連携体プロフィールを見る
連携体名 職人技能と地域特性を活かしたブランド住宅研究会 事業管理者名 (有)日野工務店
所在地 島根県出雲市 構成員 坂本建具店

■こだわりの家づくりにもかかわらず、低迷する業績に悩む工務店
 (有)日野工務店は、島根県出雲市に所在し、住宅新築工事、住宅リフォームを主力事業としている建設企業である。同社は、「お客様の希望に沿う形で、できるだけいいものを」を経営理念としており、良質で廉価な木造軸組工法の提案、総四寸無垢柱の全棟標準採用、建築基準法を上回る基準での耐力壁や柱の位置設定による長期耐震性能の確保といった、こだわりの詰まった家づくりを進めてきた。
 創業以来、現在の六代目社長まで、地元密着型の経営をしてきたが、近年では大手ハウスメーカーに押されるかたちで、受注量が減少しており、施工件数に比例して売り上げが落ちてきている。それにより、条件の悪い工事の請負がやむを得ない状況となり、協力会社へ仕事を回すことが厳しくなっていた。
 それらは、大工や左官工の技術力の低下や、協力会社との関係性の維持が厳しくなるなどの問題となり、会社経営に悪影響を及ぼしている。

■企業イメージを強化することが、業績低迷打開に効果的だと判断
 そこで、現在の業績低迷に歯止めをかけるために、地域建設産業活性化支援事業の経営相談支援を利用した。この支援の中で、自社の現状打開について専門家からアドバイスを受けたが、施工協力会(協力会社17社のネットワーク)を交えて、今後の方向性について検討していきたいという思いもあったため、同会の代表である、出雲市の坂本建具店と連携を組み、「職人技能と地域特性を活かしたブランド住宅研究会」としてコンサルティング支援を受けることとなった。
 当初、(有)日野工務店の社長は、常用の大工である社員にもっと危機感を持たせ、新規案件を自ら取ってくるように意識改革をさせるにはどうしたらよいか、というアドバイスを求めていた。これに対し、支援チーム(専門家)は業績低迷に至った原因の一つとして、経営理念やこだわりの訴求力が今一つ乏しく、顧客にうまく伝わっていない状況があると指摘。まずは、顧客に興味を持ってもらえるように、企業イメージを強化することが先決であり、効果的だとアドバイスした。

■顧客視点の感性を持った人材の育成が、地域の同業他社の中から抜け出すカギ
 一般に、顧客が求める様々な工事に対応する(有)日野工務店のような建設企業は、広範囲の業務を手掛けている一方で、突出した部分がないため、地域の同業他社の中に埋没してしまっているケースも多い。そのような場合、顧客視点の感性を持った人材を育成することが大切であり、地域の同業他社の中から、一つ頭を出すためのカギとなる。そうした考えのもと、連携体は、ブランド住宅の構築を通じて施工協力会関係者と共に顧客視点の感性を高め、効果的な顧客へのアプローチ方法の確立を目指すこととなった。

■ワークショップで業務改善の手法を学び、自主的に改善を図るプラス思考が芽生える
 顧客視点の感性を高める前提として、支援チームは、まず、(有)日野工務店の社員とのワークショップを通じ、会社の強みと進むべき方向性を探った。その結果、社内に内部管理体制が整っていない部分が見られ、社員の士気に影響しかねない可能性があることが判明した。
 そこで、支援チームは、その解決が当面の優先課題と捉え、社員に、実際発生している不具合、例えば「材料を短く切ってしまう」、「変更があっても現場に連絡がない」といった具体例を提示してもらい、その解決策の検討・決定に取り組ませ、業務改善の手法を身に付けてもらうワークショップを実施した。この作業を通じ、社員たちは、現場内でコミュニケーションが滞ることが、不具合発生の大きな要因となることを自覚。そうした状況を発生させないため、自主的に改善しようというプラス思考の行動が、少しずつではあるができるようになった。
 また、施工協力会17社の経営者を対象に、「強くなる体質づくり」、「中小建設業の生き残り戦略とは」をテーマにセミナーを実施し、各社に経営体質の改善を促した。

■2つのブランド住宅の検討にあたり、施工協力会各社も積極的な提案を行う
 一方、ブランド住宅構築の取り組みについては、インターネット等で収集した同業者の情報を特徴ごとに区分した上、特に競合となりそうな業者を9社ほどピックアップして、その動向を踏まえて方向性を検討することとした。その結果、従来の、口コミで良い評判が伝播する体制を継続しつつ、同業他社がいまだ打ち出していないブランド化の方向を検討していくこととなった。
 具体的には、若者世代(一次取得者)向けの「ローコスト住宅」、シニア世代(二次取得者)向けの「こだわりの平屋」をテーマに、(有)日野工務店ならではの持ち味が発揮できるブランドづくりを進めた。シニア向けプランについては一級建築士である支援チームのアドバイザーも、高齢化を見据えたプランを作成した。
 2つのブランド住宅の検討にあたっては、施工協力会各社にもアンケートを実施し、提案を求めた。その結果、業務改善提案や、それぞれの専門分野での提案が多くなされた。具体的には、「工程表等の事前作成と配布」、「打合せ内容の書面化」など、施工の際の連携体制を円滑にするための、ルール化づくりが進んだ。

■ブランド住宅の建築実績を重ねる中で、それに寄与する人材が育つと期待される
 コンサルティング支援を受けて進めた取り組みにより、若者向け、シニア向け、2つのタイプのブランド住宅について、前者は明るくローコスト・ハイパフォーマンスの住宅、後者は平屋で高齢化に対応した、昔ながらの出雲地域の伝統文化にも則ったこだわりの住宅と、方向性を固めることができた。また、連携体や施工協力会各社に所属する人材の士気も高まり、「顧客の視点で考える営業スタイル」の土台も整った。
 今後、連携体と施工協力会各社は、実際にブランド住宅の建築を手掛けていくことになる。その実績を積み重ねていく中で、さらに顧客視点の発想が強化され、それぞれの商品づくりに寄与する人材が育っていくことが期待される。

●自社の経営思想やこだわりが顧客にうまく伝わっていない状況もあったことを踏まえ、顧客への効果的なアプローチを図るため、「ブランド住宅」の構築に取り組んだ。
●「自社がお客様にどう見られているか」という、顧客の視点を持った人材を育てることの重要性を、連携体とその関係各社に意識させた。