職長さんこんにちは/第24回(最終回)(有)竹村鉄筋/大崎艶子氏 (聞き手:(財)建設業振興基金 関矢良子)

大崎艶子 氏
▲大崎艶子 氏
 2001年4月号から始まり,2年間連載が続いてきました「職長さんこんにちは」も今回が最終回となりました。最終回ということで,今回はどうしても話を聞いてみたいと思っていた職長さんにご登場いただきました。トリを飾る職長さんは,高知県春野町にある(有)竹村鉄筋の大崎艶子(おおさき・つやこ)さんです。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが,大崎さんは平成14年のマスター顕彰で501名のマスターの代表として顕彰状を大臣から受け取った方です。女性のマスターは大崎さんを含めて現在3名。また,高知県では女性でただ一人の1級技能士取得者。女性では厳しいといわれる建設業界において,大崎さんのような職長さんはとても頼もしく感じられます。家事と仕事の両立を立派に務めている働く女性の先輩に,聞いてみたいことがたくさんあります。



★仕事ができる喜び
 このお仕事に入られたきっかけを教えてください。
 隣の家の奥さんが鉄筋の仕事をしていて,やらないかと誘われたんですよ。結婚してしばらくは屋内の仕事をしていたのですが,子どもが小さくて手がかかったので,やめてしまったんです。子どもも少し大きくなってからは,家で家事だけしているのが本当につまんなくて毎日悶々としてました。何か仕事したいなと考えていた時に話がきたので,やってみようと思いました。隣の奥さんもしてましたし,自分の母親もしていたので,あまり不安は感じずに始めました。もう20年くらいになります。
 鉄筋のお仕事を女性が続けていくのにはご苦労も多かったのでは?
 苦労なんて全然感じなかったですよ。外での仕事は楽しくて仕方なかったです。ただ,現場で3日間仕事したらすっかり日焼けしてしまって,顔が真っ黒です。それまでは白くてキレイな肌だったんですけどね(笑)。手も本当に細くて華奢な指だったのに,こんなに太くなってしまって…。現場の仕事って,男も女も関係ないんですよ。がんばってやればやっただけ,認めてもらえます。仕事を始めた頃は,あの人にできて自分にできないことはない,男性にも負けないという気持ちでがんばっていました。鉄筋をかつぐ量も結束していく速さも,誰にも負けたくないと思っていました。最近は年のせいか若い人にまかせてしまうことも多いですけど(笑)。男性に負けたくないとがんばっていましたので,鉄筋を結束していくのは結構速いと思います。どれだけ速いのかと隣で競争しながら作業する職人さんがいましたね。でも,ほとんど私が勝っていましたよ。
 普段の仕事内容は?
 工事の最初から最後まで全てまかされています。図面から,どれだけの材料が必要かを洗い出して,工場で加工する鉄筋の指示もしています。現場では,加工されたものを組み立て結束していきますが,それらの指示も各職人さんたちにしています。職人さんの配置は作業能率が上がるように,考えながらしています。ベテランの人と若い人を組ませたりして。自分でも作業はしていますので,みんなに指示して全体を確認しながら,自分の作業をしています。


★男の人には負けない!!
 現場に女性の職長さんがいらっしゃると驚かれたりしませんか?
 最初の頃は驚かれて,『女で平気なのか』と嫌味を言われたこともありましたが,最近はみなさん知っているのか驚かれなくなりました。
 建設業というと女性がいないというイメージがあるかもしれませんが,私が仕事を始めた頃は女性も結構いたんです。先ほどもお話しましたが,私の母親も昔鉄筋の仕事をしていました。
 私の若い頃は仕事は誰も教えてくれなくて,見て覚えていかないといけなかったんです。わからないことがあっても,周りに聞けないし,自分からも悔しいから聞かなかったんですね。その代わり,よく母親に聞きにいったりしました。負けず嫌いなので他人には頼りたくないんですよ。ですから,普段現場で見て覚えたことや,母親に聞いたことなどをノートにメモしていました。作業でわからないことがあった時は,ノートを見て復習してから作業したものです。
 現場で女性が働く上でのメリット・デメリットはどんなところですか?
 デメリットは特にないけど,トイレが苦労しますね。現場の仮設トイレは男性用しかなくて,昔はよく公園などのトイレを探して行っていました。今は,現場に自分用にトイレを設置してもらっています。
 メリットは泣き落としがきくところですかね(笑)。というのは冗談ですが,所長さんと交渉事がある場合は話し合いがスムーズに行く場合が多いですね。女性ということで大目に見てくれる方もいます。ただ,全然通じない人もいますけど(笑)。


★つやちゃんなら安心
 マスター受彰おめでとうございます。代表で顕彰状を受け取った時はどんなお気持ちでしたか?
 すっごく緊張してしまってあまり覚えていないんです。数日前に代表で受け取ると聞かされて,どうしようと思ったんです。当日会場に行ったら,他のマスターの方々の同伴でいらっしゃっていた奥様たちがきれいな着物で来ていたので,『こんなんじゃ恥ずかしい』と思ってしまいました。自分ももっと派手な格好でくればよかったって(笑)。
 会社の魅力について教えてください。
 男女関係なく仕事をまかせてくれるところですね。がんばればがんばっただけ認めてもらえます。あと,社長をはじめみなさんとてもいい人ばかりです。親身になって相談にのってくれますから,仕事をしていても安心感があります。
 ストレス解消法はなんですか? また休日に楽しめる趣味とかはありますか?
 今は釣り。釣りは楽しいですよ。磯釣りに行くんですけど,あの仕掛けを作って魚がかかるまでの間が本当に楽しくてドキドキします。魚が釣れた時よりも自分で作った仕掛けにどんな魚がかかるのかと待っている時間のほうが楽しいから不思議です。もちろん釣れるともっとうれしいですけど。あとは山菜取りです。山菜取りでは近所ではちょっと有名人です。山に行くと,山菜の他に竹の子や山いもなども取ります。海や山に行くのは本当に大好きです。外で仕事しているせいか,自然に囲まれている時が一番楽しく感じます。
 息子さんが3人いらっしゃるということですが,家事・子育て・仕事をこなしていくのは大変だったのではないでしょうか?
 家事は手抜きしていましたから,全然大変じゃなかったですよ(笑)。両親も近くにいたので,だいぶ助けてもらいました。今,一番下の子が一緒に現場で働いているんです。どうしても,他の職人さんよりこき使ってしまうので,家でいつも文句言われてます。『お母さんと一緒だと大変だ』って。でも,一緒の仕事をできることはとても楽しいし,うれしいです。
 最後に今後の抱負をお聞かせください。
インタビュー風景 この仕事が本当に大好きなので,これからも体の動く限りは続けていきたいと思っています。今までも現場でみなさんにかわいがってもらっていましたが,これからも変わらずかわいがってもらえるようにがんばっていきたいと思っています。
 あと,『つやちゃんに任せておけば安心だね』と言われるように,一つひとつの仕事を大切にしていきたいですね。所長さんにまた来て欲しいと言われるような信頼してもらえる仕事を,これからも続けていきたいと思っています。まだまだがんばりますよ!!


◎取材を終えて
関矢良子さん 最終回ということで今回はどうしても大崎さんにお願いしたいとご連絡をしたら,とても快く取材にご承諾いただきました。現場が忙しいところにご無理をお願いしたのにもかかわらず,にこやかな笑顔で迎えてくださり,本当に感謝の気持ちで一杯です。行く前に想像していた大崎さんは大柄な体型で男勝りな方だと思っていたのですが,体は私より少し大きいくらいで,話し方は優しくて面白い(取材中ずっと笑い続けていたような気が…),年上の方に失礼かもしれませんが茶目っ気のある本当にかわいらしい方です。ですから,現場で何十キロもある鉄筋をかついで大勢いる男性の職人さんたちに指示しているなんて,本人にお会いすると全く想像ができません。家事が苦手で外で仕事しているほうが自分にあうとおっしゃっていましたが,息子さん3人を立派に育てたわけですから,職長・主婦・母親の3役を20年にわたってこなしてきたことはとてもすごいことです。私たち女性にとって,大崎さんのような存在は見習いたいと思う素敵な先輩だと思います。
 体の続く限りは仕事を続けていきたいと話していた大崎さん。会社や現場では「つやちゃん」と親しみを込めて呼ばれています。つやちゃんが元気でいつまでも活躍されることを私も心から祈っています。