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![]() ![]() 矢部 正二(やべ・しょうじ) 1930年,新潟県三島郡寺町生まれ。 47年に上京し,52年に三和建設株式会社に入社。57年に取締役工事部長,63年に専務取締役を経て,67年に代表取締役に就任,現在に至る。また,70年から東京都土木建築健康保険組合理事,73年から社団法人東京都中小建設業協会理事,75年から社団法人全国中小建設業協会評議員も務めている。93年,東京労働基準局長表彰(功労賞),96年,東京都知事表彰(建設業功労賞)を授与。 |
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西野 |
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まずは,三和建設さんの歴史について教えてください。 | |||||
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矢部 |
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私は終戦後に新潟県から東京に出てきまして,大工をしていた叔父のところで世話になりました。その当時はまだ個人営業だったのですが,叔父は職人を20人ほど抱えていまして,大手・中堅建設会社の下請をしていました。 その取引先の中の一つの建設会社が倒産したのですが,叔父はそこの会社の営業部長と工事部長の方ととても親しくしていて,一緒に会社を設立することになったのです。そこで,“三人で和を持って会社を良くしていこう”ということで,社名を「三和建設株式会社」としてスタートしました。これが,昭和27年3月のことです。 今でも同じだと思いますが,設立当初は会社も知られていませんから仕事がなかなか受注できず,苦労しました。 |
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西野 |
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具体的に,どのような活動をして,会社を浸透させていったのですか。 | |||||
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矢部 |
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最初はある方に東京都の担当の方を紹介していただいて,入札指名参加願いを出して,役所に出入りするようになりました。そして,今はうちは土木工事中心ですが,当時は建築工事も手がけていたので,都営住宅の管理人のほうから出される,雨漏りや建具などの修理の積算の手伝いをしました。そこで信用を得て,工事の入札にも参加させてもらうようになりました。 それで,昭和30年ごろのことだったと思いますが,1件500万円〜1,000万円ぐらいの都営住宅の改修工事の発注が頻繁に出まして,うちでも500万円ぐらいの工事を年間2〜3本は受注しました。 |
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西野 |
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民間工事のほうはどうですか。 | |||||
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矢部 |
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昭和30年ごろのことですが,会社の近くにキリンビールの東京工場が建設されることになりまして,そのときは仕事をいただきましたが,あとはほとんど公共工事ですね。ですから,ここのところ公共工事が見直されて仕事が減ってきているので,いろいろと大変ですね。 去年の5月ごろから,うちの専務からは,「社長,このままだと今年は○○万円の赤字だから,役員の給料は半分にしてください」なんて言われているんですよ。でも,うちの4人の取締役の給料を半分にしても,赤字はとても埋まらないんですね(笑)。 私が理事を務めている東京都中小建設業協会(都中建)やその他の団体などで会議を開いたときに,受注を増やすための方策などについても話が出るのですが,ある自治体の土木に関する予算をみると,ここ5年の間に半分ぐらいに減っているところもあるんです。予算が少なくなれば,公共工事の発注件数が減るのは仕方のないことなのでしょう。 |
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西野 |
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いろいろと行政に対する要望はあると思いますが,やはり予算のことが今のところは一番大きいのですか。 | |||||
矢部 |
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そうですね。私も地元(東京都北区)の区議会議員や区長,助役のところに陳情に行くのですが,やはり“予算がない”ということを第一に言われます。ただ,予算がないから工事件数を減らすというだけでは納得いかないので,“区長の仕事は区民の生活を考えるのが仕事。我々も区民なのだから,我々の暮らしについても考えてもらわないと困る”という趣旨の話をしています。 北区の予算は年間約1,200億円なのですが,決算時には残高が40〜50億円あるそうです。それならば,その一部でも土木部門に回してもらえないかと言うと,老朽化している学校の校舎の建て替えのために積み立てているというのです。1校つくるのにだいたい30億円かかるらしいのですが,建て替えるといっても,5年,10年先のことだと思います。それよりも,いま困っている私たちを少しでも救済してください,という話をするのですが,なかなか伝わらないんですね。今の本当に厳しい状況を理解していただき,打開策を一緒に考えていただければと思っています。 |
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西野 |
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三和建設さんの仕事のほとんどは公共工事が占めているということですが,民間のほうに幅を拡げていくことは考えていらっしゃらないのですか。 | |||||
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矢部 |
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それは当然,考えたことはあります。ただ,民間の土木工事といっても,例えばマンションの外構工事などがありますが,それはまず建物を建てて,その残りの予算で最後につくることがほとんどなので,あまり採算が取れるような仕事ではないんです。今でも時々お話をいただくので積算するのですが,採算が合いません。 | |||||
西野 |
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仕事を拡げていこうと思っても,なかなかやりづらい状況なんですね。 | |||||
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矢部 |
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どうしても,今まで地元中心で仕事をしてきたということもあって,他の地区に営業エリアを拡げようとしても,いろいろ難しい問題もあります。 東京都の上下水道工事の仕事も受注しようとがんばっていますが,なかなか取れないですね。当然のことですが,談合は禁止されているので,すべて自分のところで積算するわけですから,これは宝くじを当てるくらい難しいものなんですよ(笑)。以前,水道工事の仕事を入札で取ったときにも,「三和さん,うまい積算しますね」と言われたから,「これは毎日神棚に手を合わせて,“この仕事は幾らならいいですか”と神様に聞いてるんだ」なんて答えた笑い話もありましたね(笑)。 今までも,そしてこれからも同じだと思いますが,1社単体で仕事を受注するのは非常に難しいことです。当然,組合とか共同事業体のような形で,建設工事等競争入札参加資格の格付けがAランクの企業と組んで入札するという形をとっていかないと,なかなか受注はできないですね。 |
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西野 |
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例えば建築の分野ではリフォーム市場が注目されていますが,三和建設さんも以前のようにそういった市場に参入することは考えていらっしゃいますか。 | |||||
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矢部 |
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それは考えていません。今も当然,建築の登録はしてありますし,参入できないことはないのですが,やはり当社が得意としているところは土木ですから。建築のことは建築を専門としている会社が,土木のことは土木を専門としている会社がやるのが一番ですよね。 | |||||
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西野 |
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では,建設業界ではどんどんIT化が進んでいますが,三和建設さんではどのように取り組んでいますか。 | |||||
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矢部 |
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そういうことは,みんな若手にまかせています(笑)。国土交通省の直轄工事もこれから電子入札になるし,対応せざるを得ないでしょう。いろいろな団体で,講習会もやってますよね。都中建でも盛んに講習会をしているので,参加人数を聞いてみたら,結構来ているそうなので,みんな意識は持っていることは確かですね。ただ,大手はともかく,中小企業の対応がどれぐらい進んでいるかというと,詳しい数字はわかりませんが,なかなか対応できないという声も聞きます。 | |||||
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西野 |
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そのほか,今の建設業界を見ていて思うことはありますか。 | |||||
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矢部 |
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いわゆる不良・不適格業者の排除について,もう少し行政に考えてもらいたいと思っています。 真面目にやっている企業は,技術者を含めて数十名の社員を抱えて仕事をしていて,実際に現場を持っているわけです。ところが,不良・不適格業者と言われるような会社は,受注した仕事はすぐに丸投げしてしまうわけですから,営業マンが2〜3人もいれば十分なんですね。おそらく,会社に行っても机が一つあるぐらいなのではないでしょうか。そういう業者が相当数いるように思います。 ただ,そういう業者も指名されるためには,当然,指名参加願いを出しているわけですから,書類が提出されたら,まず会社の実態を調査してから指名選定をしていただきたいですね。 私の会社も,50年近く土木工事の元請をしているわけですから,地元に新規参入してきた会社があれば,どんな会社か大体判断がつきます。ダミー会社かどうかは,実際にその会社に行ってみれば,技術者がいるかどうか,社員がいるかどうか,わかるわけですから,担当の方もいろいろお忙しいでしょうが,実態把握に努めてほしいと思います。 |
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西野 |
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では,今度は社長ご自身のことについてお話を伺いたいのですが,社長のご趣味は何ですか。 | |||||
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矢部 |
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私はライオンズクラブのメンバーになっていて,その活動の一環として薬物乱用防止教育講師をやっています。これは趣味というよりボランティア活動ですけど,ライオンズクラブから認定を受けて,講師として高校や中学校に行って生徒に薬物乱用防止に関する話をするんです。 | |||||
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西野 |
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どうして,そういうことを始められたのですか。 | |||||
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矢部 |
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ライオンズクラブのメンバーは,全世界で約140万いるのですが,そのメンバー全員で薬物撲滅運動に立ち上がろうということが国際協会で決議されたんです。日本国内だけでもいくつもクラブがあって,うちのクラブでも4年ほど前から薬物乱用防止教室を開催することを話しあっていたのですが,やっと実現しました。 実際の活動としては,昨年は4月に地元の駅前の街頭で薬物撲滅キャンペーンを行ってから,12月までに5〜6回は学校で講演をしました。 |
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西野 |
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そのほかに,何かされていることはありますか。 | |||||
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矢部 |
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趣味らしいことと言えば,やはりマージャンとかゴルフになりますね。ゴルフは健康維持のためと考えているので,スコアの良し悪しはあまり気にしないでやっています。なかなか時間がとれないけど,月に2回ぐらいは行きたいと思っています。ゴルフに1回行くと,7〜8キロは歩くと思うんだけど,それが続けられると,普段,あまり体が疲れたように感じることが少ないですね。 | |||||
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西野 |
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それでは,最後になりますが,これは仕事でもプライベートでも構いませんが,何かチャレンジしてみたいことはありますか。 | |||||
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矢部 |
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チャレンジと言っても,もう年だし,今さらダンスとか始めるわけにもいかないしね(笑)。
静岡の伊東のほうに,叔父がニシキゴイを飼っていたのですが,それを引き継いで面倒をみています。私はコイのことはよくわからないのですが(笑),品評会にも出したことがあって,数十万円もするようなコイもいました。そばに行くと,エサがもらえると思って寄ってくるんですよ。あれは足音でわかるのかな。かわいいですよ。 仕事については,今は景気が悪いから,無責任に社長を引退するわけにもいかないし,私は都中建の情報渉外委員長も務めているので,役所に対する要望や陳情なども引き続き行っていこうと思っています。 ![]() 仕事を受注するには,昔は自分の足で稼いでいたわけです。私も,その仕事が欲しいというときには,指名をしてもらえるように,名刺を配って歩きました。でも,今は公共工事の入札情報が発表されたら,希望申込書を書いて,申込受付の箱に入れるだけです。 それでも,私はうちの社員には,ただ書類を出してくるだけじゃなくて,担当の方には名刺を出すだけでもいいから挨拶をして,できれば月に何回かは足を運ぶように言っています。仕事を受注するには,当然,会社の規模とかいろいろな要素があるわけですが,そういうことが,やはり大切なように思います。 |
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