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連携体名 (一社)東信建設アカデミー 事業管理者名 (一社)東信建設アカデミー
所在地 長野県立科町 構成員 5社

■建設業の担い手不足が深刻な中、注目される「i-Construction」
 年々少子高齢化が進んでいることや、景気が回復基調にあることなどから、わが国では多くの産業において担い手不足が顕著となっている。その中でも、建設業はいわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが連想されることなどから若者に敬遠され、新規入職者の確保が難しい産業となっている。しかも、全国の建設現場で働いている技能労働者の3分の1にあたる約110万人が、高齢化によって今後10年で離職することが予測されている。
 このように、建設業は新規入職者を思うように確保できないことと、熟練技術で現場を支えてきたベテラン職人たちの急激な減少とがあいまって、深刻な人材難に直面している。
 このような状況の中、注目されている取組みがある。それは、国土交通省が「i-Construction」と銘打って進めている、建設生産プロセスにおける抜本的な生産性向上を図る取組みである。

■i-Constructionの重点施策「ICT土工」その必要人材を地元で育てる教育訓練機関
 i-Constructionの重点施策の一つとされているのが、ICT(情報通信技術)を全面的に活用する、「ICT土工」である。その具体的な取組みはドローン(無人航空機)や地上レーザースキャナーによる3D測量、マシンコントロール技術などを、調査・設計から施工・検査、さらには維持管理・更新まで、土工の全てのプロセスにおいて導入することである。これによって建設現場における省力化と生産性の向上が進み、より少人数での施工や、「3K」イメージの払拭が実現すれば、担い手不足に悩む状況に対して、新たな活路が切り開かれるものと、多くの建設企業が期待している。
 ICT土工に対応するためには、若手技能労働者のみならず、熟練技能労働者についても新たな視点での教育訓練が必要となる。しかし、既存の教育訓練機関の多くは東京、大阪などの大都市圏にある。そのため、地方の中小建設企業が従業員を送り出し教育訓練を受けさせようとすると、費用がかかる、現場の人員体制に穴が開く期間が長くなるといったデメリットが生じる。
 こうした状況を鑑み、平成29年4月、長野県東信地方にある中小建設企業5社が協同で設立したのが、(一社)東信建設アカデミー(以下「アカデミー」)である。地域の中小建設企業が連携することによって、地元での建設人材の育成を実現したこの教育訓練機関は、長野県立科町を拠点として事業に取り組んでいる。

■建設工事に係る一連の作業の流れに、ICTを活用し対応できる多能工を育成
 アカデミーが目指しているのは、ICTを活用して測量、施工計画、施工、完成検査の、一連の流れに対応できる多能工を育成することである。その具体的な取組みとして、平成29年度にアカデミーは、「ドローンパイロット・安全運航管理者養成コース」などを開講した。そして、それの実績を踏まえ、平成30年度も、新たにドローン活用の応用編カリキュラムを加えるなど内容の充実を図り、ICTを軸に多能工としての知識・技能を習得させる教育訓練を行った。

■ドローンパイロットの養成講座に加え、応用編として「ICT土工研修」を実施
 技能習得のための講習として、アカデミーは平成29年度に引き続き、ドローンパイロット・安全運航管理者養成コースを3回開講した。この講習は、アカデミーが特に力を入れている講習であり、平成29年度には5回開催し、計25名の受講者が「無人航空機操縦技能証明書」、「無人航空機安全運航管理者証明書」を手にしている。さらに、今年度はドローンの安全操縦に主眼を置いた講習から前進し、よりICT土工に直結しうる空撮技術や3D測量技術などを習得する応用編カリキュラム、「ICT土工研修」を新たに実施した。
 この研修はドローンによる起工測量、実測写真からの点群データ作成とその処理方法を習得する「測量起工編」と、二次元データからの3D施工図作成、測量起工点群に合わせた3D設計データの作成、及び点群データを用いた土量計算等の活用法を習得する「三次元設計データ編」の、2つのカリキュラムで構成される。11月に2日間の日程で開催した第1回ICT土工研修には、これまでにアカデミーが開講したドローンパイロット・安全運航管理者養成コースの修了者8名が参加。座学と実技を通じて、ドローンの活用をベースとする、一連のICT土工の流れについて学んだ。

■地域の外国人技能実習生も受入れ、ニーズの高い技能について講習を実施
 第1回ICT土工研修の終了直後には、「地方自治体工事へのICT施工普及に関する研究」を演題とする基調講演会も実施した。35名が参加し、ICTの全面的な活用に向けた取組みや、地方普及展開に向けた取組みについて、国土交通省総合政策局の担当課職員の講演を聴講。ディスカッション(質疑応答)も行い、ICT土工の意義や必要性について理解を深めた。
 このように、ドローンの活用を軸とした知識、技能習得のための取組みのほか、一連の土工作業の中のうち、地域の建設企業のニーズが高い玉掛け技能講習と、車両系建設機械運転技能講習も、前年度に引き続き開講した。これらの講習は、地域の建設企業の技能者だけでなく、近年東信地方の建設業界でも受入れが進んでいる、外国人技能実習生も多数受講した。このことは、外国人技能実習生を受け入れている建設企業にとっては実習にかかる手間とコストの削減というメリットを、外国人技能実習生にとっては受入れ先企業の近くで安心して技能を学べるというメリットを、それぞれもたらした。

■安定的な事業運営の継続に向け、取組みに賛同する企業の増加などが課題
 アカデミーでは、今後も引き続きICT土工の分野の技能講習をベースに、新たな時代の建設業を支える多能工を育成する、教育訓練プログラムの拡充を目指している。そのためには高機能なICT建設機械の使用が必要となってくるが、大きなコストがかかるため、設備投資やリースで対応することとなる。 そこで、アカデミーは、安定した事業運営を続けていくためにも、計画的な資金繰り体制の確立や、アカデミーの取組みに賛同する企業を増やすことで、受講生や開催する講習会の数を増加させていきたいと考えている。

●地域の中小建設企業の連携により、地元で教育や訓練を受けられる機関を設立。多能工の育成に必要となる、様々な講習プログラムを用意した。
●i-Constructionの重点施策の一つである「ICT土工」に着目。測量、施工計画、施工、完成検査と、ICT土工の、一連の流れに対応できる人材の育成を目指した。