職長さんこんにちは第19回/内藤塗装工業(株)/齊藤又吉 氏 (聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

齊藤又吉 氏
▲齊藤又吉 氏
 今回の職長さんは埼玉県本庄市の内藤塗装工業(株)の齊藤又吉(さいとう・またきち)さんです。齊藤さんは職長として長年経験をされ,現在は取締役工事部長として職長さんたちや多くの職人さんたちを束ねるお仕事をされています。また,建設マスターも受彰されていて,技とリーダーシップを兼ね備えているマスターの条件にぴったりとあてはまる方です。職長時代の現場でのお仕事のこと,現在のお仕事のことなど,たくさん聞いてみたいと思います。



★毎日あきない楽しい仕事

 このお仕事に入られたきっかけを教えてください。
 私は秋田県出身で,学校を卒業してから,就職のためこちらに出てきたのですが,最初にした仕事が自分には合ってなくて,すぐやめてしまったんです。何か自分に合う仕事をしたいと考えていましたら,私の従兄弟が塗装の仕事をしていた関係で現在の会社を紹介されました。もう30年近く前ですから,この仕事は自分に合っていたんだなとつくづく思います。実は,同期で入社した人間が私を含め15人いたのですが,残っているのは私1人だけなんです。
   
 最初にしたお仕事はあまり続かなかったみたいですが,塗装のお仕事が続いたのはどうしてだと思いますか?
 現場に行けば,その日によって塗る場所も変われば,塗る色も違うので毎日あきないし,いつでも新鮮な感じで仕事ができたのがよかったのだと思います。本当に毎日楽しかったんですよ。楽しいと思って過ごしていたら,こんな年齢になっていました。(笑)
 普段の業務内容について教えてください。
 現在の私の仕事は,各現場のとりまとめ役です。ひとことで言うと管理の仕事ですね。我が社で担当している現場全ての工程・安全・品質そして予算管理をしています。もちろん各現場には職長がいるので,それぞれ担当している現場の工程管理・安全管理・品質管理については任せていますが,月に1回程度各現場にパトロールに行って作業や予算のチェックをしています。気になることや注意すべきことがあれば,職長に対して改善するように指示をします。

★建物をお化粧する

 塗装のお仕事で一番ご苦労されるのはどんなところですか?
 塗装の仕事には雨が要りません。雨が降ると仕事になりません。室内の仕事はともかく,外の仕事では一粒の雨でも仕事は中止になってしまいます。
 それから,風も要りませんね。多少の風ならあまり影響ありませんが,これから季節風が吹き始めてきます。この程度の風なら大丈夫だと思い,塗装をしたところに風で運ばれてきた埃などが着いてしまい塗り直しになったり,風で塗料が飛んでしまい周囲に迷惑をかけてしまったり,吹付けなどの時は養生が出来なかったり……。私たち塗装の仕事をする者にとって,雨や風は本当にいつも悩まされているやっかいなものです。このようなことがそのまま工程の遅れにつながったり,また無理をして作業したりすると必ずと言っていいほど,トラブルの原因になります。どのようなときでもお客様に迷惑をかけないように工程・品質管理の打合せを密にして,工期内に工事を仕上げるよう努力しています。
 私もそうなんですが,何かに塗料を塗っていく作業ってなかなか上手にできないと思います。何かコツなどはあるのでしょうか?
 塗装の仕事は難しいものなんですよ。1人前になるまでには長い年月が必要です。ですから,普通の方がきれいに仕上げることは結構大変だと思います。
 コツとしては1回で仕上げようと思わないことですね。私たちでも,2〜3回は重ね塗りをしています。あと,一度に多くの塗料をつけないということも重要です。1m2あたりで必要な塗料の量は110〜130グラムと決して多くはありません。少ない量を,様子を見ながら何度も重ねていくことがポイントですね。
 様々な色の建物がありますが,だいたい塗装のお仕事では何種類ぐらいの塗料 を扱っているのでしょうか?
 どれくらいあるんでしょうかね。(笑)本当にすごい数ですよ。メーカーだけでもすごい数ありますし,塗料の種類になったら何千種類もあるんじゃないでしょうか。各メーカーもどんどん新しいものを開発していますので,とても全ては把握できません。
 塗料も昔は体によくないものが多く使われていましたが,今はメーカーでもいろいろ開発していまして,環境に優しいものやマイナスイオンがでるもの,汚れにくいものや,汚れても雨で落ちてしまうものなど。特に人体に優しいものは,職人たちにとってもありがたいですし,お客様も安心できると思います。最近では学校や病院などの塗り替えには体や環境に優しいものが必ず使われていますね。
 
りょうこのひと口メモ
◎「いいいろ塗装の日」
 1年365日毎日が何かの記念日になっていると思いますが,建設業界でも多くの記念日があります。7月7日の「川の日」,8月10日は「道の日」,4月28日は「庭の日」として認定されました。
 塗装業界でも平成10年に「いいいろ塗装の日」を決め,毎年ピーアール活動をしています。いいいろ塗装の日は11(いい)月16(いろ)日。その日は塗り替えについて考えたり,様々な建物の色についてじっくり観察してみてもいいかもしれません。
 
 塗装のお仕事の魅力はどんなところにあると思いますか?
 塗装の仕事はお化粧なんですね。塗装作業をしていると,建物がどんどんお化粧されきれいになっていきます。自分でも満足のいく仕事をして,お客様に喜んでいただけることが一番の魅力だと思います。
 建設マスターを受彰されていますが,受彰された時はどんなお気持ちでしたか?
 正直言うと自分でいいのかなと思いました。もっとふさわしい方が大勢いらっしゃるのに,自分が選ばれたのはとても光栄なことでした。もらいたいと思っても,なかなかもらえるものではないですから,本当にありがたいなぁと思いましたし,励みになりましたね。

★塗装で明るい気持ちに
 内藤塗装工業さんの会社の魅力をお聞かせください。
 会長が本当にすばらしい人なんです。私が入社した時は社長でしたが,本当に包容力のある人で社員一人ひとりのことを常に考えてくれています。就職の面接などは自ら入社希望の人の家に出向いていくんです。どんなに遠いところにでも自分で必ず行って話をして,ご両親にも会ってきます。だから,会長は一人ひとりの家族構成や暮らしていた環境まで把握しています。地方から東京に出てくる人は不安もあると思いますが,ご両親は安心して送り出せると思います。  
 人と人とのつながりを本当に大事に思う会長の精神が,会社の仕事にもあらわれているように思います。
 最後に今後の抱負をお聞かせください。
対談写真 今後も今まで通り管理の仕事が続くと思いますが,現在我々を取り巻く状況は非常に厳しくなっています。特にここ数年は工事単価の下落が続いていて,その単価に対応するのもおぼつかない状態になっています。しかし,このまま流されていたのでは仕方がないので,私は『塗装で明るく』の合い言葉で塗装で建物を綺麗にそして長持ちさせて多くの人に喜んでいただけるよう一つひとつの現場を大切にして,次回の塗替えの時にもお声がかけてもらえるように頑張っていきたいと思います。


◎取材を終えて
関矢良子さん 今回は埼玉県本庄市の本社が取材場所でした。都心から1時間ほどで本庄駅に到着。電車の中からも見える大きな看板と大きい社屋は目の前で見ると本当に立派です。内藤塗装工業さんは本州の各地でお仕事をされていて,本当に広範囲で活躍されています。扱う工事も,一般の戸建住宅から高速道路の橋梁まで多種多様に及びます。現在も全国各地に現場があるため,月1回は遠くにある現場にでも必ず顔を出しているそうです。「仕事ですからね」とおっしゃっていましたが,顔を出して職人さん一人ひとりの様子を見に行っているところは,会長さんの人と人とのつながりを大事にするという精神が引き継がれていると感じました。
 職人から職長へ,そして現在は会社の取締役として活躍されている齊藤さん。今でも現場に行くと塗り方などが気になってしまうという,現場が大好きな「職人魂」の持ち主です。職人の頃の気持ちを忘れずに,お仕事に取り組む姿勢は現場で働くみなさんにとって,大変心強く安心できるものだと思います。現場を愛し,職人を気遣い,お客様を大切にする……にこやかで口数は少ないのにそんなことがひしひしと感じられる情熱のある方だと思いました。