こんにちは建設マスターさん


建設マスター 第14回受彰者 左官工

八重樫 文司(56歳)さん 東京建材工業(株) (東京都)

 日本の左官工といえば、世界でもトップレベルの技術で知られる壁塗り職人。しかし、最近はそういった高度な技術を発揮する仕事はめっきり少なくなっている。

 「昔は家屋でも蔵でも、漆喰の壁がよく使われていましたから、左官工は鏝波ひとつつけずに塗る技術を基本として身につけなければなりませんでした。鏝波ひとつつけずにピカピカに塗り上げた漆喰の壁というのは、塗ったばかりだと鏡のように自分の顔が映るんですね。その技術が身につくまでに、最低でも20年はかかります」。

16歳で岩手から上京してこの道40年。
「弟子入り1年目は鏝返しの練習、2年目
で材料の配合や混ぜ方を覚え、3年半
から4年目でやっと壁を塗らせてもらえる
ようになった」と語る。
  ところが、最近はタイル仕上げの壁や、鏝波をわざとつける塗り方が主流のため、若い職人が腕を磨くチャンスがずいぶん減ったと八重樫氏は語る。そのような中でも、一昨年は東京ディズニーシーのファサードを造形する仕事が東京建材工業に来た。

 「この仕事は日本全国から腕利きの左官工が集められて、特殊モルタルで自然の石そっくりの壁を造ったり、ギリシア建築の彫刻のような模様まで私たち左官工が造ったんです。1mmでも誤差が生じるとやり直しさせられるという厳しい仕事でしたが、終わった時には外国人の監督さんが『とても素晴らしい』と言って感激してくれました。  

 全日本チャンピオンなんかは桐の箱に入った鏝20本くらいを使いこなし、自分の知らない技術を目の当たりにすることもできたので、とてもやりがいのある思い出深い仕事になりました」。

 また、八重樫氏はビニールクロスずくめの住宅が主流になってしまった現代の日本人に、もっと土壁の良さを知ってもらいたいとも言う。


 「最近はホルムアルデヒドやカビのアレルギーでアトピー性皮膚炎になる人が増えていますが、そういった方は壁に土壁を塗るといいんですよ。土壁はビニールクロスの上から塗ってもきちんと呼吸をしてくれるので、カビが発生しにくくなるんです」。
「ビニールクロスや
タイル仕上げの下地
は、仕上げ技術でカビ
の発生などが変わっ
てくる」という。
マンションの共有廊下の腰壁を仕上げているところ。「最近は
材料も水を混ぜるだけで、塗りの技術もそんなに要求されない
ため、仕事としては楽になった。その分、若い職人が育たない
環境になっているのが寂しい」。
 
 
  資料提供:EAST TIMES 2005年11月号(発行所 東日本建設業保証株式会社)
 
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