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連携体名 女性多能工育成講座準備室 事業管理者名 (有)ゼムケンサービス
所在地 福岡県北九州市 構成員 ハゼモト建設(株)、
(株)ラステディアス、イエノコト(株)

■担い手不足が叫ばれながら、女性の活躍の場が広がらない建設業界
 現在、建設業を担っている人材の大半は男性であり、第一線に立って活躍している女性は少ない。その大きな理由としては、建設業界、一般社会のいずれにおいても、昔から「建設の仕事は男性がするもの」と考えられてきたことが挙げられる。こうした考え方があることによって、建設業界は、担い手不足が叫ばれながらも、人口の半分を占める女性の活躍の場が広がらないという、不合理な状況となっている。
 また、平成に入ってから今日まで、約2万人の女性が一級建築士試験に合格しているが、そのうちの約7割が建設業界を離れていると推定されている。結婚や子育てなどの事情により、仕事を離れざるを得ない、仕事に就けないと考えた女性の多さがうかがえるが、資格を持ちながらそれを活かしていない女性が多数存在することは、建設業界にとっても資格を持つ本人にとっても、大きな損失だと言わざるを得ない。

■「けんちくけんせつ女学校」の設立を計画、女性人材の育成と活躍の場の開拓を目指す
 以上のように、建設業における女性の活躍が広がりを見せない中、福岡県北九州市の(有)ゼムケンサービスは、社長の籠田(こもりた)淳子氏を先頭に、自社において女性の活躍機会の拡大と、人材育成の取組みを積極的に進めてきた。その中でも、代表的な取組みとなっているのが、ワークシェアリング制度の導入である。同社では、女性が建設の仕事を一生のものするために必要だとの考えから、業界に先駆けて、10年前からワークシェアリングにより働くことができる環境が整えられている。
 これらの実績を携え、籠田氏は全国各地においても、講演会などによる建設業での女性活躍推進の啓発活動や、女性グループのネットワーク化の支援などに取り組んでいる。また、e-ラーニングと研修所を併用した教育研修機関、「けんちくけんせつ女学校」の設立を計画。この取組みでは、単に女性の建設技術者・技能者を育成するだけにとどまらず、インターン制度による女性の受入企業の確保・拡大や、女性の力をビジネスに活かしたいと考える建設企業をサポートすることなども目指している。

■女性が働きやすい建設業の確立を目標に、 「女性多能工育成講座準備室」を立ち上げ
 「けんちくけんせつ女学校」の枠組みを活かして進められようとしている取組みの一つに、女性を多能工として育成する講座の開設がある。その実現に向け、(有)ゼムケンサービスをはじめとする、福岡県内の建設企業、建設関連企業4社が連携。「女性多能工育成講座準備室」を立ち上げ、具体的な取組みをスタートさせた。
 この取組みは、建設分野で働く女性技術者・技能者を増やすことで既存の生産システムを適正に効率化し、その男性中心的な業界体質を変え、女性が働きやすい建設業の確立を長期的な目標に据えて進められる。講座の受講対象者としては、①建設業で働く女性で、事務や施工図作成など内勤の者、②入職5年目程度の新人女性技術者、③建設業の技術・技能を習得していない女性、④建設業の経営者(男女とも)を想定している。

■建設業に関心を持つ女性対象のイベント開催、アンケートを実施し結果をフィードバック
 女性多能工育成講座準備室が進めた具体的な取組みは、大きく分けて講座カリキュラムのシミュレーション(プレ講座)イベントの開催、講座で使用する教材の制作、対象受講生へのアプローチ、講師確保の4つである。
 建設業の仕事に関心がある女性向けのシミュレーションイベントは、「暮らしをつくる建設業」と題して開催。建設業の現状について、及び建設業に携わる女性の新たな資格として計画中の、「女性インスペクター」についての講演を行った。このイベントでは、参加者に対するアンケートも実施。建設業での就業経験や、建設業で働くことをどう思うか、講演を聞いての感想などを尋ね、得られた結果を講座カリキュラムの作成にフィードバックした。

■基本となる9工種について、実際に建設現場に立つ女性が講座テキストを作成
 講座で使用する教材については、「女性多能工」の名にふさわしい、女性ならではの視点を活かした工事(管理ポイント)を含めた、女性向けのテキストを、基本工種のうち9工種について作成した。あわせて、現場変革を担う経営者に向けた講義資料(映像資料)も作成した。
 テキストは、女性が暮らしを大事にしているからこそ、暮らしの環境をつくる建設業では女性が優位に立てることや、女性ならではの多能工の面白さを前面に出した内容のものとなるよう、(有)ゼムケンサービスの女性社員が作成した。その内容については、対象とした9工種の作業を女性社員が実際に行い、有効に役立つものであることを検証している。一方、経営者向けの講義資料は、これからは「暮らしの環境をつくる建設業」が注目されることや、女性が知っていて男性が知らない秘密の領域がビジネスチャンスになることなどを理解してもらい、意識の変革を促す内容のものとした。
 このほか、副教材として、籠田氏が執筆した、自身の建設現場での実体験をまとめた冊子、「つちのこもりた」をDVD化した。この冊子には、建設業における男性の“当たり前”や現場の“常識”が、女性や若者にとって、いかに非常識であるかが指摘されている。講座ではこれを男性・女性双方が読み、意見交換を行うことが想定されている。

■建築・建設市場の範囲拡大に伴い想定される、女性多能工の活躍への期待の高まり
 対象受講生へのアプローチとしては、中小企業を得意とする経営コンサルタント会社、A社とのアライアンスを獲得した。今後、A社がコンサルテーションを行っている建設企業のネットワークを活用して、一気に育成講座事業を軌道に乗せることが計画されている。また、講師については、「女性活躍推進ネットワーク」(建設業振興基金主催)に参加する女性技術者・技能者の賛同を得て、協力を依頼することとしている。
 従来の建築・建設市場の範囲は、企画・設計・申請・施工が中心であったが、これからは、建物の建築後の整備や、空き家問題などにも範囲が広がることが考えられる。そうした状況に対応するためにも、女性の多能工の活躍への期待は、今後ますます高まっていくものと思われる。

●業界に先駆けて進めてきた、建設業における女性活躍推進の実績をベースとした教育研修の枠組みを活用し、女性を多能工化する取組みに着手した。
●単に女性多能工を育成するだけではなく、建設企業の経営者や男性社員に、女性人材に対する旧来の意識の変革を働きかけ、現場の風土を改善することも目標に据えた。