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連携体名 昇降ロボットによる外壁調査プロジェクト 事業管理者名 三信建材工業(株)
所在地 愛知県豊橋市 構成員 (株)ジャスト

■人間の感覚が頼りで正確さに劣り、コストと時間もかかる従来の外壁点検
 建築構造物の状態を点検する方法には、大きく分けて、人間が目で見て壁面の異常を調査する「目視点検」と、外壁をテストハンマーで叩き、その際の反響音を聴き分けて空隙が生じているか否かを判断する「打音点検」の2つがある。
 これらはいずれも、基本的には機械に頼らず、作業員の主観的な感覚に基づいて行う点検方法である。そのため、異常を発見した箇所の位置情報を図面上に正確に反映できず、「空隙(くうげき)」と判断した反響音などをデータ化して記録できないといった弱点がある。また、感覚による点検技術は習得が容易ではなく、点検作業員の育成には長い期間が必要となる。さらに、目視及び打音検査を行う際には、作業員を構造物壁面間際まで近づかせる必要がある。そのため仮設の足場を構築したり、高所作業車やゴンドラを用いたりすることになるが、それらの準備には多大な費用と時間がかかる。加えて、高所での作業が危険であることは言うまでもない。

■従来の点検方法を抜本的に解決する、センサー・カメラ搭載の昇降ロボットを開発
 以上のように、建築構造物の外壁点検には、実施の際に様々な問題や困難が伴う。だが、我が国では高度経済成長期に集中的にインフラ整備が行われたため、多くの建築構造物が一斉に耐用年数の目安とされる時期(築後約50年)を迎えており、老朽化対策の面から、建築構造物の外壁点検に対するニーズは急速に高まっている。こうした状況も背景に、従来行われてきた外壁点検の方法を、抜本的に改善する必要性が高まっている。
 その具体的な改善策として、愛知県豊橋市に本社を置き、30年以上にわたり建築構造物の調査・点検を手掛けている三信建材工業(株)は、構造物内部の空隙を非接触で検知するセンサーやカメラを搭載した、壁面を昇降するロボットを開発し、それを用いて従来の目視・打音検査に代わる、新たな検査方法を確立しようと構想した。そして、その実現に向け、同社は全国各地で建築・土木構造物に対する各種調査工事を専門で請け負う企業、(株)ジャスト(神奈川県横浜市)と連携。建築構造物検査用の壁面昇降ロボットの開発事業に着手した。

■大がかりな仮設工事や資機材が不要に定量的な調査で点検の精度も向上
 壁面昇降ロボットを活用することにより、建築構造物の外壁点検において、以下のような改善効果が見込まれる。1つめは、大掛かりな足場や高所作業車など、仮設工事や資機材にかかる費用・時間・人員の削減である。2つめは、作業員の感覚に頼らず、超音波を用いた空隙検知センサーなどの機械を用い、定量的な調査を行うことでの点検精度の向上である。3つめは、定量的なデータの蓄積によって対象構造物の点検図面を作成することとなるため、点検の数年後に再度同様の点検を行った場合、それぞれの損傷個所(ひび割れなど)の経過監査において、正確な計測が可能になることである。4つめは、作業員の高所作業が減少するため、落下事故の減少など、安全性の向上が期待できることである。

■大学やメーカーとの共同体制を組みロボットの開発事業を推進
 事業を進めるにあたって、連携体の2社に、協力先として共同研究開発契約を締結した愛知県内の大学、及び神奈川県横浜市の超音波検査機器メーカー(外注企業)を加えた、4者共同による開発体制がとられた。
 壁面昇降ロボットの仕様設計と、搭載する壁面内部空隙検知センサーの開発は、基本的に連携体の2社が行った。これに対し、大学は連携体の行った仕様設計の内容に応じたロボットの提案・設計・開発により、超音波機器検査メーカーは、かつて製造した検知センサーをロボットに搭載するための改良(軽量化)により、それぞれ連携体の取り組みを支えた。

■既存の「高所作業用ゴンドラ」が基本発想、3分の1サイズの試作機で実験し課題を抽出
 従来技術の活用も踏まえて、ロボットは既存の「高所作業用ゴンドラ」を基本発想とし、屋上から吊り下げたワイヤーを伝って、ロボット本体が上昇・下降する設計とした。また、ロボットには「センサー部を左右に駆動できる」、「上下移動の際に障害となる庇(ひさし)等の凸部を回避できる」、「風に煽られないよう壁面へ押し付ける」の、3つの機能を搭載することとした。
 開発の方針は、製造後に課題が出てくることを鑑み、まず想定しているロボットの3分の1程度の大きさの試作機を設計し、実際に作動させた上で課題を抽出し、改良を加えていくこととした。試作ロボットは平成29年1月に完成。まず大学の研究室内に設置した壁面を模したパネル上で駆動確認を行い、搭載した3つの機能の実駆動を実証した。続いて大学構内にある高さ3mの壁面を利用した、屋外環境での実証実験を行ったところ、バランスを保つため搭載した小型ファンが屋外環境ではうまく役割を果たさず、壁面への押し付けができないなど、いくつかの問題点が確認された。そこで、連携体と大学は共同で機体駆動部分のパーツ等の見直しを実施。この仕様変更により解決の糸口がつかめたため、実際のスケールでの試作機の製造を開始し、平成29年4月に完成の運びとなった。
 また、同時に進めていた検知センサーの改良に向けた実験も、平成29年3月に完了した。

■今後の試行的導入に向けて、継続的な検証が行える実験フィールドの確保が課題
 平成28年度の取り組みでは、他社が開発を進めている壁面昇降ロボットと比較し、作業用ゴンドラの構造をヒントにした簡単な構造で取り回しがしやすいことや、庇などの突起物を回避する機構を搭載していることなどで、幅広い建築構造物で利用できる、技術的優位性があることも確認できた。
 今後はロボットの大型化やセンサー類の搭載、自動化に向けた技術開発と同時に、現場への試行的導入が必要となるため、その実験フィールドの確保が課題となっている。現在は、基本的に連携体各社が管理する実現場で検証を行っている。だが、そのような現場は工期を終えると使用できなくなるため、同じ条件下で検証できる期間に限りがある。その対応策として、連携体では廃校などを活用して、継続的に検証が行える環境を整えることを検討しており、そのための働きかけを自治体等に対して行っている。

●生産者が抱える「人材不足、経験者不足、高齢化」の課題と、市場が抱える「インフラ劣化、工期短縮、低価格化」の課題を、同時に解決できるイノベーションが必要と考え、事業を発想した。
●超音波センサーなど先進性の高い技術と、作業用ゴンドラなど広く普及している既存の技術とを組み合わせ、ブラッシュアップすることで新技術の開発に取り組んだ。