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連携体名 小千谷地域地中熱利用連携体 事業管理者名 渡辺建設(株)
所在地 新潟県小千谷市 構成員 (有)テプラス野沢

■「地中熱エアコン」の研究・開発を進め、新規事業の立ち上げを目指す
 渡辺建設(株)は、新潟県小千谷市を拠点に、土木・建築工事を手掛ける建設企業である。
 近年、売上の大半を占める公共事業が減少していることから、同社では本業を補完する新事業の開発が経営上の重要な課題となっている。その具体的な取り組みの一つとして、平成26年度から、地中熱を活用した冷暖房空調システム(以下、「地中熱エアコン」)の研究・開発を行い、その販売を行う新規事業の立ち上げを目指している。これまで、豪雪地帯である地元(新潟県中越地域)に多く見られる、「消雪用井戸」の水を用いて熱交換を行う地中熱エアコンの実験を行い、データや技術力・ノウハウの蓄積と、検討課題の抽出を進めてきた。
 新潟県では「家庭用地中熱設備導入支援事業補助金」など、地中熱の利用を促進する施策が実施されている。また、前述の通り、数多くある消雪用井戸を活用することもできる。このように、地元に地中熱エアコンの普及に有利な環境があることから、同社はその販売事業の実現に大きな期待を寄せていた。

■高額かつ仕組みがわかりにくいため、効果的なマーケティング手法の検討が重要
 地中熱エアコンの実験は、新潟県地中熱利用研究会や空調・家電機器の大手メーカーなどとの情報交換を通して、順調に進められてきた。既設の消雪用井戸を利用して試験施工した、地中熱エアコンの実験では、深さ100mの井戸の場合、冷房で60%、暖房で30%の電気料金節減効果が得られることなどが確認されている。
 ところが、地中熱エアコンには、高い省エネ効果が期待できる反面、一般のエアコンに比べ導入費用が高額であることや、“地中熱、熱交換”とは何なのかが、一般の消費者にとってはわかりにくい、といった難点がある。そのため、販売にあたっては、対象顧客の絞り込みや価格設定、地中熱エアコンの仕組みやメリットについてのわかりやすい説明といった、効果的なマーケティング手法の検討が重要となる。
 また、渡辺建設(株)は、井戸の水を用いて熱交換を行うシステムのほか、深さ1.5mの土中に水平・らせん状に埋設したヒートパイプで熱交換を行うシステムも検討しており、これについての省エネ効果の確認も急務とされていた。

■販売面と技術面の未解決課題を整理し、事業化に必要な準備を進める
 以上をはじめ、地中熱エアコン販売事業の確立を目指すにあたって、販売面と技術面について、いくつかの課題が残されていた。だが、それらの課題を認識しつつも、具体的な販売計画がイメージできないなど、渡辺建設(株)は、問題点の確認や掘り下げ、改善策の検討などに対応できずにいた。
 そこで、渡辺建設(株)は、地中熱エアコンの研究・開発における連携先であり、管工事や排水設備工事などを手掛ける小千谷市内の設備工事業者、(有)テプラス野沢とともに、コンサルティング支援のもと、事業化に向けて課題を整理し、必要な準備を進めていくこととなった。

■地中熱に関する知識を持たない顧客向けに、わかりやすい販促用パンフレットを作成
 地中熱エアコンの販売面については、まず大きな課題の一つである、高額な設備導入費用の軽減のため、地中熱エアコン購入時に利用できる各種助成金を調査した。前述した新潟県の「家庭用地中熱設備導入支援事業補助金」のほか、(一社)環境共創イニシアチブの「再生可能エネルギー事業者支援事業費補助金」、魚沼市の「再生可能エネルギー普及促進事業」について、利用要件・補助金額を整理し、地中熱エアコンの販売方針を策定するための基礎資料とした。
 次に、具体的な販売計画を策定するため、対象顧客を「一般消費者」、「個人事業主(小規模法人)」、「法人」と区分したうえで、購入台数と利用可能な助成金を組み合わせて、それぞれの対象について販売の方向性を検討した。
 さらに、一般消費者・個人事業主への販売を想定し、地中熱に関する知識を持たない顧客に説明するため、わかりやすい地中熱エアコンのA3版の見開きパンフレットを作成した。その後、これをたたき台として、家庭の主婦や事業所の購買担当者をターゲットとした第2版の作成を計画している。

■当初の想定ほど経済効率は高くないと判明し、訴求ポイントなど販売方針の修正を決定
 一方、技術面については、これまでに行った実験における温度変化測定結果をとりまとめたうえで、「土中1.5m、水平・らせん状ヒートパイプ」方式の地中熱エアコンの定量的なエネルギー効率を算出するための実験計画を立案し、それにもとづく実験を行った。
 これによって、一般エアコンと地中熱エアコンのエネルギー効率差について、高精度の実験結果を得ることができた。だが、その結果は、当初の予想に反して、一般のエアコンと地中熱エアコンを同条件で稼働させた場合、地中熱エアコンは熱交換機能が一般エアコンよりもかなり低く、省エネ効果が十分発揮されないというものであった。
 このように、実験によって地中熱エアコンの経済効率が、当初の想定ほど高くないことが判明したため(後日メーカーの技術部門に確認したところ、実験に用いたヒートポンプは寒冷地仕様で外気が一定温度まで下がらないと起動しない設定になっていた)、販売方針を修正することとなった。具体的には、訴求ポイントとしてエアコンの環境への影響や、「再生可能エネルギー」、「自然を利用したエコシステム」といったキーワードに着目し、石油ファンヒーターや石油ストーブと比較する営業を行うこととした。

■県の「新技術普及・活用制度」に登録し、公共事業における工法の浸透に期待
 当初想定していた、設備の導入費用を数年間の省エネ効果によって回収するという地中熱エアコンの経済モデルは、当面は実現困難と判明し、将来的な検討課題となった。だが、既設井戸を利用する熱交換エアコンの設置工法については、経済性・作業工期において、従来工法に対する優位性が確認されている。そこで、県内の企業が開発した建設分野の新技術を広く情報公開し、普及と活用を促す新潟県の制度、「Made in 新潟 新技術普及・活用制度」に登録することとし、必要な登録申請書類を準備した。この制度への登録により、今後、新潟県の公共事業において、連携体の工法が、新たな地中熱活用工法として浸透していくことが期待される。

●「地中熱エアコン」は一般に馴染みが薄いため、仕組みやメリットを消費者にわかりやすく伝えることが販売上の大きなポイントとなる。そのことを十分に踏まえ、販売促進ツールを作成した。
●製品販売において重要となる「費用対効果」について、精度の高い実験データを取得。当初の予想とは異なる結果が出たが、それを踏まえて直ちに営業方針の変更を決めた。