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連携体名 建設技術に特化した
動画配信サービスによる多能工育成
事業管理者名 (株)竹延
所在地 大阪府大阪市 構成員 (株)KMユナイテッド、(株)プロアシスト

■多様な人材の積極的な採用で、職人の育成・定着に成果を上げる企業
 全ての産業分野の中で、最も高齢化が顕著な建設業。平成28年の調査結果によると、約492万人の就業者のうち55歳以上が約167万人と、ほぼ3分の1を占めている。今後、人口減少等によりさらなる労働力不足の進行が確実視されることから、現在も現場の第一線を担い続けるベテラン勢に代わる新たな人材の確保が、多くの建設企業にとって急務の課題となっている。
 こうした状況の中、大阪市に本社を置き塗装工事を主力事業とする建設企業、(株)竹延のグループ会社である(株)KMユナイテッド(本社京都市)は、従来の業界の慣習を打ち破り、女性や外国人をはじめとする多様な属性の人材を積極的に採用し、職人として育てている。この取組みにより、同社では、平成27年5月期には21名(うち女性8名)だった職人数が、平成30年6月期には38名(うち女性14名)になるなど、職人の採用と定着・育成において、顕著な成果が上がっている。

■ベテラン職人が持つ技能を、「学びたい時に確認できる仕組み」が必要に
 成果が上がった大きな理由としては、ベテランの職人をインストラクターとして起用し、現場でのOJT指導等をきめ細かく行う体制をとると共に、経験の浅い職人が、ライブ通信(Skype)を通じてベテラン職人の技能をいつでも、どこにいても学べるシステム、「技能伝承テレワーク」を開発・整備したことが挙げられる。
 このように、「技能伝承テレワーク」の導入を軸に職人の確保・育成環境が整った(株)KMユナイテッドだが、同社は、職人をさらに左官、防水、耐火被覆工事など、塗装工事の隣接分野の技能も身に付けた多能工として育て、生産効率の向上につなげたいと考えた。
 (株)KMユナイテッドは、「技能伝承テレワーク」の実績から、多能工の育成においても、ベテラン職人の技術を「確認したい時に確認できる仕組み」が有効であると確信していた。だが、ベテラン職人の高齢化は年々加速していて、彼らの多くが現役を退く日は間近に迫っている。その前に、ベテラン職人の高い技術やノウハウを映像に記録して後世に残し、職人の育成に役立てる仕組みを作ることも急務の課題であることを、同社はあらためて確認した。
 そこで、これらの取組みを総合的に推し進め、多能工育成のシステムを整備することを決めた。

■“匠の技”をデジタル技術で蓄積し、スマートフォン等で学ぶシステムを開発
 多能工育成システム整備の具体的な取組みは、ベテラン職人の“匠の技”をデジタル技術で蓄積し、建設業界向けに情報端末やスマートフォン等で学ぶことができる「職人育成技術継承データ」と、安全喚起データの提供とを一体化したサービス「技ログ」の構築・運営を行うというものである。この取組みが目指すのは、多種多様な建築技術動画と安全データの提供により、多能工を志す専門工事業者の職人育成プログラムとして機能するだけでなく、多能工と協業していくゼネコン企業等の技術者の育成にも役立つものとすることである。

■多くの技能動画を撮影、チェック、蓄積し、動画配信システムを開発
 新たなシステムの開発は、3社からなる連携体により、19の工種を対象にスタートした。
 (株)竹延は、新築工事向けの技能や、多様な工事現場があるリニューアル部門向けの技能を動画として撮影。これらの動画を、技能社員が定期的に「動画監査会」を開催してチェックし、蓄積していった。また、(株)KMユナイテッドは、動画を比較的経験の浅い社員に評価してもらう取組みを実施。一人前の職人として、多能工を目指している若手人材の視点に立った、システム開発上のヒントやアイデアを探った。さらに、ITベンダー企業である(株)プロアシスト(本社大阪市)は、動画配信システムである「技ログ」の、ネット環境の構築、内部システム管理者機能の開発などを担当した。
 技能の動画は、(株)竹延が撮影したものだけでなく、取引先のゼネコンからも457本の提供を受けた。また、国土交通省が作成した、建設職人の技能を映像で学べる研修プログラム動画、「建設技能トレーニングプログラム(建トレ)」も、「技ログ」アプリから見られるようにした。さらに、建設技術者・技能者を養成する職業能力開発校、富士教育訓練センター(静岡県富士宮市)において訓練の様子を撮影し、一連の動画に加えることが予定されていて、より多くの技能をカバーする、内容の充実が期待される。

■事故事例のデータもセットで配信、技能を学ぶとともに安全も学ぶ仕組み
 クラウドに蓄積・収集された動画は、19工種のカテゴリーに分けられ、それぞれ字幕と音声付きで「技ログ」アプリを通じ配信される。動画にはインデックスが付いていて、見たい動画を簡単かつ的確に検索できるようになっている。
 また、技能の動画は、その内容に関係する事故事例のデータ(安全喚起データ)とセットにして配信される。すなわち、「技ログ」は技能を学ぶことと同時に安全も学ぶ仕組みであり、このことも大きな特徴となっている。これまでに、動画の提供を受けたゼネコンから、465件の事故事例データの提供を受け、現在は一つの技能動画に一つの事故事例データを対応させているが、今後その組み合わせを増やしていくことが予定されている。さらに、連携体は他のゼネコンにも協力を要請し、事故事例データの蓄積件数を増やしていくこととしている。

■コンテンツの改良、改善を図り、B to B、B to Cサービスとして展開予定
 「技ログ」アプリは、平成30年11月までに、iOS、Androidの両OSについて無料版が完成し、リリースされた。連携体は、今後アクセスログ等による利用状況や、(株)KMユナイテッド、(株)竹延の施工現場で、「技ログ」アプリを使用する若手職人の作業の様子を分析し、その結果も踏まえてアプリのコンテンツの改良、改善を行い、有料化に着手することとしている。
 有料版のリリースに向けた具体的な取組みとしては、一方通行の動画配信サービスにとどまらず、利用者からも技術動画を容易に投稿できる仕組みや、投稿される動画の品質向上を目的とした評価機能の実装などが計画されている。その上で、連携体は「技ログ」アプリを、B to B(企業向け)、及びB to C(個人向け)サービスとして、幅広く展開していく考えである。

●熟練職人の持つノウハウを教育資料として「見える化」し、効果的・効率的に継承するため、若年層のほぼ誰もが所有する、スマートフォン等のポータル端末による教育システムを開発した。
●建設作業の基本である安全意識を喚起するため、それぞれの技能について、作業の内容や手順だけでなく、発生した事故のデータについてもセットで学ばせるようにした。