i-Constructionが始動して2年がたった。その推進施策の一つであるICTの活用による生産性の向上は、当初、国交省発注の大きな工事で大手ゼネコンを中心に導入が始まり、徐々にローカルの中小規模の工事にまで広がって行くものと考えていた。このため、ローカルの中小レベルの企業にまでi-Constructionが浸透するのは、少し先になると予想していたが、実際にはそれらの企業でも生産性の向上にトライするケースが見られるようになった。それらの事例を見ると、必ずしも国土交通省が想定したスキームに従うものでもなく、独自の考え方や方法で生産性の向上で実をあげるユニークな取り組みも見られる。このことは、i-Constructionが想定していた以上の成果ともいえる。
i-Constructionは、建設業における生産性を大幅に向上して産業としての体質を改善することを目指している。ここで注目している生産性の定義は、狭義には一人、一単位時間あたりの生産量で表すことになり、できるだけ人手をかけずに、かつ短時間で生産を行うことができれば向上していくことになる。すなわち、省人化、省力化、効率化の推進である。広義の定義では、工事成果物の品質を上げて、トータルとしての供用性や長期耐久性の向上、環境負荷低減などの効果も含めることができる。建設業全体の生産性は、広義の生産性で議論すべきではあるが、個別の発注者や企業が取り組むのは、狭義の生産性の改善となる。前述のローカルの企業のユニークな取り組みは、独自の考え方で狭義の生産性を高めておられる事例といえる。
狭義の生産性の改善を効果的に実行するには、何らかの形で生産性を定量的指標で定義して、常にそれをモニター(見える化)し、さらなる改善の方策を模索するスキームを入れることが望ましい。今回の調査ではこの考えに基づきいくつかの企業について「出来高/人件費」の比や利益率を指標として評価することを試しに行ってもらったが、個々の企業の業態や経営管理方法等により指標の持つ意味合いが異なるため、現状では統一的に議論することは難しい。業界をあげて統一的な指標のあり方が議論されると、企業毎の生産性の比較を行うこともできるが、現段階では統一的な指標があるわけではないので、企業などの組織毎に生産性を定義して、工事プロジェクト毎の生産性をモニターするのも一つの方法と思われる。プロジェクト毎、あるいは工事プロジェクトの中のプロセス毎に完工高、人員数、平均就労時間等をモニターし、生産性を算出して、工事毎のさらなる改善策を考えるスキームをつくることができると、改善すべき点が浮かび上がってきて、新たな方策を効率的に導入する方法に関するヒントも得られることが期待される。
i-Constructionにおいて、生産性の向上を目指して新たな施策を導入することは有効な取り組みと言えるが、闇雲に導入したのでは、コストがかかる割に効果が得られないことにもなりかねない。確実に効果を得るためには、改善の目標を明確に定義してその達成のために適切な施策を導入する必要がある。その意味から、企業毎に定量的な指標を設定して、生産性向上の方法を柔軟な発想で模索することが有効な取り組みになると考える。
今次のi-Constructionで画期的なことは、これまで固定されていた基準やマニュアルが改訂されたことである。単にこれらを改変しただけではなく、実際に使いながら微調整を入れ、これらの基準やマニュアルを実務でより有効に使えるように見直していく柔軟性も入れ込まれている。このような動きは、建設だけではなく、日本の他の省庁にも見受けられる。日本が動き出していることが感じられ、その流れを建設産業がリードすることを期待する。
「立命館大学 理工学部 建山 和由」