職長さんこんにちは第20回/扶桑工業(株)/湯口好光 氏 (聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

湯口好光 氏
▲湯口好光 氏
  「職長さんこんにちは」も今回でなんと20回!! 初めの頃はいつまで続くのだろうと思っていましたが,たくさんの方々のご協力でここまで続けることができました。そんな記念すべき20回目の職長さんは,扶桑工業(株)の湯口好光(ゆぐち・よしみつ)さんです。湯口さんは,内装仕上工事の職長さんで軽量鉄骨下地やボードなどを扱っています。今年度誕生した501名の建設マスターのお一人で,実は本誌7月号の「建設マスター受彰者の声」でもインタビューを受けていただいていて,本誌2度目の登場となります。前回は喜びの声ということでしたが,今回はお仕事のこと,ご自身のことなどたくさんお話していただきました。



★建設現場を見た時から

 このお仕事に入られたきっかけを教えてください。
 「私はこの仕事を始めたのは28才ぐらいの時で,決して早くないのです。それまでは営業の仕事をしていたのですが,仕事にやりがいが感じられなかったんです。大変な仕事ではなかったので体は楽でしたが,気持ちが休まらないという感じでした。ある時,建設現場の作業を見て『あぁ,いい仕事をしているな』と思ったのが,この仕事を始めるきっかけです。前の仕事は全然続かなかったけれど,今の仕事がこんなに長く続けてこられたのは,自分に合っていたんだと思います。」
   
 普段の業務内容について教えてください。
 「内装仕上げの仕事はいろいろとありますが,私がしているのは軽量鉄骨下地とボードを貼るのが主な仕事です。ボードは施工場所によって貼る枚数が違ってきたり,厚みや素材も変わってきます。例えば火災などに強くしたい場合は,防火性の高い厚みのあるものを重ねて貼ったり,遮音だけでいい場合はもう少し薄くて防音性のあるものにしたり。用途にあわせたボードを貼っていくわけです。」
 職長としての仕事内容を教えてください。
 「工程管理・品質管理・安全管理が主な仕事です。私どもの内装仕上工事の仕事はどうしても,工期が厳しくなってしまいます。ですから,工程管理は重要になってきます。工期が延びてしまうと,後から入る業者さんに迷惑がかかりますし,お客様にも迷惑がかかってしまいますから。
 あとは安全管理は大切ですね。職人たちが安全に作業できるよう,現場を回って声をかけていきます。ちょっとしたことが大切だと思うので,声をかけ顔を見て回るようにしています。」

★全ての現場がすばらしい思い出

 職長として一番気を使う点は?
 「まずは他業種の方とのおつきあいですね。さきほどもいいましたが,私どもの作業は工期が厳しくなります。ですから,他業種の方との連携はなくてはならないものです。これがスムーズに進む現場はとても仕上がりも良いと思います。ですから,職長同士のコミュニケーションはきちんとするように心がけています。
 あとは職人の配置ですね。一人ひとりにあった作業をさせないと効率がよくなりません。それと,職人同士の相性もありますので,誰と誰を同じ仕事につかせるかということには気をつけています。どんな仕事もそうだと思いますが,人間関係というのはとても大切です。相性の良い同士で作業すると,1たす1が2ではなく3や4になるのですが,逆に相性の悪い同士で作業すると1たす1が2にならず1.5や1になってしまうんです。職人たちも相性の良い仲がいい人と組んだほうが楽しいと思いますし,作業効率も格段にあがり,良い品質のものが出来るので,配置については気を使っています。」
 長い経験の中でどこか印象に残っている現場はありますか?
 「全部です。多くの数の現場を経験していますが,どの現場も印象に残っていて思い出深いです。新築工事・改修工事,大きい現場・小さい現場,どの現場についても作業について覚えています。大変な現場ほど印象に残っていますね。ただ,なかには二度と行きたくないところもありますよ。(笑)でも,楽しかった現場もつらい思い出のある現場も,どれもすばらしい思い出です。」
 このお仕事をしていて良かったなぁと思うことはどんなことですか?
 「自分のイメージ通りに現場が仕上がった時ですね。私たちの仕事は平面的な図面を立体的につくっていくわけですから,頭の中で『こうしよう』とイメージするのがとても大切なんです。自分で描いた通りに実物が出来ていくと,やってて良かったと思います。どんな仕事でもそうだと思うのですが,自分の思い描いたイメージのものが出来るとすごく満足感があると思います。」
 
りょうこのひと口メモ
◎内装仕上工事業
 内装仕上工事は私たちの生活の中でも一番身近なところを担当しています。その種類は多種多様で,天井や壁の他,たたみなどもこの業種に含まれています。屋内で見えるものは全てと言っても過言ではないかもしれません。
 建設業というと大きいビルや橋,また住宅などを造っているというイメージが強いですが,身近なところにも多くの建設業の仕事が存在し,私たちの生活の中で役立っています。
 
 建設マスター受彰おめでとうございます。受彰された時はどんなお気持ちでしたか?
 「本当にうれしかったですね。たくさんの諸先輩をさしおいて自分がもらっていいのかなとも思いました。あと『湯口がんばれよ』と尻をたたかれ,叱咤激励された気分になりました。今までも仕事に対して全力を出していましたが,マスターになったことでさらにがんばらなくてはと強く思いました。
 マスターの受彰パーティの会場で,昔からの知り合いに会ったんです。違う業種ですが,ずいぶん前に仕事でご一緒させていただいた方です。懐かしい顔にも会えて本当にうれしかったですね。あと,妻が本当に喜んでくれました。着ていくものをせがまれて,多少出費がありましたが(笑),でも本当に良い経験をさせていただきました。」

★根っからの「現場人間」
 ストレス解消法など何か趣味などはありますか。?
 「趣味という趣味はないのですが,少しまとまった休みが取れる時は遠出をして,神社仏閣にいきます。朱印をもらって,建造物を見てくるのが好きですね。神社やお寺に行くと時間が止まったような錯覚があるんです。時を忘れ,しばしのんびりすると心がおだやかになります。あとは釣りなどもします。短気だから釣りには向いているんじゃないですかね。(笑)
 仕事が忙しいときは休みものんびりと家で過ごすことが多いです。でも,家にいるより現場にいたほうが気が楽ですね。家にいても結局現場の作業のことを考えてしまうんですよ。実際現場にいれば,すぐにインスピレーションが働いて『こうしよう』とか考えがすぐに思いつくのですが,家にいるとそういうのが働かないので,現場にいるより疲れてしまうんですよね。根っからの現場人間なんですよ。仕事というより,現場が好きなんですね。」
 最後に今後の抱負をお聞かせください。
対談写真 「これからもこの仕事を続けていきたいですね。元気でいるうちはずっと現場で働いていきたいです。一つひとつの現場を大切に,そして無事に終えて,次の現場その次の現場と続けていけたらうれしいですね。」


◎取材を終えて
関矢良子さん 取材場所の扶桑工業さんにお伺いしましたら,バンダナを額にまいたとてもおしゃれな方が目の前に現れました。それが湯口さんです。取材だからとバンダナをはずしてしまわれた時は「かっこよかったのに……」と内心残念な気持ちになりました。作業をしているとどうしても汗が出てきてしまうので,バンダナで抑えているとのことでしたが,湯口さんの雰囲気とバッチリとあっていてとても素敵でした。
 建設マスターのことをお伺いしたら,少し照れながらも喜びを語ってくれました。7月号でも喜びの声ということでインタビューをさせていただきましたが,その時もにこやかに対応していただきました。湯口さん自身が誰に対しても親切に接しているあらわれのような気がします。
 朝と夕方に現場を一回りして,必ず職人さん一人ひとりに声をかけ,顔を見て「疲れてないか」「具合が悪くないか」と確認をしているそうです。職長として職人さんのことを考えるのが一番大事だと話す湯口さん。人をまとめる仕事というのは誰もが出来る仕事ではないと私は思っていますが,湯口さんは職長さんとして人をまとめる才がある方だと思います。自分のことは二の次で職人さんを第一と考えられる,湯口さんのような職長さんと働ける職人さんは本当に恵まれていると思います。
 体が動く限りは現場にいたいとおっしゃっていた湯口さん。根っからの現場人間の現場人生はまだまだ続きそうです。