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連携体名 左官⇔タイル張り多能工育成15ヶ年事業 事業管理者名 (株)長谷川
所在地 京都府京都市 構成員 (株)木下工業

■「タイル工育成10ヶ年事業」により、人材の確保・定着とキャリアアップを実現
 京都市右京区のタイル工事業者、(株)長谷川は、若手の新規入職者を確保できない状況を打開しようと、平成25年、「タイル工育成10ヶ年事業」の取組みを開始した。この事業では、高校新卒者が正社員として入社後、2年以上の実務経験を経て3年以内にタイル張り技能士2級の試験に合格、さらに3~5年(最短2年以上)の実務経験を経て1級技能士の試験に合格して職長となる。10年以上の実務経験、実務経験のうち3年以上の職長経験を経て基幹技能者になる――というキャリアモデルを設計し、それに基づいた効率的で、かつ人材の早期育成が可能な教育計画を策定している。
 一人前の職人になるためには“現場で見て習う”長い下積み修業が必要という、建設業では当然だと思われてきた考え方を大きく転換し、キャリアパスをイメージしやすくした「タイル工育成10ヶ年事業」による人材確保・育成の取組みを進めた結果、(株)長谷川では平成27 年度以降、毎年複数名の新卒社員を採用できるようになり、さらにその多くが同社に定着し、順調にキャリアアップを図る状況となっている。

■関連性の強い分野であることに着目し、左官工事業者と連携し多能工育成を開始
 このように、(株)長谷川が取り組んだ「タイル工育成10ヶ年事業」では、新入社員の採用と従業員のキャリアアップについて、一定の成果が上がった。その一方、同社は今後さらなる人材不足に耐えうる生産性向上や、仕事量そのものが減少する可能性も見据え、新たな対策として技能者を多能工化することを構想していた。
 多能工化に取り組む場合、本職と関連性の強い分野であれば、技能者の技術・知識習得が比較的容易であり、現場における生産性向上においても、より高い効果が期待できる。そこで(株)長谷川は、タイル工事と同じく“仕上げ系”と呼ばれる施工技術分野に属し、鏝(こて)や鏝板を使うなど道具や資材、技術・技能の共通性があり、一連の工事の流れの中でタイル工事と隣り合う工程にある左官工事に着目。大阪府吹田市の左官工事業者、(株)木下工業と連携し、タイル工事と左官工事の、いずれをも手掛けることができる人材を育成する取組み、「左官⇔タイル張り工育成15ヶ年事業」をスタートさせた。

■本職の1級技能士の資格取得に加え、関連分野の2級技能士取得も目指す
 「左官⇔タイル張り工育成15ヶ年事業」は、(株)長谷川がすでに取り組んでいる、「タイル工育成10ヶ年事業」の事例をベースとしつつ、連携する2社が、専門工事業者として50年以上にわたりそれぞれが培ってきた技術やノウハウを、相互に提供しながら進める。事業の目標としては、左官工あるいはタイル張り工に、本職の技能検定試験では6~10年を目安に1 級を取得させ、さらに関連職務として左官工にはタイル張り工2 級を、タイル張り工には左官工2 級を、いずれも3~5年を目安に取得させ、10~15 年で「左官⇔タイル張り」の有資格者・多能工として自他共に認められ、活躍する人材を育成することを掲げている。

■互いに講師と受講生を出し合い研修を実施、訓練時に動画を撮り練習用の教材も作成
 平成30年度は、外壁タイル張りの下地作業(左官工事の一種)をタイル張り工もできるようにするための「外壁下地研修」と、タイル張り作業を左官工もできるようにするための「タイル張り工手順確認研修」を実施した。研修のカリキュラムとテキストは、連携体でオリジナルのものを作成した。
 「外壁下地研修」では、(株)長谷川の従業員である受講生3名が左官の講師((株)木下工業の職長)2名による指導の下、計5日間の座学、実技・実習、及び実践訓練に取り組んだ。実技・実習訓練は、(株)木下工業の敷地内に模擬訓練ができる仮設の現場を設営のうえ、まず講師が手本を見せ、次に受講生が実際に作業を行い、それに対して講師がアドバイスを行う形で実施した。その際、講師、及び受講者双方のヘルメットにアクションカメラを装着。講師の目線と受講生の目線からそれぞれ訓練中に動画を撮影し、反復練習用の教材も作成した。また、実践訓練は実際の現場において実施した。
 一方、「タイル張り工手順確認研修」についても、(株)木下工業の従業員である受講生3名に対し、タイル張り工の講師((株)長谷川の職長)2名が、「外壁下地研修」と同様に、実際の現場で模擬訓練方式による指導を行った。
 さらに、事業を対外的にPRするため、多能工化プロジェクトに取り組んでいる状況を(株)長谷川、及び(株)木下工業のホームページ上で紹介することとし、その準備を進めた。

■毎月の会議で進捗状況を確認し課題を検討、先進事例を学ぶため「合同出前講座」も見学
 連携する2社は、事業の実施事項、実施スケジュール、体制等について協議を行った第1回プロジェクト会議(平成30年9月29日実施)を皮切りに、ほぼ毎月プロジェクト会議を実施し、事業の進捗状況の確認や課題の検討を行っている。さらに多能工化の先進事例も事業の参考とすべく、大阪府立北大阪高等職業技術専門学校(大阪府枚方市)で実施された、高校生対象合同出前講座(鉄筋・とび・型枠・圧接・左官実習)を見学し、多能工育成における教育訓練の手法、高校生の学ぶ姿勢と就職・進路の実態等を学習した。連携する2社は、今後も多能工育成に関する先進的な事例があれば、引き続き視察、学習していきたい考えである。

■取組み期間は長期にわたるが、対外的に認められる多能工の育成を目指す
 今後、連携体は「左官⇔タイル張り」多能工の育成を進めていくのと合わせて、単能工を多能工化した場合における施工歩掛り、賃金などについての施工生産性を科学的に分析・測定し、標準化したいと考えている。
 タイル張り工も左官工も、技能士資格の取得までに時間がかかるため、その両方の資格を持った多能工の育成を目指す今回の事業は、かなりの長期戦である。だが、連携する2社はそれを十分覚悟のうえ、両資格を持ち対外的に認められる多能工を育てていきたいと考えている。

 キャリアパス
 企業の中で目標とする職位や職務に就くために、どのような業務をどれだけ経験することが必要なのか、どのような資格を取得すべきかなど、踏んでいくべきステップの内容と、その順序や道筋のことを指す。

●隣接する施工技術分野を担うタイル工事業者と左官工事業者とが連携。技術・技能や資材、道具等が類似していることを活かし、相互に技術やノウハウを提供し多能工育成に取り組んだ。
●対外的に認められる多能工を育成するため、本業のみならず、他方の技術分野についても資格を取得させることを、育成プロジェクトの主要目標に据えた。