連携体プロフィールを見る
連携体名 住宅壁面計測からサイディング
加工・施工までの多能工化システム
事業管理者名 (株)ヤマガタヤ
所在地 愛知県名古屋市 構成員 (株)さくら工房

■建設業界全体の傾向と同様に、サイディング加工・施工のできる職人も減少
 木造住宅を建築する際、梁や柱などの木材は、工場でプレカット加工されたものを現場で組み立てる場合がほとんどである。しかし、木造住宅の構造躯体を設計図に示された寸法、形状のとおり、誤差なく組み上げることは非常に困難である。そのため、サイディング(建物の板状外壁材)に関しては、職人が建物の実際の寸法をメジャーにより計測し手書きで記録した上で、それをもとに割付図面の作成、サイディング加工、取り付け施工の順で作業を進めるのが一般的である。ところが、建設業界全体で進む職人の高齢化と減少は、サイディング加工・施工の技能を持つ職人においても例外なく進んでおり、その確保に頭を悩ませる住宅施工業者は少なくない。名古屋市に本社を置く(株)ヤマガタヤも、そうした悩みを抱える業者の一つである。

■一定の技能を身に付けた多能工の育成は、年月のかかる取組みとなる
 同社は6年前から高校新卒者を採用し、自社で職人として育てる取組みを進めているが、入社しても定着しないケースもあるなど、職人内製化の取組みは未だ道半ばである。そのため、相変わらず職人の不足は続いており、サイディング作業の工程も、多くの場合外注の職人に依頼している。
 ところが、サイディング作業ができる職人は、予定通りの日時に手配できるとは限らない。また、作業者の技量不足、注意不足による現場での計測間違い、割付図面の寸法入力ミス、サイディング加工ミスなども多発している。このような状況は、工期の遅延や作業の手戻りによる生産効率低下、コスト上昇をもたらすため、建築工程全体の大きなボトルネックとなっている。
 こうした問題の解決策としては、大工等既存の職人を教育訓練し、構造材等の組み立てだけでなく、サイディング作業についても十分な技能を持ち、住宅建築の複数工程を担える職人とする方法が考えられる。しかし、一定レベルの技能を持ったサイディング作業の職人の育成は、年月のかかる取組みである。 (株)ヤマガタヤが取り組むサイディング職人自社内製化の場合を例にとると、およそ3~5年を要している。

■技量が無くとも多能工化できる方法を模索、IoTを活用した作業システムの開発に着手
 そこで、同社は職人を技量が無くとも多能工化できる方法を模索し、IoTを活用することを着想。サイディングコーナー材の製造・販売を手掛ける名古屋市内の協力業者、(株)さくら工房との連携により、「住宅壁面計測からサイディング加工・施工までの多能工化システム」の開発に着手した。
 このシステムの概要は、現場で写真を撮影することで計測データを取得し、そのデータをもとにCAD図面の作成、割付図面の作成、サイディングのプレカット加工、現着施工までの、一連のサイディング作業を支援するというものである。連携する2社は、IoTを応用したこのシステムを足掛かりに職人の多能工化を図り、建築作業工程のボトルネックとなっている、サイディング作業の効率化実現を目指している。

■現場での建物計測作業を、基本的に写真を撮るだけに単純化
 システムは、大きく分けて壁面測定システム(現場計測システム、及びCAD図面作成システム)、割付・加工データシステム、プレカット加工、現場施工と、4つの内容で構成される。
 壁面測定システムのうち、現場計測システムは、魚眼レンズのステレオ(複眼)カメラを用い、外壁に沿って建物の写真を撮影するという、シンプルな作業をベースに設計した。具体的には、建物の各側面について、それぞれ20枚程度撮影した写真を、自動的に1枚の写真に自動合成し、形状と寸法のデータが取得できるようにした。あわせて、このデータをステレオカメラと連動するタブレット端末からクラウドサーバーを介してCADマシンに送信し、建築図面に自動変換するCAD図面作成システムを構築した。
 このシステムの機能や性能を確認するため、連携体は岐阜県岐南町に実証実験用の住宅を確保し、実測テストを行った。その結果、技術的な面で問題のないことや、これまでメジャーを使って1~2日かかっていた計測作業が、3時間程度に短縮できることなどが確認された。

■作業が安定的、効率的に行えるよう、サイディングのプレカット加工を実現
 CAD図面作成システムで作成した建築図面からサイディングの割付・加工データを作成する、割付・加工データ作成システムは、壁面測定システムに先立って完成した。このシステムで作成されたデータは、クラウドサーバーを介してNC工作機に送信され、サイディングのNC加工データとなる。これにより、工場など現場から離れた場所でのサイディングのプレカット加工を実現することで、連携体はサイディング加工作業を、職人の手配や作業者の技量、現場の作業スペース、天候などに左右されることなく、安定的、かつ効率的に行えるようにしたいと考えている。

■特殊な技術の習得は不要、短期間で職人を多能工として戦力化
 実証実験の結果を踏まえ、引き続きインターフェースと、計測データから最終図面までのデータ化が自動的に行われるシステムの開発が進められた。再度サイディングのプレカット加工も含めた実証実験を行い、平成30年度中には「住宅壁面計測からサイディング加工・施工までの多能工化システム」が完成する見込みである。
 システムの完成にあわせ、職人に対する多能工化教育も行われる。現場計測作業は基本的に写真を撮影するのみであり、ステレオカメラと連動のタブレット端末で撮影箇所を確認しながら作業できる。したがって特殊な技術を習得させる必要はなく、ごく短期間の教育で職人が多能工として戦力化することが期待される。
 連携体は、今後このシステムを「サイディング業務支援サービス」として事業化し、業界内に展開していく計画である。また、将来は内装工事や塗装工事にも応用したいと考えている。

 IoT
 Internet of Thingsの略。日本語では「モノのインターネット」と呼ばれる考え方。さまざまな装置(モノ)をインターネットでつなぎ、連携させることで,多様な価値の産出や、新たな方法での活用を実現する仕組み。

●IoTを活用した作業システムを開発し、熟練の職人でなくとも簡単かつ正確な作業ができるようにすることで多能工化を図る、人材不足への対策を講じた。
●これまで現場でしか行えなかった作業を、職人や現場の状況に左右されることなく、安定的、かつ効率的に行えるよう、サイディングのプレカット加工技術の開発に取り組んだ。