建設現場 IT技術活用レポート第6回

(株)アルク綜合設計 イーケンセツ株式会社

お話をお伺いした設計部の阿部秀之氏
▲お話をお伺いした設計部の阿部秀之氏

はじめに

 東京都新宿区にある社員数30名の建築の企画,設計,監理業務及び建築に関するコンサルタントを行う(株)アルク綜合設計。
 これまで千葉県印西市千葉ニュータウン集塵センター新築工事/(学校法人)日本学園中学校新築工事及び高等学校校舎改修工事の設計及び管理,(仮称)さいたまアリーナ/JRセントラルタワーズ新築工事/(仮称)東京スタジアムの設計支援など主に意匠設計から実施設計を行っている。
 10年前からCAD化に取り組み,その結果CADを含めた総合面から協力してほしいということでの物件発注も少なくないそうです。
 設計業務におけるコンピュータの利用と,これからIT化に取り組む企業へのアドバイスを含むお話を,設計部の阿部様に伺いました。


事務所からドラフタがなくなる
 
 入社13年目の阿部氏がCADを使い始めたのは,今から10年ほど前。
 当時,海外でもっとも使われているという理由からAuto CADを選択。8年前から,設計業務のCAD化を行い,ドラフタの代わりにプロッタやプリンタが場所を占めるようになりました。
 「CAD化に対しては当然反発もありました。でも,CADを使うことでの作図の効率化は目を見張るものがありました。繰り返し同じ物を描く場合には,CADを使うほうが断然スピードは速く,他にも,意匠図と施工図をレイヤで重ねあわせることで,計画との違いが一目でわかるというメリットがあります。」
 ところが,手書きの時には指摘されなかった,「全体的に文字を大きくして欲しい」や「記号を10%大きく見やすく」という要望も出てくるようになりました。「手書きなら大変だろうが,コンピュータなら簡単だろう?」という発想からです。
 しかし当時のCADにはそのような機能がなかったため,AutoLispという開発言語を使った自作コマンドで対応していました。さまざまなコマンドを開発し効率化を行った結果,今では離せない道具となっています。
 これまで数々のプロジェクトでシンボルやコマンドを作成してきた経験から,現場や初心者の方にぜひお勧めするのが,市販のCADのアプリケーション。収録されている図面上のさまざまなシンボルには,作図を簡単にする効果があり,共同作業の場合のフォーマット統一もできるので,自作するより効率的で結果的に高い投資効果を得ることができます。

図面データベースの構築

 CAD化開始時から図面データをストックしていて,過去物件の図面データは増改築時や同種の建物に応用しています。
そのため,図面データの検索時間は短縮したい,しかし,開発やソフトにコストをかけたくないということから,市販のデータベースソフトなどを使わずに現在のシステムを構築しました。
1.利用者は,インターネットブラウザ上の検索ページで,プロジェクトのキーワードを入力します。
2.該当する物件名リストから目的の物件を選択します。
3.図面データのプレビュー画面と,ファイル名,作成日などの情報がリストで表示されます。
 プレビュー画面だけでも,ある程度どういう図面かは想像がつきますが,平面図は「H」,詳細図は「S」をつけるといった図面ファイル名の命名規則からも探し出すことができます。
 そして,インターネットブラウザでCADのデータを参照できるプラグインの機能を使い,図面の詳細内容を表示します。
 このシステムは,図面を探す側は,データベースを使っているように見えますが,データ入力の工数はゼロというところがポイントです。システム側で,フォルダ名をプロジェクト名として取得。フォルダ内にある図面データのファイル名リストと,図面イメージデータ(BMP)をブラウザでリスト表示するというものです。(図A・B)

図A 図面リストのプレビュー画面
▲図A 図面リストのプレビュー画面

 

図B エクスプローラーで見るとフォルダに分けられているだけ


▲図B エクスプローラーで見るとフォルダに分けられているだけ

 プロジェクトによって数百枚にも及ぶ図面データのタイトルや作成日などをデータベースに入力するという作業は,年間100物件を超える同社にとって,膨大な作業量になります。この作業を,ファイルリストを取るというコンピュータの持つ機能を使うことで効率的に運用されています。
 今後は,図面データとしてよく利用される,椅子や階段の部品を検索できる機能追加を検討中ということです。
 また,図面データの保管されているMO(電子メディア)の検索サービスも提供しています。物件キーワードを入力すると保管MO番号を簡単に検索できるものです。従来は,あいうえお順のMOタイトルリストから手作業で保管MO番号を探し出していました。このシステムも,EXCELとASP(Active Server Pages)というMicrosoft社から提供されているスクリプト機能を使いシステムを構築しました。この他,EXCEL のVBAというカスタマイズ機能を使った集計フォームを作成し,プロジェクトごとの各個人の作業時間の集計業務を効率化しています。この集計フォームは,設計だけでなくあらゆる業務に利用できるということで,取引先数社にも提供しています。(図C)

図C アルク綜合設計のイントラ画面,図面検索などここから行う
▲図C アルク綜合設計のイントラ画面,図面検索などここから行う

 このように,ソフトウェアの持つカスタマイズ機能とWindowsの持つ機能を最大限有効利用し,コストをかけずにIT化を行っています。もともとコンピュータの専門家は誰もいなかったというアルク綜合設計のスタッフですが,図面すべてのデータ作成に「AutoCAD」,日報の業務管理システムや,図面上の数量計算データ作成に「EXCEL」,インターネットブラウザ「Internet Explorer」,メールブラウザ「Outlook Express」の4種類を使いこなし,打合せのとき以外はパソコンを使って仕事をしています。

コンピュータ化の支援

 CADを使い始めたころ,海外との図面データの交換も行いました。当時は,インターネットもMOもない時代。1枚の図面データを何枚ものフロッピーディスクに分割して保存し,郵送するという苦労も経験しました。
 ネットワークの普及により電子メールにデータを添付して送付することも可能となり,設計業務を効率的に行うために,短期プロジェクトなどでは現場にPCを持ち込んで,ネットワークとサーバーの設置・管理を自分たちで行っています。その結果,プロジェクトに参加した設計会社からコンピュータ導入の相談を依頼されることもあります。
 誰も使える人がなく,ただの箱になってしまっているケースを見ている経験から,「パソコンとソフトウェアをインストールして,最初の導入教育だけをしても使えるようにはなりません。環境だけでなく,教育とパソコンで何ができるかを身近に知る経験が重要です。そのために,パソコンを使う牽引役が一人は必要」とアドバイスする。

 そしてCADを使い始めた阿部氏がアドバイスを求めたのは,すでにCAD化に取り組んでいる人たちでした。そこで活用されたのが,ネットという情報源です(インターネット普及前は,パソコン通信を活用。)。
 「初心者は,掲示板やメーリングリストへの発言を躊躇しがちですが,情報を得るためには参加しないと目的の答えは得られません。ネット社会は善意の人により構成されている社会として捉え,飛び込んでいく気持ちを持って欲しい」。
 その背景には,「人に聞くことで成長する」「インターネットは調べ物に最適な情報の宝庫。たくさんのアイディアを得ることができる」という経験がありました。そして,「自分の得た情報を発信することで新たな展開が得られる」という助言を受けた阿部氏は,これまでに開発したプログラムやイントラ作成のノウハウを個人ホームページに掲載しています。
 最後に阿部氏は以下のことを要望されていました。
情報を正しく得るためには,氾濫する情報をフィルタリングする能力も重要となる。自信のない場合には,ひとまず会員向けに提供されている情報サイトを活用して,信用ある情報を得ることも一つの手段であるが,初心者が知らずにインターネットを利用することで被害を受けることがあるので,そのようなサイトが増えないような規制・制度の充実
情報を正しく得るためには,氾濫する情報をフィルタリングする能力も重要となる。自信のない場合には,ひとまず会員向けに提供されている情報サイトを活用して,信用ある情報を得ることも一つの手段であるが,初心者が知らずにインターネットを利用することで被害を受けることがあるので,そのようなサイトが増えないような規制・制度の充実
CAD図面フォーマットSXF形式に関して,外部参照データが抜け落ちてしまうなど,図面を作成した元のファイルを保存しておかなければならないという,データの二重管理が必要になる点の改善

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