ場当たり的に対処していくのでは,労多くして報われずということになりかねない。業界全体としてよりよい形にもっていくためにも,各関係者がビジョンを持って対応していく必要がある。