![]() 「専門工事業イノベーション戦略」(平成12年7月建設省策定)において専門工事業のイノベーション事例100選が紹介されているが,その事例の中から,今回は「左官」の専門工事会社が技能五輪に積極的に参加し,優秀な成績を収めている事例を紹介する。
![]() 「左官」の専門工事会社である(株)イスルギ(石川県金沢市)は,昭和45年から技能五輪に継続して参加している。 イスルギが継続して技能五輪に出場している理由の1つとして,「左官」の技能伝承に対しての危機感があげられる。 金沢には歴史的建造物が多数存在しており,この建造物の修復などには伝統的な技能が必要であるが,その伝統的な技能も今では伝承されずに消滅している技能もあり,「左官」の技能が同じ道をたどってはいけないという危機感とイスルギの世代別社員構成が50歳以上が非常に多く30歳以下が極端に少ないという構成になっており,このままでは人的要因により技能の伝承が行えないのではないかという危機感である。 この危機感を打破するために,イスルギは技能五輪への参加を打ち出している。 技能を伝承するためには,継続した技能者の確保・育成がポイントとなるが,技能者の確保という面においては,技能五輪出場により,社外へのPR効果が期待でき,人員の確保が容易となること。技能者の育成という面では,技能者教育の目標の1つとして技能五輪出場を位置付けることにより,社員の技能取得へのインセンティブが働くこと等が期待できることから,技能五輪出場はイスルギの人材確保・育成の大きな柱となっている。 ![]() イスルギでは,高校の卒業者を毎年10名程度採用(うち工業高校卒は1〜2割)しており,入社後は,職業訓練校「(株)イスルギ付属技能専門校(石川県認定)」において約1年間の教育訓練を実施(集中訓練は1ケ月程度)している。 基礎的な教育訓練はこの専門校によって行われ,その後OJT等の訓練を行っているが,この教育訓練の過程の中で,技能五輪に出場する選手の選抜が行われていく。 技能五輪に出場するのは,19〜20才の技能者で,出場者は技能五輪に向けて約2ケ月間,特別の訓練を受け技能五輪に臨んでいる。 これまでに10名の選手を技能五輪国内大会に派遣しており,国際大会においても金メダルを獲得するなど優秀な成績を残している。 ただし,全ての企業がこのような取り組みができるということではなく,技能五輪に取り組むためには,出場選手が確保できる(毎年新規の採用がある),優れた指導者を確保し継続した指導が行える,支援できる企業の体力がある等の条件が揃うことが前提となっている。 ![]() 近年,地方部においても,高度な左官の技能を必要とする建築物が減ってきており,技能を習得させてもらってもその技能を発揮する現場がないという問題点が浮上している。 金沢の歴史的建造物については前述したとおりであるが,現在は金沢城の復元工事に30才代前半の施工チーム(8名で構成)を優先的に配置し,特殊な技能を現場において習得するなどの工夫を行っている。また,そのような特殊な技能を使う現場においては,ビデオ録画による記録化を積極的に進めている。 ![]() イスルギでは,「左官」を「技能左官(工芸)」と「量産左官(安くて良いもの提供)」とに区別しており,「技能左官」を技能五輪の参加などによって確保する一方で,現在の建築物へ対応するための「量産左官」の活用も積極的に行っている。 「技能左官」では「人」の育成がポイントであったが,「量産左官」では,省力化,コストダウンを前面に打ち出し,「安くて良いもの」をいかに提供していくかがポイントとなっている。 伝統技能を伝承するため,技能者を育成するためには企業体力が大きな問題となり,そのためにイスルギでは,片方では収益の上がる施工方法にも対応し,企業としてのバランスを保っている。 ![]() イスルギにおいては,現在5名の執行役員は全員が技能者からのスタートであることからもわかるとおり,キャリアパスが明確になっており,各階層ごとに,あるべき姿,人材像が明確に打ち出されている。また,それをサポートするための各階層ごとの研修制度などが設けられている。 今後の課題としては,伝統技能を伝承する人材を育成する一方で,設計者などに技術提案ができる人材育成にも力を入れたいと考えている。 イスルギでは数年前からリフォーム事業にも取り組んでいる。技術提案を設計者や消費者にできる人材が会社内にいないと事業がうまくいかないことを痛感しているからだ。
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