職長さんこんにちは

第1回:金子架設工業(株) 田方昭雄 氏

 今月号より,新連載がスタートいたします。
 スポットを当てるのは専門工事業の職長さんです。職長さんの仕事・役割などご存知の方も多いと思います。でも,「職長さんてどんな事しているの?」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで,職長さんをお訪ねしてお仕事の事・現場の事,その他休日の過ごし方や趣味などプライベートのお話まで,いろいろ聞いてしまおうと思います。たくさんの職長さんとお会いして,みなさんに職長さんの仕事や人柄などが伝わるよう,そして毎号わかりやすく楽しく読んでいただこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 さて,記念すべき第1回目は,躯体工事の会社金子架設工業(株)の田方昭雄さんです。田方さんは長野県出身の39歳。入社して20年になります。金子架設工業に多数いる現場代理人・安全衛生責任者・主任技術者を務める職長さんの中でも,1,2の技術と知識をお持ちの方です。社長さんより「うちのエース」とお墨付きの田方さん。私にとっては初めての取材。緊張もしましたが,どんなお話が聞けるのか期待一杯です。
田方昭雄氏




――初めてですので,変な質問をしてしまうかもしれませんが,よろしくお願いします。
さっそくですが,このお仕事に入られたきっかけをお聞かせください。





「高校の先生が,金子架設の方と知り合いだった関係で紹介され,入社しました。定時制高校でしたので,学校に通いながら3年間大工の仕事をしていました。ですから,とびの仕事に就く事には,特に違和感はなく,これなら出来るかなという感じでした。」







――大工のお仕事をされていたんですね。大工さんと今の仕事ではだいぶ違うのではないでしょうか?




「扱うのが木から鉄に変わったくらいです。」






――職長さんになられてどれくらい経つんですか?





「職長になったのが26,7歳のときですから,12,3年くらいになります。」







――ずいぶん,お若い時からされているんですね。ご苦労も多かったんじゃないですか? 職人さんの中には田方さんより年上の方もたくさんいらっしゃいますよね?




「仕事中は指示をしなくてはいけないので,年上だからという遠慮はせずに接していました。年上だからと遠慮していると仕事が進まないからね。ただ,仕事が終わったら,先輩方を立てていました。普段からコミュニケーションをきちんとしていれば年齢についてはそんなに問題はないです。」







――その他に職長さんとしてのご苦労は?





「苦労という苦労は特にないけど,若い職人の面倒を見たり,他の職方さんたちとのつきあい方,監督さんとのつきあい方に最初は気を使います。
 とびの仕事は,最初の仮囲いを作る時から,内装の仕上げが終わったあとの足場の解体まで,最初から最後まで現場にいます。他の職方さんと一番多く長く接するので気を使いますね。でも,慣れてきてしまえば,そのへんはうまくやっていけますね。あとは現場によって工法が違ってくるので,そのやり方に慣れてしまえば,特に大変な事はないです。」








――職長として仕事上一番気をつけている事は?





「やはり,安全面です。とびの仕事は鉄骨を扱うし,高い所での作業もあるから,危険と隣り合わせ。自分の預かった若い職人たちがケガをせず,また他の職方さんにもケガをさせないようにすることに一番気を使っていますね。自分が若い頃は,“ケガと弁当は自分もち”なんて言ったけど,今はそんな事は言ってられないからね。」







――お仕事をされていて嬉しい事は何ですか?





「やっぱり無事故で無事に竣工すると嬉しいね。あとは他に何社かとびの会社が入っている現場では,仕事が他の会社よりうまくいくと『やったな』と思う。他の会社と競い合っているわけでも,対抗するわけでもないんだけどね。」







――「とび」の仕事の魅力って何ですか?





「高いところが好きな人は「とび」になったらいいかもね(笑)。とびの仕事は外から見えるから,出来上がったビルとかを指差して,あれは自分がやったんだって人にも言えるからいいよね。あとは,いろんな職方さんの足場とか組むから「とびさん頼むよ」なんて言われて,現場の中でもちょっといばっていられるからいいかもね(笑)。他の職方さんも(仕事を)やったという実感はあると思うけど,とびは人一倍あると思うよ。」







――会社に入社されて20年ほど経ちますが,金子架設工業さんの魅力は何でしょうか? また,この会社だから今までやってこれたという事は何かありますか?





「他の会社知らないから魅力と言われても(笑)。というのは冗談だけど,やっぱり最初の現場が良かったからかな。最初の現場で一緒になった親方がすごくいい人だったから。その人と同じ現場じゃなかったら,ずっと金子でやっていこうとは思わなかったのかもしれない。」







――現在,若い職人を何人かご指導されていると思いますが,若い方々について何か思うことはありますか?




「自分も何人か若い人を預かっているけど,自分の若い頃はどなられて仕事を覚えていたから,どうしてもどなってしまう。だけど,今の子はそういう教え方はダメだよね。今の時代にあった教え方をしないと。
 でも,今の子は我慢が足りないから,もう少し我慢してくれるようになるといいんだけどね。ちょっとどなるとシュンとしちゃったりするし,いじけちゃうからね。ただ,仕事が終わった後のコミュニケーションはちゃんとしているつもりだけどね。」








――シンガポールの現場で解体作業の救援を頼まれ,スーパーバイザーとして行かれた事があるとお伺いしておりますが,そのときの事をお聞かせください。





「クレーンガーターの解体がどうにも進まなくて,金子架設に技術支援をということで,私が派遣されたんですが,難しい作業で疲れちゃいましたよー(笑)。シンガポール,韓国,インドなど,いろんな国の人が現場にいました。言葉は通訳の人もいたし,苦労しなかったけど,現場が30年,40年も前の日本の現場みたいで,安全面などまだまだという感じでしたね。」







――仕事の質問は以上ですが,プライベートな事も少し聞かせてください。休日はどのようにお過ごしですか?





「平日は仕事で家にいる時間が少ないので,休日は家にいて子供と遊んでいます。最近は,近所の健康ランドに子供たちと一緒に行って,お風呂に入ったりマッサージをしたりして,疲れをとっています。あとは,パチンコと読書かな。」







――お子さんは何人いらっしゃるんですか?





「3人です。7歳,5歳の男の子ともうすぐ2歳になる女の子です。」







――お子さんがお父さんと同じ職業に就きたいと言ったらどうしますか?





「子供がやりたければいいんじゃないかな。この仕事は好きでないと出来ないし,仕事も覚えられないから。」







――ストレスの解消法を教えてください。





「若い頃は,どうやったら早くきちんと仕上げられるかと考えていたから,ストレスもあったかもしれないけど,今は『これでいいんだ』と思って仕事しているから,ストレスもたまんない。大声あげて,うさばらししているしね(笑)。」







―建設産業界に思うことは何かありますか?





「まずは請負金額が厳しくなっている事ですね。もう少し,どうにかならないものかな。あとは,個人的には工法の開発などの技術について,もう少し研究したらいいんじゃないかなと思う。どんどん新しい工法なんかがでて来ればいいと思うけどね。」







――最後に今後どのようなお仕事をしていきたいと思っていますか? 抱負などお聞かせください。





「誰が見ても,『金子の田方がやったんだな』とわかる仕事が1つでも2つでも出来たらいいなと思っています。現場の所長さんからお呼びがかかれば嬉しいし,あとは一つひとつの現場が無事に終わればいいですね。」




◎取材を終えて
 会社でも1,2の腕をもつ職長さんと言われているのに,ご自身は大変謙虚で「無事に現場が終われば嬉しい」を繰り返していて,自分の事よりも預かっている職人さん,そして他の職方の職人さんの事を何より一番に考えています。田方さんの現場で仕事をしている人は,「田方さんの現場なら」と安心して作業しているのではないでしょうか。お忙しいお仕事の中,大切な時間をさいていただいたのにもかかわらず,終始にこやかな笑顔を絶やさず,お話も冗談を交えて大変楽しく話してくださったので,本当にあっという間に時間が過ぎてしまいました。時間内で聞けなかった事がたくさんあったように思います。
 好きでないと続けられないし,とびの仕事が一番と自分のお仕事に誇りをもっている田方さん。まだ39歳という若さですから,これからもどんどん活躍されることだと思います。
 「金子架設のエース」から「業界のエース」になる日も近いのではないでしょうか。

(聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

金子架設工業ホームページ http://www.kanekokasetsu.co.jp/


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