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連携体名 (一社)マンション計画修繕施工協会 事業管理者名 (一社)マンション計画修繕施工協会
所在地 東京都港区 正会員数 151社

■作業に厳しい制約が伴うことで、手間や非効率が生じるマンション改修工事
 近年、建設されてから長い年月を経たマンションが増えており、それに伴ってマンションの改修工事の件数も増加傾向にある。
 マンションの改修工事と新築工事とでは、決定的な違いがある。それは、マンションの改修工事は、多くの場合、建物内に居住者が暮らしている状況での施工となることである。そのため、工事による居住者への影響を、できるだけ少なくする配慮が求められる。
 具体的な配慮の仕方としては、集中的な作業による工期の短縮や、平日の日中など、建物内にいる居住者が比較的少ない時間帯を選んでの施工がある。そのため、同じ日、同じ現場で、複数の工種の職人が、限られた数時間で作業を行うという状況が一般的となっている。このような、作業条件に厳しい制約が伴う施工のため、現場の管理者にとっては、職人の確保や受入れ、工程管理の手間が負担となり、職人にとっても、時間が限られていると、他の工程の進捗や天候などの状況によっては作業が行えず、手待ち時間が増えるという非効率な状況が生じている。

■基本となる4工種を選定し技能を教育、平成30年度は塗装改修工事について実施
 こうした特有の事情から、マンション改修工事業界では、建設人材が不足している中、複数工種について、職人が必要最小限かつ効率的に稼働できる体制の確立が急務とされている。そこで、(一社)マンション計画修繕施工協会が着目したのが、職人の多能工化である。
 (一社)マンション計画修繕施工協会(以下「協会」)は、現在の建設業法に「改修工事業」という業種区分の位置付けがない中、新築とは違う工事体制や施工管理技術などについて、良質な改修体制が求められていることを受け、建築・設備の専門工事業が横断的に組織する、マンション改修専門工事業団体である。平成20年に設立され、平成31年3月時点の会員企業数は、全国で151社となっている。
 協会は、平成27年度から多能工化の取組みを進めている。対象となる工種は、改修工事の基本であり、かつ一連の流れとなっていることを踏まえて、躯体補修工事、塗装改修工事、シーリング改修工事、防水改修工事の4種類を選定。協会の会員企業の仕事を手掛けている職人を主な対象として、毎年1つの工種について技能工教育プログラムを実施している。平成29年度に実施されたシーリング改修工事の教育プログラムに続き、最終年度である平成30年度は、塗装改修工事の教育プログラムが実施された。

■マンション改修工事の現場において多能工が一般的な存在となることを目指す
 技能工教育プログラムの実施により、協会が目指しているのは、マンション改修工事の現場において、多能工が一般的な存在となることである。そして、多能工が一人で数種類の工事を手掛けることで、現場管理者については受入れ処理や工程管理の省力化・容易化が、職人については、同じ現場で一日作業ができることによる手待ち時間の削減が実現し、全体として、作業効率が向上することを期待している。

■3泊4日の合宿形式で研修を実施、座学と実技で2つの技能の習得に取り組む
 塗装改修工事の技能工教育プログラムは、静岡県富士宮市にある職業能力開発校、富士教育訓練センターを会場に、平成30年9月3日から、3泊4日の日程で合宿形式による研修として実施。20代後半から30代前半までの比較的若い世代を中心に、10名が参加した。なお、参加者のうち1名は、平成27年度から毎回教育プログラムを受講してきており、今回の受講により、4工種全ての技能を習得することとなった。
 研修では、大きく分けて「鉄部塗装」と「外壁面塗装」の、2つの技能の習得を目的とする座学と実技を行った。一般に建設業における教育訓練は新築工事を前提に行われていて、改修工事には対応し切れていない。そこで、協会は改修工事に特化した研修を行えるよう、オリジナルのカリキュラムの構築と、テキストの作成にあたった。このことは、すでに実施した、3工種の研修についても同様に行われている。なお、研修の講師は、(一社)日本塗装工業会から招いた塗装業界のオーソリティや、協会の会員企業から招いた建設マスターの資格を持つベテラン技能者、及び塗料メーカーの社員らが務めた。

■改修工事に携わる多能工として、必要とされる基礎知識を教育
 座学では、塗料の基礎知識に始まり、改築工事の塗装について、古い塗料の上に塗るため、塗装が剥がれやすいことなど、新築工事の場合とどう違うのかについても研修を行った。改修工事に携わる多能工には、改修する建物がどのような塗料を使っているのか、どのように塗られているのかなどの基礎知識が必要とされるからである。このように、塗装の初級レベルの知識を学んでもらうことを、研修の第一歩とした。
 実技は、研修1日目の午後、座学の終了後に早速開始した。最終日まで座学と実技を織り交ぜ、4日間にわたって行った。富士教育訓練センターの敷地内に、訓練用の施設として改修されず残されていた旧体育館の建物を利用し、受講生らが養生の基本に始まり、下地づくり、調合・肌合わせ、鉄部塗装、外壁面塗装の各作業について、講師による説明を聞き実演を見た上で、実際に工具や塗料を手に訓練に取り組んだ。最近の塗装工事では主にローラーやスプレーガンを使うため、刷毛を使用する機会が少なくなっているが、今回の研修では、刷毛の使い方についても学んだ。

■これまでの取組み実績を踏まえ、定期訓練コース開設などさらなる展開へ
 今回、塗装改修工事の技能工教育プログラムを実施したことで、協会が進めてきた、マンション改修工事の基本となる4工種について多能工を育成する取組みはひとまず終了した。
 引き続き、協会は関係各所と連携を図りながら、これまでの取組みの実績を踏まえ、4工種を合わせた多能工育成プログラムのテキストとカリキュラムを作成し、富士教育訓練センターにおける「修繕専門の定期訓練コース」の開設や、及び改修について教えることができる講師の育成方法をについて検討していくこととしている。また、建設人手確保対策で各地域に設立されている、「建設産業担い手確保・育成コンソーシアム」等にテキストとカリキュラムを提供することで、地方において多能工化の取組みを展開していくことも視野に入れている。

●マンション改修工事において、特有の事情により発生していた非効率な状況を改善するため、職人の多能工化を着想。基本となる工種の技能を、教育プログラムを通じて職人たちが学んだ。
●教育プログラムのカリキュラム作成にあたっては、新築工事を前提としている、一般的な既存の技能教育において欠落、不足しがちな、改修工事教育に必要な内容を補うことに留意した。