連携体プロフィールを見る
連携体名 協同組合ノッチ・アート遠野 事業管理者名 協同組合ノッチ・アート遠野
所在地 岩手県遠野市 構成員 4社

■「循環型林産業」の実現を目指し、連携プロジェクトが進む岩手県遠野市
 民話の里として知られる岩手県遠野市は、北上山地の中央に位置し、山と高原に取り囲まれた市域の大部分が森林で占められている。
 豊かな森林資源に恵まれた遠野市ではあるが、多くの林産地と同様、木材の需要の低下や経営費用の増加、担い手不足等の課題を抱えており、林業をとりまく状況は厳しい。そのため、遠野市では早くから多様な木材関連事業が進められてきた。
 その一環として、遠野市では約30haの広大な敷地に「遠野地域木材総合供給モデル基地(森林(もり)のくに遠野)」を整備し、林業、木材加工産業、住宅産業などの枠組みを超えた地域の総合産業づくりに挑戦している。遠野地域木材総合供給モデル基地は、立地する林業・木材産業などの川上から川下までの8事業体のほか、遠野高等職業訓練校、遠野市森林総合センター、市内2つの製材所から構成され、その中核を担う組織として「森 (もり)林のくに遠野・協同機構」(以下「共同機構」)が設立されている。協同組合ノッチ・アート遠野もその一員として、地元産材木を活用した建具や、サッシ、家具、内外装品などの製造・工事を行っている。

■個々の企業・組織体の利害が連携体としての生産性向上の阻害要因に
  共同機構の基本理念は、①調湿(木の乾燥)、集成(集成材)、2次加工(プレカット)、製作(建具・内外装材・家具)といった様々な加工を施すことにより産出木材の高付加価値化を図ること、②森林組合、製材工場、集成材工場、プレカット工場、建具工場、家具工場といった林業・木材・住宅関連産業が一箇所に集まり有機的に結びつくことによって合理的な生産と経営によるコスト・ダウンを図ること、③これらの機能によって生じた利益を基に更に木を植え、森を守り、山林の有効管理を進めて水源かん養などの森林のもつ公益的機能を高めて『循環型林産業』の実現を図ることである。
 共同機構は、各事業体が有機的に結びつき、それぞれ得意分野を活かし機能を分担する組織であるが、共同受注や共同生産を主導する役割は持たず、受注機能や生産機能、事業体内部の連携については各事業体に任されている。そのため、各事業体は、共同機構の中で一定の成果を上げてはいたものの、繁忙期が重複して対応ができなかったり、連携体としての工程管理や効率的な原価管理ができなかったりすることも少なくなかった。

■新たな収入源確保を目指す、バイオマス活用事業の立上げを検討
  また、東日本大震災の“復旧・復興特需”が今後終息の方向に向かうこともあり、各社では既存事業のほかに、新たな収益源の確保が急務となっていた。
 そこで、連携体では、各社の強みを活かし、地域支援を活用したバイオマス(キーワード解説)活用事業を立ち上げることを検討していたが、専門的な知見が乏しく、事業の方向性や収支見通しなどの実務検討も十分にはできていなかった。また、事業化にあたっては多額の設備投資が必要であり、補助金の活用や融資の実現など資金調達の課題もあった。
 以上のような状況から、コンサルティング支援のもと、連携体としての生産性向上の検討と、新規事業に関する方向性の明確化に取り組んだ。

■受注・納品体制再構築のための方向性と、生産性向上の取り組みの基本方針を検討
 連携体としての生産性向上対策については、受注・納品体制の再構築を目標とした。
 協同組合ノッチ・アート遠野は、木造建築物の施工や各種木製加工品の開発・販売等を手掛ける第三セクター企業(株)リンデンバウム遠野を中核企業とした4社から構成されている。連携体の生産性向上の取り組みの検討にあたっては、まず連携体の受注機能を担う(株)リンデンバウム遠野の経営分析、現状の営業体制と納品体制の分析、今後の事業損益の見通し、連携推進に係る諸課題の整理などを行った。
 この検討の結果、構成員各社の業務や利害を優先せざるを得ないため、連携体のメリットを活かした生産性向上の取り組みが十分に機能していないことが明らかになった。また、共同機構を構成する各社との連携についても、現時点では個別受注の元請・下請関係にあるため、抜本的な対策が必要であることが判明した。
 各構成員は連携受注の拡大やコスト・ダウン、納期短縮の必要性については十分に認識していることから、引き続き課題を共有しながら受注・納品体制の再構築に取り組んでいくようアドバイスした。

■バイオマス活用事業の開始に向けた、具体的な検討を実施
 今後の経営力強化にあたっては、公共工事の減少や地域の人口減少などによって既存事業は厳しい事業環境になる可能性が高く、新規事業の早期立ち上げが重要であるとの認識となった。
 検討する事業分野は、バイオマスを活用した発電事業、熱利用事業、畜糞処理・肥料製造事業などであるが、各分野の専門的知見を活かした効果的な検討とするため、地元の農業・畜産関係者、バイオマス関連機器メーカー、遠野市担当課なども交えた「異業種連携地域バイオマス利活用検討会」を立上げた。また、委員会の検討内容としては、バイオマス活用事業の市場性や事業性の整理、事業モデルの構築、地元の企業・関係団体との連携体構築、実現に向けた課題の整理等をテーマとし、県内外の先進地の視察なども行った。
 その結果、バイオマス活用事業は多くの先行事例があるが、いずれもビジネスモデルや収支構造が確立されているとは言い難く、解決すべき問題が山積していることが判明した。
 新規分野の検討過程では、売電事業、遠野市の堆肥センターと連携した糞尿処理・堆肥事業、ハウス栽培農家での熱活用事業など、いくつかの事業モデルが具体的に検討され、事業の方向性について一定の指針を得た。次年度以降は、この指針をたたき台に、具体的な方向性と事業計画について、検討が進められる予定である。

■今後の検討課題が明確になり、今後の取り組みに向け大きく前進
 今回の支援を通じて、連携体としての生産性向上を阻害する要因や今後の取り組みにむけた課題を明確にすることができたことで、今後の経営改善に向けて大きく前進することができるようになった。
 また、新規事業の立ち上げについても、何を、どのような視点で検討すべきかが明らかに なったことにより、実現に向けた検討が加速していくものと期待される。


 バイオマス
 生物資源で、エネルギーとして利用できるもの。バイオマスのエネルギー利用の主なものとして、廃食用油を加工したバイオディーゼル燃料(BDF)や、間伐材の木質ペレット化のほか、食品廃棄物や家畜排泄物からのメタン精製などがある。

●連携の効果が最大限発揮できる事業体制を構築するには、構成員の企業がそれぞれの利害や課題があることを認識し、その実態を踏まえた検討が求められることを確認した。
●バイオマス活用事業は明確なビジネスモデルが確立されておらず、検討課題が山積している。まずはその問題を解決する方法を検討するという視点で、事業の方向性について検討した。