職長さんこんにちは

第4回:矢島鉄筋工業(株) 梁瀬浩司 氏



 今回お話をお聞きした職長さんは,墨田区に本社がある矢島鉄筋工業(株)の梁瀬浩司さんです。梁瀬さんは,埼玉県出身の40歳。1級技能士の資格をお持ちで,会社での役職は工事部長さんです。今までお話を伺った方は,建設業一筋の方ばかりでしたが, 梁瀬さんは全然違う職種から,鉄筋のお仕事をするようになった変わり種です。なぜ,建設業のお仕事に転職されたのか興味津々です。



   ★板前から鉄筋工へ





――このお仕事に入られたきっかけを教えてください。




「実は,鉄筋の仕事をする前に板前の仕事をやっていたんです。約4年間,日本料理屋とか居酒屋とか,いろいろやりました。ただ,夜の仕事だったので体をこわしてしまい,入院してしまったんです。 その時に幼なじみの今の専務がほとんど毎日のようにお見舞いに来てくれて,元気になったら一緒にやろうと誘ってくれたんです。鉄筋の仕事が,どんなものかわからなかったけど,いつも専務を見ると日に焼けて健康そうな感じで,自分もこういう昼 間の太陽の下での仕事がしたいなと思って,この仕事をするようになりました。」







――板前さんからの転職は大変だったんじゃないですか?




「大変でしたよ。まず,夜の仕事をしていたせいか,体が弱くなっていて,顔色も青白いんですよ。周りの先輩たちは真っ黒に焼けていて,体もがっしりしているのに…。早く,彼らに追いつこうと必死でした。この仕事は本当に大変で同期入社は10人いたのに,残ったのは自分だけです。」






――鉄筋の仕事とは具体的にはどんなことをされるんですか?





「くいと建物を鉄筋でつなぐ仕事から始まります。くいのすぐ上の基礎が鉄筋になります。鉄骨を使う現場とそうじゃない現場 とありますが,鉄骨がある場合は,鉄骨が大骨で鉄筋は小骨という感じです。あと,鉄筋はコンクリートとすごく相性がいいんです。コンクリートと一緒に建物を強靱なものにしていく。とても,重要な部分だと思います。」







――職長としてはどのような仕事をしていますか?




「職長としては,工程管理や職人の管理が主な仕事です。あとは,施工図や作業要領書などを作る計画段階から参加して,現場所長と工法などの相談をしています。現場(建物)によって,こういう工法がいいのではという提案をして,少しでも効率よくまたより良いものができるようにと思っていろいろ考えながら,計画をしていくようにしています。」







――仕事をしていて良かったなと思うことは何かありますか?





「ありきたりかもしれませんが,地図に残る仕事をしているところですかね。いろんなところに自分の手がけた建物があって,そばを通ったりすると,『自分が造ったんだな』と思ってやっぱり嬉しく感じます。わたしが担当する現場は誰もが知っている大きいものが多いんです。そういう仕事に携われるのは,やはり名誉なことだと思います。」




   ★夢の中でも仕事




――職長になられたのはおいくつの時ですか? また最初に『職長になれ』と言われた時はどんなお気持ちでしたか?





「最初に職長になったのは,26〜7歳の頃なので,もう14年ぐらい職長をやっています。職長になりたいと思っていたから,話があった時はすごく嬉しかったですね。でも,責任も負うことになるから,プレッシャーは感じました。若い頃は,夢の中でも仕事をしていました。夢の中で,こういう手順でやろうとか考えているんですよ。でも,実際の仕事もするから2倍していて,すごく疲れましたよ(笑)。ある時はいろいろ神経を使っちゃったのか,円形脱毛症になったこともありました。」







――職長の仕事で一番ご苦労されていることはなんですか?





「やっぱり人間関係ですね。この仕事は,同業種,他業種いろいろな人たちと一緒に仕事をします。職長として,他の業者と連絡を取って作業を効率的に進めていくのは,やはり気を使うし一番苦労するところです。人間関係は本当に大切です。いくら機械などを使っても,やっぱり最後は人と人ですからね。同じ枠(現場)でずっと一緒にいるわけですから。」







――「鉄筋」の仕事の魅力はどんなところにありますか?





「魅力は数少ないからな(笑)。自分たちで組み立てた鉄筋1本1本がコンクリートと一体となって,建物を頑丈にしているところが魅力かもしれませんね。ただ,残念なことに苦労して組み立てたものはコンクリートの中に入ってしまい,外からは見えなくなる運命にあります。でも,厳しい検査を通ってできあがった時の満足感は格別のものがありますね。」







――『矢島鉄筋工業』さんの会社としての魅力はどんなところでしょうか?





「会社の魅力は,個人個人をすごくまじめに考えてくれるし,平等に接してくれるところですね。それと,どうしても仕事中心になって,家族と過ごすことが少なくなりがちなんですが,会社は影で支えてくれる家族のことも考えてくれているように思います。あと,年に1回運動会を行っていますが,会社が一つになって何かやるということはとてもいいことだと思います。」







――休日はどのようにお過ごしですか?




「子供がサッカーをやっているんですよ。もう,高校生なんですけど。そのサッカーのクラブの役員を任せられていて,日曜日はその関係でいろんなところに行っています。あと趣味というと,バイクに乗ることです。昔,免許をもっていたんだけど,失効しちゃったので,また3〜4年前に取ったんです。それで,たまに運転しています。でも,周りの人が危ないから乗るなって言うんですよ。だから,乗るのは少しにしてあとは,バイクの雑誌を見て楽しんでいます。」







――お子さんが鉄筋の仕事に就きたいと言ったらどうですか?





「まぁ,泣きついてきたら使ってやってもいいかなと思ってますよ(笑)。子供はやりたいことをすればいいと思います。でも,もし間違った道にいきそうになったら軌道修正はしてあげたいと思っています。」




   ★もっともっといい職長に!!




――建設産業界について何か思うことは?




「職場環境は昔に比べたら,すごく良くなっています。ただ,まだ職人の地位が確立されていないように思います。鉄筋だけじゃないけど,建設業全体で職人たちがもっと安定して,全体的にレベルアップするといいんですけどね。以前,組合の研修でアメリカに行ったんですけど,向こうは組合が組織としてきちんとしていますよね。アメリカみたいに職人たちの組合とかがきちんとできてくれたら,もっと職人たちにはいいと思います。あと,今は資格などを一生懸命取っても,全然メリットがないんですよね。そういうところも改善されたら,もっと職人たちのレベルアップにつながると思うんですけどね。」







――最後に今後の抱負などお聞かせください。





「今,仕事でパソコンを使うようになったんですよ。ちょっとずつできるようにはなっているんですが,もっともっと使えるようになりたいですね。あと,職長としては,若い人たちをしっかり指導して,将来のサブリーダーや職長を育てていきたいです。 今の若い職人たちは自分の頃と違って『職長になりたい』と思う子が少ないみたいです。自分もああいう職長になりたいと思ってもらえるような“いい職長”になりたいですね。自分もそうでしたが,やはり目標となる人がいると仕事をがんばっていくことができますから。」




◎取材を終えて
 お仕事が忙しく,作業終了後に取材に応じてくれた梁瀬さん。大変お疲れだったと思いますが,どんな質問にもにこやかにそして面白く答えてくださり,笑いが絶えない取材となりました。鉄筋の仕事と会社を本当に愛していて,でもそれが熱血という感じではなく,さりげない感じでたいへん爽やか。『かっこいい』という言葉が当てはまる人はこういう人なんだなと感じました。「今まで経験した現場は?」という質問をしたところ,横浜のランドマークタワー,東京都庁,さいたまスーパーアリーナなどを手がけていて,その他も誰もが知っている有名なところばかりでした。会社も梁瀬さんに全幅の信頼をおいていて,大きな現場を任せているんだなと感じました。『自分はまだまだで,鉄筋の仕事についても半分くらいしか理解できていない。これからも勉強の日々。後輩たちから目標とされるような職長になりたい』と話す梁瀬さん。その仕事に対する謙虚で真摯な姿は,きっと今でも数多くの若い職人さんたちの憧れであり,目標の存在のような気がします。これからも『かっこいい職長さん』として活躍していくことでしょう。
(聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

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