知っておきたい電子入札・電子納品ABC
第11回 進めよう!! 中小建設企業のIT化
施工現場での実施

 
 旧建設省は1996(H8)年4月「建設CALS/EC基本構想」を発表,97(H9)年6月「建設CALSアクションプログラム」を策定・公表した。
 公共事業にIT(情報技術)を活用・適用してその根本的な革新を目指す構想であるCALS/ECは,インターネットの驚異的普及(総務省の通信動向調査による02(H14)年3月末現在従業員5人以上の事業所におけるインターネット普及率は68%で前年度比20%の伸び)とFTTH(光ファイバー),ADSLなどによる高速化によってハード,ソフトの秒進分歩とあいまって,その推進の環境が急速に整いつつある。
 01(H13)年1月の国土交通省発足に伴い,同省は建設,港湾,空港のCALS/EC,CALSを総称して「CALS/EC」とし,同年5月「国土交通省CALS/EC推進本部」を設置し,全省一丸となっての取組みを明確にした。
 一方,政府は01(H13)年1月新設されたIT戦略本部第1回会議において,「IT基本戦略」に基づき,「我が国が5(05(H17)年)年以内に世界最先端のIT国家となる」ことを目標とする「e‐JAPAN戦略」を決定した。その内容は,
 1. 高度情報通信ネットワークの形成〔ブロードバンド他〕
5年以内に安価で使いやすい超高速アクセスが可能な世界最高水準のネットワークを整備
 2. 教育及び学習の振興並びに人材の育成
05年には国民のすべてがインターネットを使いこなせるよう,学校のIT化,あらゆる人へのIT学習機会付与,大学改革や外国人受入れによる技術力の抜本的向上等の施策の推進
 3. 電子商取引
03年までに便利で使い勝手の良い電子商取引市場を形成
 4. 行政・公共分野の情報化
03年度中に,電子情報が紙情報と同等に扱われる効率的でサービスの良い電子政府が実現されるよう,実質的にすべての行政手続の電子化等を行う〔電子政府・電子自治体〕
 5. ネットワークの安全性・信頼性の確保
05年までに安全で信頼性の高いネットワーク・セキュリティが確立されるよう,個人情報保護法制定等の制度面,暗号技術等の技術面,緊急対処体制の整備等の施策の推進
である。
図表1 電子政府構想
図表1 電子政府構想

図表2 政府・自治体の取り組み
図表2 政府・自治体の取り組み
 これを見ると,96(H8)年から10(H22)年までに地方自治体を含むすべての公共発注機関においてCALS/ECを実現するとした旧建設省のアクションプログラムは,「e‐JAPAN戦略−電子政府構想−」の中にそっくり組み込まれていることがよくわかる。最も近代化,国際化が遅れ,構造改善が叫ばれて久しい建設産業界も大・中・小を問わず電子政府構想の下で,否応なしにIT化の波の中で生き残っていかざるを得ない。他省庁に先駆けてCALS/ECに積極的に取り組んでいる国土交通省の先見性をうかがい知ることができる。
 同省は01(H13)年6月,地方公共団体等の迅速なCALS/EC導入の支援と標準化を推進するため,「地方展開アクションプログラム」を公表した。
 このプログラムは,建設CALS/EC,港湾CALS,空港施設CALSの3つの流れが1つとなって生み出されたもので,10(H22)年に公共事業全体にCALS/ECを導入することとし,
 1. 国土交通省版「入札情報サービス(PPI:旧名「クリアリングハウス」)」及び「電子入札システム」の無償での公開。地方公共団体は,これらを利用してカスタマイズ(改良)を行うことにより,独自のシステムを構築することが可能
 2.  電子成果品のファイル構造,ファイル名等をチェックし,サーバーに登録し,検索・閲覧を行うシステムの無償公開
 3.  電子データ(CAD)がSXF仕様の図面データで受け取った発注者が,画面上図面を確認するための閲覧ソフトの無償公開及び図面データの検査をブラウザ上で行うためのソフトの無償公開
 4.  すでに公開されているが,複数のシステムや標準の併存による混乱を避けるため,国土交通省で標準化すべき仕様・方式についてマニュアルの策定,無償公開(工事完成図書の電子納品要領(案)等)
 5.  地方公共団体が補助事業において実証フィールド実験を実施する際に,実施計画の策定,機器のリース等についての支援
となっており,スケジュールは図表3のとおりである。

図表3 CALS/EC地方展開アクションプログラム(全国版)における年次計画の目安
図表3 CALS/EC地方展開アクションプログラム(全国版)における年次計画の目安
 これらを受けて,02(H14)年度までに福島,茨城,栃木,石川,福井,静岡,三重,岐阜,滋賀,大阪,愛媛,高知の12府県において,府県版CALS/ECアクションプログアムが策定されている。特に,岐阜県では知事の強力な指導もあって,07(H19)年度を1年前倒ししている。
 また,国土交通省は02(H14)年5月,直轄アクションプログラムのフェーズ2のうち,建設,港湾分野が01(H13)年に終了するため,各分野について達成状況等の確認を図表4のとおりに行い,あわせて建設CALS/EC,港湾CALS及び空港施設CALSごとに実施目標を設けていたアクションプログラムを図表5のとおりに変更した。

図表4 アクションプログラム(フェーズ2)達成状況等の確認
図表4 アクションプログラム(フェーズ2)達成状況等の確認

図表5 アクションプログラム(変更後)
図表5 アクションプログラム(変更後)
 公共事業に係わるプロセスは電子化・ペーパーレス化され,ほとんどすべての情報はインターネット上で全国民に公開されることになる。
 この動きはインフラの急速な整備とあいまって,前倒しされる可能性が大きい。
 公共事業に係わる企業は,待ちの姿勢では情報を入手できなくなり,しかも情報は日々更新されることから,常に最新の情報を得ておくことがきわめて重要である。つまり,公共事業に係わる建設企業にとって,インターネットが最大の情報源となるわけである。

◎次世代CALS/EC
 2004年度以降の技術進歩を見越して,業務プロセスの見直しを行うことも含め,より一歩先んじて検討するもの。






電子入札
 
 電子入札のプロセスは,いわば「三権分立」の形となる。
(1)電子認証システム
 インターネット上の「印鑑証明」であり,発注者・受注者が自分自身を証明するものである。受注者は認証機関から,カードリーダーと認証カードを購入する必要があり,今後は公共工事の電子入札だけでなく,一般の電子商取引に広く利用されることにもなろう。民間組織である認証機関は03(H15)年4月から日本電子認証(株)等8社の参入が予定されている。
(2)入札情報サービス(PPI)
 PPIは,発注者の発注予定・発注情報,入札結果等をインターネット上で公開し,受注者は入札に係わるすべての情報をPPIから入手する。
(3)電子入札施設管理センター(e‐BISC)
 入札業務をインターネット上で行うシステムで,受・発注者が利用し,国土交通省だけでなく,03(H15)年4月以降,自治体等が広く利用可能となる。

 電子入札対応のポイントとしては,FTTH・ADSL等高速のインターネット接続環境とそのリカバリー,入札用PCと予備のPC,電子入札の自治体への普及に備えて全営業部員が対応する必要があることから,ウイルスチェック等も含め,入札等のミス防止のための立会い者を確認する等,電子入札手順のマニュアル化が必要である。また,CAD図面の印刷出力を行った上での積算業務を素早く行う等のスキルアップも重要となる。


 
電子納品

 
 従来,発注者とやり取りしていた「紙の文書」を,「電子データ」のまま電子メール,情報共有サービス等「電子的手法」を用いてやり取りし,従来検査時に「衣装ケース」に入れて提出していた「紙面の検査書類」を電子データの状態で「CD‐R」に書き込んで納める。これに十分に対応するためには,現場員に「CAD」「電子メール」「データ管理」「ウイルスチェック」等,「幅広いPCスキル」が必要となる。
 一部には「外注(アウトソーシング)」の考えもあるようだが,請負金額の2%以上の経費がかかったなどの報告もあり,ましてや直轄アクションプログラム施工フェーズ2で示された「工事施工中の受発注者間の情報交換・共有」,すなわち受発注者間で共有のサーバーを設置し,建設工事のすべての情報をリアルタイムで交換・共有するためには,受発注者共に高いPCスキルが要求される。現場ごとにこれに対応できる人材を派遣会社に求めれば,経費はよりかさむかも知れない。また,仮に求めても,建設現場の実態に精通し,PCスキルの高い人材がいるとは,現時点では考えにくい。業界の厳しい現状の中,公共工事の受注業者には,これらに対処できる人材の育成が急務である。
 電子納品に必要な情報は,国土交通省,JACIC,土工協CALS/EC部会,各発注者HP等で公開されており,内容が変更されたものは素早く更新されている。特に,02(H14)年11月に国土交通省が発表した建築(官庁営繕事業)の電子納品要領(案)では,先行して動いてきた土木系の電子納品要領(案)からさらに踏み込んで,図面ファイル以外のファイル形式をすべてPDFとすることを明記している。
(1)CAD製図基準(案)(02(H14)年7月)
 CADベンダーよりSXF対応品が発売されはじめたことから,SXF(P21)による納品が明示され,今まで作図・印刷,出力などでは問題にならなかった我流での作図では通用しなくなった。発注者は,チェックソフトでSXF(P21)に対応して正しく作図されているかを照査する。したがって受注者は,設計担当者だけでなく,全現場員がCADを使いこなせる環境が要求されることとなる。
(2)デジタル写真
 「デジタル写真管理情報基準(案)」(02(H14)年7月)に詳細に示されているが,テレビなどの近くにデジタルカメラを置いておくとデータが消失することもあることから,デジカメに長期間データを置かず,撮影後はPCにデータを移し,外部メディア(コンパクトフラッシュ,スマートメディア,SDカード等)にバックアップしておく必要がある。しかし,どのメディアも「静電気・端子の汚れ・強い力に弱い」ので,取扱いには注意が必要である。また,デジカメは夜間,トンネル内など暗い所での撮影には不向きなところがあるので,アナログフィルム現像時にCD書込みサービスの利用やフィルムスキャナーを使ってネガフィルムの画像を取り込んだり,イメージスキャナーの透過原稿ユニットの使用など,事前に検討しておく必要がある。
(3)文書ファイル
 工事打合せ簿,施工計画書,工事履行報告書,段階確認書等については,オリジナルファイルを作成するソフト及びファイル形式について,発注者監督員と協議して決定することとされている。
 建設工事は,比較的長い工期の工事が多い。しかも,データ量も膨大なものとなることから,デジタルデータを維持管理するサーバー,外部メディアによるデータバックアップ体制を,現場を含めて整えておく必要がある。また,クライアントPCについても,市販のパーティション変更ソフト(パーティションコマンダー6など)を用い,OSとアプリケーション,データ,CD‐R出力用など,目的別に分けると作業が安全に行える。
(4)ウイルス対策
 メールニュース等による日常的なウイルス情報を入手し,ウイルスチェックのソフトを常駐,ウイルスパターン定義データの日々更新,外部からの媒体受取り時及び外部への媒体引渡し時のウイルスチェックは当然のことだが,ウイルスを発見した時は,
 1.  管理責任者はウイルスを速やかに駆除
 2.  感染源を特定し,データ作成者に連絡
 3.  発注者及びIPAセキュリティセンターにウイルス発見の届出
を行う必要がある。

 電子納品のポイントは,
 1.  現場にインターネット接続
 2.  全現場員レベルにPCを配備
 3.  すべてのPCに必要なソフトをインストール
 4.  全現場員の「CAD製図基準(案)」に基づいた作図能力の保持
 5.  現場で使用するCADソフトの統一
 6.  現場におけるバックアップシステムの確立
 7.  全社レベルでのウイルス対策と教育
 8.  全社レベルでの業務のIT化とこれを推し進めるリーダーの育成
 9.  全現場員に要求されるPCの汎用スキルの向上
等であるが,これをスムーズに実行するためには,PCの汎用スキルが全現場員に必要となる。
 
現場員も含め建設企業の社員に求められるPC汎用スキル

 
 国土交通省直轄工事については,03(H15)年度から電子入札,04(H16)年度から電子納品が全面的に行われる。都道府県,政令市は07(H19)年度から行われ,一部では1年前倒しされるところもある。直轄工事の受注業者は,85,000社超と言われる公共工事受注元請業者のごく一部であろうが,都道府県,政令市となるとかなりの業者が電子入札,電子納品に対応することになり,05(H17)年度から07(H19)年度にかけて関心が急激に高まるものと考えられる。
 公共工事の受注者たらんとするためには,これらへの対応が必須条件の一つであることから,実戦的なPC汎用スキルが現場員を含めて必要となってくる。その内容は,

 1.  PCの構造と周辺機器,すなわちハードウエアについての知識
 2.  OS(例えばWindowsXP)のセットアップ
 3.  OSのコントロールパネル,管理ツール等,各種項目の設定
 4.  アプリケーションのインストールとアンインストール
 5.  エクスプローラによるファイル管理
 6.  HDDのパーティション管理とイメージファイルによるバックアップ
 7.  現場事務所におけるネットワーク構築とファイル及びプリンタの共有
 8.  現場事務所におけるインターネット接続共有
 9.  E-mailの設定と運用(添付ファイル等)
10.  インターネットセキュリティとウイルス対策
11.  ファイルサーバー,外部メディア等現場データのバックアップ
12.  デジタルカメラの情報ツールとしての日常的な使用
13.  その他電子納品の現場に必要なテクニック
等である。
 
おわりに

 
 前述したとおり,07(H19)年度の都道府県,政令市レベルでのCALS/EC対応について,ITに関する業界の状況は激変すると考えられる。すなわち,元請企業は否応なくITインフラの整備を進めなければならない。その際,随時投入によるコストの無駄を排除し,いかに計画的かつ効率的な整備を行っていくかが,企業の生き残りをかけた戦略の一つであると言っても過言ではない。CALS/ECは「e‐JAPAN戦略−電子政府構想」の中で大きく動きだしており,受注者はこれにやむを得ず対応するだけでは,多大な労力とコストがかさむだけでメリットはない。
 受注者は「業務のIT化」を行い,日常的なIT業務の流れの中で電子入札・電子納品に対応できてこそ,CALS/ECの恩恵に預かることが初めて可能となる。つまり,「業務のIT化」により,発注者との電子情報を日常的にいかに有効に活用するかが「企業の差別化」の大きな要点となるだろう。
 そのためには,ISOから下請とのECも含め,デジタルで行う全社の業務をコントロールするシステムの構築が重要である。

(参考)
●G.System2002 HP
http://www.g-system.jp

 熊本県の「電子納品運用ガイドライン(案)」における「電子納品歩掛について」によると,「受注者・請負者の工事における電子納品に係わる行為(電子データの作成,電子媒体の作成)に対する積算上の取扱いは,現行の共通仮設費率とする」とされているが,ハード・ソフトはもちろん,IT人材育成に多大な経費を要することから,公共工事発注者における電子納品に要する費用について,積算上の配慮を強く求めるものである。
 建設企業経営者のIT化推進の早急な意思決定が最も重要であることは言うまでもない。なぜならば,IT化できない企業は公共工事受注者たり得ないからである。