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連携体名 苫小牧地域の多能工化連携体 事業管理者名 (株)日栄工業
所在地 北海道苫小牧市 構成員 (株)コウセイホーム、
北海道コードー設計(株)

■人材不足による受注機会の逸失に、危機感を抱き打開策を模索
 北海道の苫小牧地区には、大企業の製造拠点が多数立地し、全国4位の港湾取扱貨物量(平成27年)を誇る苫小牧港もある。こうした地域特性から、北海道の中では比較的仕事が多く景気も良いため、地域の産業を支える人材の不足が顕著となっている。しかも苫小牧市がIR(カジノを中核とする統合型リゾート)の候補地に選定され、誘致への期待が高まっていることや、近隣の北広島市への新球場の建設に伴う、新駅設置を核とした鉄道施設整備の構想などもあって、地域の人材不足にさらに拍車がかかることが懸念されている。
 このような状況を背景に、苫小牧市に本社を置き、管工事、水道施設工事を主力事業とする建設企業、(株)日栄工業では、人材不足により受注機会を失うことに危機感を抱き、その打開策を模索していた。

■地域の中小建設企業が連携し人材を共有、それぞれの事業を展開する事業協同組合
 そこで同社が思い立ったのが、地域の中小建設企業が連携し、人材を共有しながらそれぞれの事業を展開していく仕組みを持った、事業協同組合の設立である。現在のような地域の状況下で、各社とも人手が足りない時、必要な人手を探すことに大変苦労している。そこで同社は、複数の建設企業で人材を共有する体制を作り、しかもその人材に対し、各社で様々な技能を教え合うことをしておけば、応援や手伝いが簡単にできることになるかもしれないし、非常に有意義であると考えた。
 しかし、仕事が忙しい時に、知り合いの企業に「ちょっと手伝ってほしい」と声を掛け、応援を受けるのとは違い、それを事業として体系化することは極めて難しい。
 そこで同社は、各社が連携し人材を共有するメリットを明確に示すことによって賛同を集め、地域の様々な業種の企業による協力体制を確立していきたいと考えた。そのためにも、事業協同組合を設立し、組合としての明確な理念やビジョンを打ち出していく必要があった。

■多能工共有による効率化で利益率が向上、待遇改善を実現し職人の離職率低下に期待
 事業協同組合は、(株)日栄工業と、日頃から同社と協力関係にある地元の建設企業、(株)コウセイホーム、北海道コードー設計(株)の3社が発起人となり設立することとなった。組合の共同設立に向けた具体的な取組み内容は、連携企業間の職人の補完・代替・啓発による実技指導の実施や、職人研修会の開催、職人の住宅建築に係る技能資格の複数取得の奨励と実践などである。
 建設企業間で、複数の技能を身に着けた職人、すなわち多能工の共有による協力体制を事業として確立する今回の取組みは、現場の人材不足を解決し受注機会の逸失を回避するだけでなく、作業の効率化が進むことによる利益率の向上と、それに伴う現場人材に対する賃金アップにもつながる。職人の待遇が改善されることで、その離職率が低下することも、組合設立のメリットの一つとして期待される。

■様々な技能を持つ専門家が集まる組合内で、相互に技能を教え合う関係を構築
 平成30年10月18日の第一回を皮切りに、3社は随時事業推進会議を開催し、連携のあり方と組合の役割、多能工化のための技術指導の進め方等について検討、打ち合せを重ねている。
 一般的な住宅の建設には、10業種程度の専門工事業者が関わっている。したがって、組合にも多くの専門工事業者が参加し、様々な技能を持った専門家が集まることになり、その状況を有効に活かすことが、人材共有と多能工化に取組んでいく上で、重要なポイントとなる。そこで、“相互扶助組織”である組合の意義を踏まえた、「技能を教えるとともに、技能を学ぶ」、相互関係を構築することが計画されている。
 具体的には、組合員企業の熟練職人を講師として、各社の職人に、自分が専門とする工種の前後工程を中心に、新たな技能について講習を受けさせることが検討されている。その際は、講師には講師料が支払われ、また、講習を受ける者は、講師の手掛ける現場を手伝うことになる。こうすることで、手間暇のかかる講師の役割に対して報いることができ、また、組合員各社は、講習を受ける者を、講師料というお金が発生しているのだからしっかりと学んでくるように、と送り出すことができる。このような、「しっかりと教える、しっかりと学ぶ」体制の確立が、今後組合が事業を進めていく上での、根幹となる取組みとして位置づけられている。

■組合の形態をとりながらも、各社が競争力を発揮できる事業形態を確立
 組合は、住宅の新築を専門に受注する組織としても機能することとなるが、組合が前面に立って一括受注するのではなく、組合員である専門工事業者が工種ごとに、それぞれ発注者と直接契約を行う仕組みとすることが計画されている。組合が担う主な役割は、全体の調整や管理監督、資材の購入などである。こうすることで、元請企業が下請企業に仕事を振り分ける形の、一般的な住宅建設において見られる元請企業の取り分(諸経費)加算がなくなるため、組合は、他の建設企業よりも低価格で住宅を提供できるという、優位性を持つこととなる。
 このように、組合の形態をとりながらも、各社がそれぞれの競争力を発揮できる事業形態を確立していくことで、3社は組合としての営業力強化、ブランド化を図りたいと考えている。
 なお、組合はその設立後、住宅の新築を対象に事業を進めるが、連携が整い拡大していけば、リフォームなども手掛けていく予定である。

■すでにベテラン技能者による講習実施など、組合設立後を見据えた具体的な取組みが始動
 組合設立に向けた準備の一環として、地域の中小建設企業に向け参加の呼びかけを行ったところ、5社(サイディング工事業2社、塗装工事業1社、電気工事1社、土工事業1社)が参加する予定となった。いずれも人手不足や人材育成に関し、様々な悩みを抱えていることから、組合の事業の成功に強い期待を寄せている。すでに、参加予定の電気工事会社の1級電気工事施工管理技士、及び塗装工事業者の1級塗装技能士が講師となってそれぞれの専門分野についての講義と実技指導を行うなど、組合設立後を見据えた具体的な取組みが始まっている。

●人材不足の解消という目的だけでなく、地域の中小建設企業が今後事業展開を有利に進めるためにも、人材を共有しながら事業展開できる仕組みとして、事業協同組合を立ち上げることとした。
●共有人材の多能工化を図るため、組合に参加する各社の間で、それぞれが専門分野の技能を教える、学ぶ体制を構築するという方向性を打ち出した。