職長さんこんにちは/第17回城山建設(株)/海端徳四郎 氏 (聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

海端徳四郎 氏
▲海端徳四郎 氏
 今回の取材場所は,地上43階高さ約140メートルの建設途中の高層ビル。その最上部に近い41階の現場です。こんな高い場所でお話を伺ったのは,東京・中央区に会社がある城山建設(株)の海端徳四郎(うみはた・とくしろう)さんです。海端さんは型枠大工の職長さんで今年の5月に新たに誕生した501名の建設マスターのお一人でもあります。建設マスターで職長会の副会長。また,インドネシアの現場にスーパーバイザーとして派遣された経験もお持ちです。建設マスターに選ばれる卓越した技と豊かな経験,そして何より誰からも信頼されるリーダーとして数々の現場で職長として活躍されている海端さんのお話を,東京を一望できるすばらしい眺めの場所でたくさん聞いてみたいと思います。



★自分の手でつくってみたい!

 このお仕事に入られたきっかけを教えてください。
 私は青森県の出身なんですが,自分の家の周りには茅葺き屋根の昔ながらの建物しかなかったんです。子供の頃に東京で大きくて立派な建物を見た時に『自分でもこんなものを作ってみたい』と思うようになりました。中学を卒業してから東京に上京して城山建設に入社しました。それからこの道一筋です。子供の頃に憧れていた,大きくて立派な建物を自分の手で造れるようになったことは長く経験してきた今でもとてもうれしく思っています。
 普段の業務内容について教えてください。
 職長としての普段の仕事内容は,工程管理・安全管理・作業管理です。毎朝朝礼をして,各職人に仕事の分担をします。職長としての仕事の他に職長会の副会長と分別委員会の仕事をしています。大きい現場では職長会は非常に重要になってきます。各職長の意志疎通が出来ていないと,仕事がスムーズに進みませんから。常に他業種の人と連携がうまくいくよう心がけています。あと,分別委員会は文字の通りで,廃棄物の分別がきちんと出来ているか現場を回ってチェックする仕事をしています。
 型枠大工の仕事は,鉄筋の骨組みに木材で枠を作りコンクリートを流して固めていきます。このコンクリートを垂直・水平にきれいに仕上げていくことが非常に大切になります。これがしっかり出来ていないと私たちの後に入る内装業者の方が作業するときに大変ですし,また完成した時に仕上がりがよくないんです。それに,うまく出来てないと自分も満足できないですから,作業には充分気を使いどの現場でもベストな状態で仕上げるよう心がけています。

★宝くじに当たった気分

 建設マスター受彰おめでとうございます。受彰された時はどんなお気持ちでしたか? また,周りの反響はどんな感じでしたか?
 自分が建設マスターに選ばれるなんて信じられなかったです。思いもしない宝くじに当たったような気持ちでしたよ(笑)。まだまだ勉強することが多くあると思っている自分が他の人の模範とならなくてはいけない建設マスターになっていいものかと思ったりもしました。受彰できたことは大変うれしいですが,責任も重くなるわけですから,これからはマスターにふさわしい人間にならなくてはいけないと思います。今までよりもさらに日々勉強して努力していかなくてはと身がひきしまる思いです。
 受彰したことはまだ一部の人にしか言ってないんです。気恥ずかしいのもありますが,なんだか自慢しているような感じがしてイヤなんですよ。私一人の力で受彰できたわけではありません。今まで一緒にやってきた職人さんたちや支えてくれたみなさんのおかげですから……。
 海端さんは多くの職人さんを預かっていらっしゃると思いますが,今の若い職人さんはどんな感じでしょうか?
 若い職人たちは本当によくやってくれます。指示をしておけばきちんと仕上げてくれていますから,特に心配なことはないですね。昔はよく『自分の若い頃は』と言っていたのですが,元号が平成に変わってからは言うのをきっぱりとやめました。今の若い職人さんたちに自分の若い頃の話をしても理解してもらえないし,古いことをいつまでも言っていても格好悪いですからね。それよりも,若い人にいつまでも指導していけるよう自分が研究していくことが大切です。職長が古い知識しか持っていなかったら,良いものを造っていくことなんて出来ないですからね。
 長い経験で多くの現場を担当されていると思います。海外の現場にも行かれたことがあるそうですが,その時の話を聞かせてください。
 インドネシアに現地指導ということで行かせていただきました。作業する職人たちは全て現地の人なので,初めは言葉の問題などに不安もありました。でも,言葉はわからないまでもなんとなく通じるようになるものなので不思議ですね。通訳の方もいたのですが,しばらくすると必要なくなりましたね。
 あと,自分が行ったのはだいぶ前なので,今は違うかもしれないのですが,当時のインドネシアの現場は安全管理が全然出来ていませんでした。日本と大きく違っていてビックリしましたね。ヘルメット被らずに作業する人もいたんですよ,信じられないですよね。
 
りょうこのひと口メモ
◎再開発事業について
  今回の取材場所になったのは,六本木の再開発地区です。この六本木六丁目の再開発事業は民間で手かげているものの中では国内最大規模。六本木だけではなく,現在日本の各地で再開発事業が進められていますが,事業の目的のひとつとして,災害に強い街づくりというものがあります。昔からある木造建築が多い地区は,大きな地震や火災などが起きると大きな被害を受けてしまう可能性があります。安全で安心して暮らせる街づくりは,今後も重要な課題となってくると思います。

★日々勉強,そして努力
 城山建設さんの会社の魅力をお聞かせください。
 別にごまをすっているわけではないのですが,うちの会社の魅力はなんといっても社長です。社長がいなかったら自分もこんなに長い間勤めてなかったと思います。忙しい合間をぬって各現場にも顔を出してくれるんですが,いろんなことに気づいて指摘もしてくれます。それが自分たちでは見逃しがちなところなので,本当にありがたいですね。
 あと,こう言うのもなんですが,社長だからって全然偉そうじゃないんですよ。本当に気さくで明るい人です。若い職人たちにも気軽に声をかけてくれますし,仕事以外の相談にも乗ってくれる面倒見がよい,本当に器の大きな人です。社長が明るいせいか,社員もみんなすごく明るいんです。現場にいることが多いのですが,たまに会社に顔を出すとみなさんすごく気さくに話しかけてくれて,会社全体も明るくとてもいい雰囲気です。明るいムードの中で仕事できるのでとても楽しいですね。
 社長のためにも自分のためにも『城山建設』に恥じない仕事をしていきたいと思っています。
 最後に今後の抱負をお聞かせください。
対談写真 これからは,若い職人たちへの指導に力を入れていきたいと思っています。一方的に教えていくというよりは,意見を聞きながら,コミュニケーションをとってやっていきたいと思っています。若い職人たちにもこちらからの『こうしろ』という押しつけじゃなくて,どうしたらきちんと出来るかちゃんと話し合うことが大事だと思います。仕事というのは一人ではやっていけないですからね。仲間で力を合わせることでよりよいものができると思うんです。
 あとは,これからも日々勉強を怠らず仕事を続けていきたいと思っています。数多くの現場を今までやってきましたが,必ず新しい発見があります。そして,それを次の現場に生かしていけるようにして,常に今やっている現場が一番良いものであるように努力してきました。あとどれくらい仕事ができるかわかりませんが,体が動く限りは続けていきたいと思っています。『前の現場よりは今現在の現場』そして,『昨日よりも今日』という具合に日々進歩していきたいと思っています。


◎取材を終えて
関矢良子さん 今回は本当に貴重な経験をさせていただきました。誰でも高層ビルからすばらしい景色を眺めたことはあると思いますが,建設途中(しかも窓ガラスが入っていません)の完成前の建物の41階からの景色を見られるなんてあまりできる経験ではありません。実は取材場所となったのは現在着々と完成に近づいている六本木の再開発地区です。海端さんが担当する街区には他業種の方を合わせると約700名の職人さんたちが作業している,本当に大きな現場です。多くの人が働く現場では,コミュニケーションをとり,密に連絡しあうことが作業効率をアップさせると思いますが,その大きな役割を果たすのが職長会です。海端さんはその職長会の副会長として,各業種のとりまとめもしています。現場所長さんにも信頼が厚く,「城山建設さんの担当している場所が終わっても海端さんだけは残してくれ」と言われていると後から社長さんから伺いました。海端さんに会うとなんだか納得してしまいます。とても謙虚で勉強熱心。取材中も本来なら私が和ませたり,気を使うべきなのに,逆に冗談を言って和ませてくれて,現場内を移動する時にはいつもそばにいて気を使ってくれました。
 海端さんは建設現場で働く職人さんの中に入ると私より少し大きいぐらいの体型で大変小柄な方です。でも,パワーは人一倍でその存在感は本当に大きく感じられました。いつもどんな時でも強いパワーと大きな信頼で誰もが安心してついていける,海端さんはそんなリーダーのような気がします。