本事業は当財団が平成28年度・29年度の2ヶ年度に亘り、各地域における生産性向上に資する取組について調査を行ったものです。今回、調査対象となった企業や団体のご厚意により、その内容を広く公開させていただきました。本事業が他の優良モデルとして皆さんの参考となることを期待しています。
<業務委託先>
平成28年度:一般社団法人京都府建設業協会
平成29年度:京都サンダー株式会社
建設産業は少子高齢化により十年以内に多くの退職が見込まれているため、技術の継承は大きな課題となっております。そこで、次の時代に希望を持てる産業とするために、建設産業では国・地方・公共団体から多様な対策が講じられている最中です。その対策の一つとしてi-Constructionが2016年から開始されました。i-Constructionとは、建設業における生産性向上の呼びかけでもあり、生産性向上という課題をどう受け止め、どう対応をするか建設業経営者に問いかけるものです。すでに各地で多くの企業が取り組みを始めています。
i-Constructionには2種類あると考えています。一つは大規模で体系的な取り組み、もう一つは独自の考え方できめ細やかな取り組みです。その双方が求められていると考えます。この事業では後者に焦点を当て、各地域で独自にi-Constructionと人材育成に取り組む15社・団体の調査をさせていただきました。北は北海道から、南は大分まで現地にお伺いし、実際に現場を見ることで地域の特色、地域の現状を知り、そして経営者の行動力や専修性が必要であることを改めて実感しました。こうして地域で奮闘する建設企業の取り組みの事例を集めて分析することで、これを見た建設業経営者が「自分でもできそうだ、挑戦してみよう」と思える事例を具体的に紹介することが、この調査の目的です。平成28年度、29年度と2ヶ年度にわたり調査しました。
28年度は独自の考え方や手法で生産性向上を目指す取り組みを行っている全国の15社の企業・団体にスポットを当て、調査をしました。先進的な取り組みをされている企業、職人を育成する教育機関を訪問し、経営改善のきっかけを具体的な取り組みとその効果についてインタビューをしました。さらに、29年度では、昨年度の調査事業の内容を生産性向上という視点で改めて分析し、各企業が持つ戦略や企業文化ノウハウなど、コアな部分を抽出し、その効果を定量的に顕在化させることに取り組みました。
報告書の内容は大きく4つの分類(情報化施工、人づくり、地域づくり、多様性)で区分したものですが、共通する成功要因を発見するために、アンケートやヒアリングを実施し、生産性向上を支えるコアコンピタンス、自社の中核となる技術や特色について、更に深掘りした内容としてまとめたものです。各企業が取り組みを始めるきっかけは、家業の倒産の危機による経営再建、高齢化による技術の継承の問題、担い手不足による職人減少の危機など様々でありましたが、全員に共通しているのは、早い時期から危機を感じ、解決策を模索している若手の経営者が多く存在することや、会社が立ち向かう方向を明確にしているということでした。また、建設業は地域性が色濃く出る産業であり、同じ建設業と一括りにいえるものではないと改めて感じました。地域の特性に合った手法やアイデアは、決してデジタルテクノロジーなど最先端技術だけではなく、人にスポットを当てた取り組みも多くありましたし、そして、そのテクノロジーの方法も単に効率化を行うばかりではありませんでした。地域住民に「情報の共有と見える化」を行う方法、また現場の長時間労働の軽減や女性が参加しやすい環境の整備などを進めたことで、結果として生産性向上に繋がるという取り組みもありました。そしてそれは、若者が就職で希望する、長く働ける建設業、そして時代にふさわしい建設業を目指すことに繋がるのではないかと考えました。単独企業の取り組みには限界があるため、地域を超えて緩やかな連携で情報交友や技術交流を継続して行っていくことが重要であると考えます。
「京都サンダー株式会社 代表取締役 新井恭子」