職長さんこんにちは/第18回(株)大場造園/都築敏行 氏 (聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

都築 敏行 氏
▲都築 敏行 氏
 今回お話を伺った職長さんは,東京・杉並区に会社がある(株)大場造園の都築敏行(つづき・としゆき)さんです。都築さんはこの道20年の造園の職長さんです。38歳とまだまだお若いのですが,職人としての技は一流で会社の社長さんの折り紙付きです。平成7年には東京都の若い技能者を対象とした「青年優秀技能者知事賞」を造園業界の代表として受賞しています。私がイメージする造園のお仕事というと,大きなハサミをあやつり,花壇の植栽や街路樹の剪定などをする感じが強いのですが,都築さんのお仕事は少し違うみたいです。さて,どんなお仕事なのかお話を聞くのが楽しみです。



★緑と接する仕事に
 このお仕事に入られたきっかけを教えてください。
 実家が農家だったものですから,子供の頃から多くの緑に囲まれて育ってきました。親からも仕事をするなら緑の中でできるものがいいと勧められたこともありますが,自分自身も緑と接して自然の中でできる仕事をしたいと昔から思っていましたので,高校で造園関係の勉強をしました。高校卒業後に大場造園に入社し,もう20年になります。
 普段の業務内容について教えてください。
 公園の造成工事が主な仕事です。樹木の植栽や大木の枝おろし,外構工事でコンクリートなども扱います。公園などは設計図(デザイン)を作り,樹木を植栽したり,庭石や灯籠を配置したり,時には池を作ったり。造園の仕事というよりなんでも屋みたいな感じですよ(笑)。
 造園と言うと大きなハサミを使って,剪定作業するというイメージが強かったのですが……。
 もちろん,剪定作業もしています。でも,仕事のほとんどは公園の造成工事や大木の植栽作業です。ハサミをもつよりもスコップを使ったり,ユンボやクレーンなどを操る作業のほうがはるかに多いです。造園の仕事をしようと入ってきた若い人の中には,やはりハサミを持つイメージで入ってきたのに,一日中スコップをもって作業するのを意外と感じる人も多いみたいです。
 職長としての業務内容を教えてください。
 職長としては職人の配置をしたり,現場の作業の段取りをするのが主な仕事になります。私たち造園の仕事というのは,ひとつの現場には長くいないんですよ。短い期間の作業ですから,他業種の方の進行具合を常に気にしてないといけません。植栽する樹木の搬入などは1日でもずれてしまうと,生き物ですから弱ってしまうので,ちょうどいいタイミングで搬入することがとても大切です。あと天候に左右されるので,常に天気を気にすることも職長の仕事のひとつです。天候が悪い時は植栽の作業などは樹木も傷つきますし,危険なのでできません。常に予報をチェックしています。
 あとは安全に作業するために安全管理もかかせません。大木の植栽の作業などは一瞬も気を抜けないので,職人たちにも注意して作業するように声をかけています。

★四季を感じられるすばらしさ
 印象に残っている現場は?
  どの現場も印象に残っていますし,思い出深いのですが,ひとつあげるとすると17トンの椎の木を植栽した現場ですね。木はどんなに大きくても少しの傷で弱ってしまい,最悪の場合枯れてしまいます。私たちの仕事は,扱っているものが大きいので,見た目は豪快な感じがするのですが,実はとても繊細で細やかな作業なんです。植栽予定の樹木などは本当に大切に扱わないと元気がなくなったりしますので,いつも細心の注意を払っています。
 造園のお仕事の魅力はどんなところにあると思いますか?
 植物が相手ですから,いつも四季を肌で感じることができることですね。木ってすごいんですよ。同じ種類のものでも,生えている場所や枝の位置の違いで葉が全然違うものになるんです。それだけ,いろんな形や色があるものを相手に仕事をすることができるのは造園の仕事だけではないでしょうか。樹木だけでも何千種類もあります。それらを日々勉強していくことができるのも魅力のひとつかもしれません。  
 あとは現場がうまくいった時の爽快感とお客様に喜んでいただいた時は,本当にうれしいですね。
 お仕事の話から少し離れます。ストレス解消法は何かありますか?
 ストレスとか感じないですよね(笑)。緑が相手だからかな。だからストレスの解消法とかもないんですよ。仕事ではきちんと段取りさえしていれば,いつでもスムーズに仕事が進むと思うので,先々を読みながら段取りや手配をしています。要はストレスを感じる原因をなくせばいいわけですから,日々の作業をきちんとしていれば『あーこうすればよかった』という後悔もなくなると思います。結局,そういうちょっとした後悔がストレスに感じてしまうんだと思うんです。自分は毎日楽しく仕事しています。
 趣味などありますか? また休日はどのようにお過ごしですか?
  趣味という趣味はないですね。あきっぽいので2〜3ヶ月すると違うこと始めてしまうんですよ。今は釣りですね。
 その他に休みの日にしていることは,家の庭いじりです。仕事だとなかなか自分の思い通りにできないところもありますが,自分の家だといろいろ自分勝手にできるので楽しんでいます。あと,庭でしいたけ栽培などもしています。休みの日も緑と接している時間が多いみたいです。
 
りょうこのひと口メモ
◎緑のホームページ
 ここ数年大変流行しているガーデニング。緑に接することで癒しの効果もあるのか,老若男女を問わず誰もが楽しめる趣味のようです。ただ,植物を扱うので素人の人には難しいことや分からない点が多くあるかもしれません。そんな時にプロの方のアドバイスを受けるのもよいのでは。  
 造園業団体ではホームページも開設していて,一般の方へのワンポイントアドバイスやその他参考になる記事が多く掲載されています。一度ご覧になってみてはいかがでしょうか? ますます興味を持つことができ,楽しめるかもしれません。
(社)日本造園組合連合会    http://www.jflc.or.jp/
(社)日本造園建設業協会    http://www.jalc.or.jp/
 

★自分自身の成長と後継者教育
 大場造園さんの会社の魅力をお聞かせください。
  自分たちのやりやすい仕事ができるというところだと思います。能力に応じた仕事をまかせてもらえますから,やりがいもありますね。
 うちの会社はどんなに小さい現場でも必ず2人以上で行くようにしています。何かあった時にすぐに対応もできますし,一人ひとりが作業に集中できると思います。作業に集中できることでよい品質のものが提供できると思います。
 最後に今後の抱負をお聞かせください。
対談写真 現在会社でISOの認証取得に向けて準備を進めているところなんです。自分ができる限りのバックアップをしたいと考えています。会社のレベルアップもありますが,きちんと整理して業務をすすめていくことは将来のためにもとても役に立つと思います。
 最近はガーデニングが流行していて,一般の方も緑に接することが多くなり自分でもできると考えて造園の仕事を始める方が増えています。みなさんが造園について興味をもってくれることは大変うれしいですが,私たちの仕事は誰もがすぐできるほど簡単ではなく一人前になるには年月が必要です。長い経験と知識が必要な仕事ですから,自分の培ったものを若い人たちに教えていけたらいいなぁと思っています。技術や知識のある職人が増えることが業界のレベルアップにつながると思います。今の若い人はとてもまじめな人が多いのですが,何かが少し足りない感じで歯がゆくなる時があります。自分の知識や経験,そして技術を教えて立派な職人を一人でも多く育てあげたいです。造園の仕事は奥が深く,毎日が勉強です。自分自身も日々勉強を怠らず,これからもがんばっていきたいと思っています。


◎取材を終えて
関矢良子さん 取材日は本当に暑い日でした。都築さんも暑い中での作業を切り上げて,取材場所の会社まで戻ってきていただきました。真っ黒に日焼けしたお顔は現場で毎日がんばっているというのがわかる精悍な姿で,男らしいかっこよさがあります。
 造園の仕事は豪快な感じに見えて,とても繊細。そのうえセンスが問われます。そして植物が本当に好きでなければできない仕事でもあります。都築さんはお休みの日にどこかおでかけになっても常に植栽されている樹木や花壇などを見てしまうそうです。元気がないものをみるととても悲しくなってしまい,すこし変わっている植栽があるところなどではじっくり見て研究するという熱心さ。数え切れない種類の植物を理解し,今も勉強を続けているそうですが,大好きなことなので全然苦にならないそうです。『自分で扱うものを理解していないといい仕事ができない』と本当に広く深い知識をお持ちです。
 また,植栽のタイミングが重要な造園のお仕事では,他業種の方の業務についても把握できてなくてはいけません。都築さんは,一緒に入っている他業種の方の進行具合はもちろん作業内容についてもほとんど頭に入れて作業しているそうです。当たり前のことなのかもしれませんが,いろいろなことを同時進行で段取りするということはなかなかできることではないと思います。
 これからは後継者教育に力を入れたいと話す都築さん。都築さんのように知識と技をあわせもつ職人が将来増えていくことは,とても必要で大切なことだと思います。何年たってもわたしたちの暮らす町が緑豊かな素敵な町でありつづけることにつながるような気がします。