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連携体名 塗装業ダイバーシティ経営推進体 事業管理者名 (株)KMユナイテッド
所在地 大阪府大阪市 構成員 (株)竹延、(株)佐藤産業

■性別・国籍・年齢・経験の有無などは不問、やる気ある多様な人材を積極的に受け入れ
 (株)KMユナイテッドは、大阪市に本社を置く老舗の塗装工事業者、(株)竹延の子会社である。職人の高齢化や採用難、若手職人が定着しないことで深刻化する人材不足の解決を図るには、既存の組織や制度にとらわれず、斬新な取り組みができるフィールドが必要との考えから、平成25年に設立された。
 現在、多くの産業で人材不足が叫ばれている一方、女性、外国人、高齢者や、家庭やこころなどの問題を抱えた人の中には、「働きたいのに職に就けない」人も多い。(株)KMユナイテッドは、そうした人たちほど仕事へのモチベーションは高いと信じ、人的資源として積極的に受け入れ、育成している。採用基準は、職人として成長するために最も重要な要素である「やる気」だけで、性別・国籍・年齢・経験の有無などは一切問わない。「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義される、ダイバーシティ経営の考え方が実践されている。その結果、同社には主婦、永住外国人、引きこもりなど様々な人たちが、下は10代から上は70代まで幅広く集まり、第一線の職人として活躍している。

■業界に根付いた“思い込み”を振り払い、労働環境整備と人材育成に取り組む
 塗装工事業に限らず、建設業のほとんどの業種において、「建設業は危ない、女性の仕事ではない」、「職人の技は目で見て盗むもの」、「道具・材料は重くて当たり前」、「機械に頼るべきではない」といった考え方が常識とされてきた。そうした“思い込み”によって、多くの建設企業が、自ら人材確保の選択肢を狭めている。
 これに対し、(株)KMユナイテッドは、時代にそぐわない、“悪しき慣習”があるのならそれを排除すればよいし、仕事に大きな身体的負担や危険があるのなら、“文明の利器”を最大限活用すればよいという考えのもと、全ての職人の正社員雇用や週休2日制導入など、労働環境整備・人材育成のための、様々な取り組みを進めている。その結果、人材不足に悩む建設業界において、同社は例外的なポジションを固めつつある。

■これまでの取り組み成果を踏まえ、人材確保・育成戦略の、一層の充実を目指す
 (公財)日本生産性本部の「女性活躍パワーアップ大賞」優秀賞受賞、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」選定、大阪市の「女性活躍リーディングカンパニー」認証(いずれも平成27年度)など、(株)KMユナイテッドの人材確保・育成の取り組みは、各方面から高く評価されている。
 その成果を踏まえた上で、(株)KMユナイテッドは、さらに幅広い人材を対象とした雇用促進と技能伝承を図るため、これまでの取り組みの、一層の充実を目指すこととした。そこで、同社と親会社の(株)竹延、及び塗装副資材の販売と塗装関連機器のレンタルを手掛ける取引先企業、(株)佐藤産業(大阪府堺市)の3社が連携。労働環境面、人材育成面、ツール・商品開発について、改善・充実を図る創意工夫に取り組んだ。

■女性の出産・子育てに配慮した環境整備や、新工法を活かした女性の職域拡大に取り組む
 労働環境面については、女性が妊娠・出産しても、安心して働き続けられる環境の整備に取り組んだ。その一つが、託児施設の、自社による設置である。小さな子どもを持つ“ママ職人”が、朝8時に現場に集合するため、その2時間ぐらい前に子どもを保育施設に預けようとしても、早朝から開いている保育施設はなかなか見つからない。そこで、人材派遣の保育士が朝6時から子どもを預かる「保育ルーム」を、(株)KMユナイテッドの社内に開設した。また、将来的な妊娠・出産を考え、使用する塗料を原則として水性塗料に切り替えた。これは、多くの塗料に含まれるシンナー等の有機溶剤によって、女性に健康上の害をもたらさないためである。
 特殊な塗料とローラーで、外壁を磁器タイル風に仕上げる新工法、「KEPT」による施工の、積極的な展開も進めた。比較的施工が軽易であり、かつ繊細な感覚・スキルが活かせるこの工法は、女性による施工に非常に向いている。その特徴を活かし、意識的に女性職人をKEPTの施工担当とするなど、女性の職域拡大に取り組んだ。

■一つの作業のみに特化した技能訓練で、スペシャリストの早期育成を実現
 塗装工事には多くの作業工程があり、経験のない素人がその全てを習得するには、長い時間が必要である。このことは、人材を早期に戦力としたい会社にとって望ましくないだけでなく、なかなか一人前になれないことで職人が自信を持てず、退職してしまう原因にもなりかねない。
 そこで、人材育成面については、一連の工程を細分化し、ある一つの作業のみに特化(例えばパテ作業だけ)した技能訓練を行う、スペシャリストの早期育成に取り組んだ。指導は(株)竹延から(株)KMユナイテッドに移籍した、トップレベルの職人などが担当。ある一つの作業に必要な技能だけを徹底的に叩き込むことで、全くの素人に、早いもので入社1年半ほどで経験10年のベテランにも負けない技能が身につくようにした。今後は、このような技能訓練を1~3年サイクルで繰り返すことで、多能工を育成するシステムも確立する予定である。
 また、塗装、左官、防水、耐火被覆等の技能訓練を行う、「職人育成塾」を開設した。事務所スペースと、塗装のトレーニングに用いる石膏ボードや押出成型セメント板などを備えた、座学と実践トレーニングが行える専用の施設を設置し、(株)KMユナイテッドや(株)竹延の職人が気軽に、日常的に技術を磨ける環境を整えた。

■職人の負荷を軽減するツールを導入、作業環境の改善・作業効率の向上を図る
 ツール・商品開発については、一般の手押し台車では進むのが困難な悪路でも、スムーズに重量物を運搬できる電動アシスト付き台車のリース導入などを行い、作業環境の改善と作業効率の向上を図った。また、(株)佐藤産業と(株)竹延が共同開発した、塗装作業時に片手にかかる負荷を大幅に軽減する「ローラーハンドルセット」を多数導入。これにより、女性も長時間の塗装作業を難なくこなせるようになった。
 連携体は、今回の事業での取り組みも含め、引き続きこれまでの活動を精力的に行い、発展させていく方針である。また、それに伴う正社員の職人の増加に合わせ、今後は、受注増のための活動にも注力していきたいと考えている。

●人材不足が叫ばれる中でも、「働きたいのに職に就けない」人が少なくないことに着目。性別・国籍・年齢・経験の有無などには一切こだわらず、多様な人的資源を受け入れた。
●工程を細分化し、特定の作業のみに特化させることで、早期にプロフェッショナル職人の育成を実現。長年の修業を経てこそ一人前の職人という、建設業界の“ 思い込み” を覆した。