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連携体名 福岡県防水外壁工事業協同組合 事業管理者名 福岡県防水外壁工事業協同組合
所在地 福岡県久留米市 構成員 32社

■屋根、壁の専門工事業者で組織する、多能工化が意識された地域の協同組合
 福岡県防水外壁工事業協同組合(以下「組合」)は、福岡県内にある「屋根」の専門工事業者の組合と、「壁」の専門工事業者の組合が合併し、平成19年に発足した組織である。
 以前は、屋根を専業とする会社と壁専業の会社とが入り乱れて工事をしていた。しかし、屋根の工事と壁の工事には、防水、塗装など、方法や手順に違いはあるものの、作業内容には共通性がある。そこで、同じ職人であれば、お互いの分野の作業を、責任を持って施工できるのではないかとの声が上がり、業界を一つにすることが妥当と判断された。その結果、二つの専門工事業者組合が、一つの組合としてまとまることになったのである。このように、組合はその発足に至ったこと自体が、「多能工化」を意識したものであったという経緯を持っている。
 現在、組合には防水工事、塗装工事、建設工事の建設業許可を持つ32社が加盟している。その顔ぶれを見ると、売上高1億円未満の中小零細企業が少なくない。

■地域の中小建設企業が参加しやすい、地元での多能工育成の取組みを開始
 多能工化の取組みついて、組合は国土交通省を軸とした動きに注目していた。モデル事業として、 (一社)マンション計画修繕施工協会の取組みが採択されており、組合の理事長はこの協会に関与していたことから、自らの会社の社員を静岡県富士宮市にある職業能力開発校、富士教育訓練センターに派遣し、多能工としての技術を習得させる取組みを3年にわたって続けてきた。
 しかし、福岡県の中小建設企業が静岡県に社員を派遣し、教育訓練を受けさせることは、時間、費用のいずれにおいても、関東・東海圏などを本拠とする企業に比べ大きな負担となる。また、一定数の社員がいる会社では、ローテーションによって様々な技能を習得させることも可能だが、小さな会社ではそれができない。
 そこで組合は、地元である筑後地区(久留米・大牟田エリア)の中小建設企業が参加しやすい教育訓練の場づくりを着想し、国土交通省のモデル事業に応募。(一社)マンション計画修繕施工協会の取組みを参考にしながら、組合に加盟する各社が参加する、地元での多能工育成の取組みをスタートさせた。(一社)マンション計画修繕施工協会が行う取り組みは全国的な活動であるが、組合は地方、あるいは県単位の活動があっても良いのではないかと考えた。

■多能工化について理解不足の状況もあり、組合員企業に対し意義の説明等を実施
 組合の事業として多能工の育成に取り組むことを決意したものの、「多能工」の意味や、取組みの意義が分からないという組合員企業は少なくなかった。また、数十年間もその道一筋でやってきたプロフェッショナルである熟練工が、自分の専門以外の職種を習うことを嫌がるという状況もあった。そこで、理事長はじめとする組合運営側が事業の意義を説明。講習内容等を具体的に提示することで理解を得て、取組みがスタートした。

■講習は基本中の基本を学ぶことを優先に、座学、実技指導、現場実習のセットで実施
 平成30年度は、講習対象の技能として高圧洗浄・モルタル補修、及びシーリング・樹脂注入を選定。座学、実技指導、現場実習をセットにした、計4日の講習を実施した。国土交通省の仕様に基づき、工法の基本中の基本を学ぶことを優先して取り組んだ。参加者は17名。職人ばかりでなく、中小零細企業の社長(職人でもある)も数名参加した。
 座学では、工法の理屈を知らない職人に、「何故この材料を選定するのか」、「どのように行うのか」など、材料や工法の基本をまず勉強してもらうことに主眼を置いた。また、多能工になるメリットを理解させるため、理事長自ら講師となって、「防水外壁工事業の職人として仕事をしていきたいのなら、防水と塗装、両方の1級技能士資格を持つと賃金がアップする」など、具体的な説明を行った。
 座学のテキストは、細かな技能やノウハウを学べることにこだわり、組合内で検討して独自に作成した。受講者がそれぞれの会社に戻ってからの復習にも使えるものであり、科学的な根拠、法令等も学べる内容となっている。

■実際の建物を借用し効果的な講習を実現、講師の選定にもこだわる
 次の段階として、実技指導と現場実習を実施したが、事前に事業内容を福岡県に相談していたことから、県が所有する、解体前の教職員住宅(3階建てアパート)を講習場所として借用することができた。講習用に架台等を準備するのは費用がかかり、また、講習は実際の建物で行う方がより効果が上がる。これらの点で、実際の建物を借用できたことは、今回の事業において、大きなプラスとなった。
 講師には、高圧洗浄・モルタル補修、シーリング・樹脂注入などの専門家を、組合の内外から招いた。その選定にもこだわり、地域内や福岡県内から、腕の良い超一流の講師を招いた。その講師の作業を手本として、受講者が実地作業に取り組んだが、自分の専門外の作業経験がほとんどない受講者が多く、初めて手にする道具や、扱ったことのない材料にとまどう状況もあった。だが、現場での作業を通じて、職人がこれまで知らなかった工種の基本的な知識、技能に触れ、体験する機会を得たことで、組合が進める多能工化の取り組みは、次の段階に向け確実に一歩前進した。

■組合内に多能工が増えることで、地域の会社間の協力体制強化も期待される
 次年度以降、組合は外壁工事における塗膜防水及び塗装、鉄部塗装、タイル等、他の工種、工法についても引き続き講習を実施することとしている。また今年度の講習の様子を動画として撮影しており、今後の講習の中で活用していく予定である。
 今回の事業では、受講者に技能検定2級の取得を目指してもらうことを、具体的な取組み目標としている。3年を1クールとして一つの技能を反復して学ばせ、3年目の時点で、技能検定2級を受検させようと計画している。
 組合内で多能工が増えれば、地域の会社間で、多忙時の応援等のための職人の貸し借りがしやすくなる。こうした状況が実現し、地元の人材難解消の一助となることが期待される。

●地元の中小建設企業が組織する組合の事業として多能工化に取り組むことで、各社単独では費用や社員数などの点から困難であった、多能工の育成を可能とした。
●組合内の建設企業に多能工を増やしていくことで、各社の人材不足解消、生産性向上とともに、地域内で人材を貸し借りしやすい、協力体制の強化も期待される。