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連携体名 木材加工場協同活用連携体 事業管理者名 (株)北澤建設
所在地 神奈川横浜市 構成員 (株)鈴木建設事務所

■新たな加工場の確保を迫られた建設企業が、その共同活用と職人の相互応援を提案される
 (株)北澤建設は、日本の伝統的な軸組み工法を得意とし、横浜市を拠点に、関東南部を営業エリアとして茶室建築、数寄屋(すきや)建築など、日本家屋を造り続けてきた建設企業である。
 同社は昭和38年の創業以来、地元の木材仲卸業者より材料を調達しており、同時に、同木材仲卸業者の材料置き場の一部を無償で借用し、加工場として使用することで事業を継続してきた。ところが、平成28年の初めに、同木材仲卸業者から、近隣へのホームセンター進出による業績悪化等のため、近々廃業するとの通告があり、新たな加工場を確保することが急務となった。
 そうした折、営業情報を共有するなど、日頃から付き合いのある横浜市内の工務店、(株)鈴木建設事務所の社長から、「業務拡大とともに加工場が狭くなり、通し柱など長い木材の加工に苦慮している。そこで、新たに貴社が確保する加工場を共同で活用し、あわせてお互いの職人が業務を応援し合う体制も構築して、職人の生産性向上を目指してはどうか。」との提案を受けた。

■生産性を向上させたい2社の思いが一致、加工場・職人の共同活用に向けて連携
 これまで無償で借用していた加工場が使えなくなり、新たに賃借することは、(株)北澤建設にとっては固定費の増加につながり負担が大きくなる。また、手持ちの職人が高齢化していることから、将来の職人不足が懸念されていた。そこで、「加工場を共同で活用し、あわせて職人の相互応援体制も構築する」という提案は、同社にとっても望ましい戦略であった。
 こうして、(株)北澤建設と(株)鈴木建設事務所は、木材加工場の共同活用と、職人の相互応援体制によって生産性の向上を図り、それを業績回復につなぐため、連携することとなった。各社の役割は、(株)北澤建設が新たに木材加工場を賃借して運営管理にあたり、(株)鈴木建設事務所は(株)北澤建設と営業情報を共有のうえ、職人の共同活用を推進していくこととした。

■加工場を共同活用するための、契約締結・ルールづくりなどが課題に
 連携体が、木材加工場の共同活用等に取り組むにあたっては、いくつかの課題があった。
 まず、早急な加工場の確保・移転は、(株)北澤建設の業績に悪影響を及ぼしかねないため、同社の業績回復を目的とする、社内人材の活用策の検討と事業計画書の作成が急務であった。また、新たに賃借した木材加工場を共同活用するためには、事前に連携体の2社間で契約を締結し、利用のルールを決める必要があった。さらに、地域の工務店は、必要な広さの加工場を確保できず、やりくりして加工作業をしているところも多い。そうした工務店に加工場の共同活用に参加してもらう、あるいは木材加工業務を発注してもらう取り組みについても、固定費削減の観点から検討する必要があった。

■社員全員で社内人材の活用について検討、組織体制を見直し業績回復を目指す
 社内人材活用策の検討と、事業計画書の作成を行うにあたり、支援チームは(株)北澤建設の現状の組織体制、及び業績状況について確認した。その結果、営業から現場対応まで、責任者は社長1人で担っていること、個別工事の実行予算(キーワード解説)の作成ができておらず、その結果利益が確保できず、財務の悪化につながっていることなどが明らかになった。
  そこで、これらの状況を改善するため、(株)北澤建設の社員全員(6名)が参加しての、人材活用についての検討会を6回実施した。そして、これらの検討を通じ、30~40歳代の大工職の従業員4名が、工事管理者となり実行予算の作成も行う、これまで材料担当だった社長の子息が、営業担当に異動し主にリニューアル関連の営業にあたる、社長の担当業務は営業を主業務とし、営業力を強化するなど、業績回復に向けた組織体制の見直しを行うことを決めた。
  また、人材活用の検討を進めると同時に、それを踏まえつつ事業計画書を作成した。


■「継続的共同利用基本契約」を締結し、職人の業務応援も実施
 (株)北澤建設が新規に賃貸契約した木材加工場を連携体の2社で共同利用し、生産性向上を実現するための契約については、平成28年9月に「継続的共同利用基本契約」を締結した。また、職人の相互応援については、
(株)北澤建設から、9月から10月まで延べ10名ほどの職人が、(株)鈴木建設事務所の業務応援に入った。
 加工場の共同利用企業を増やす取り組みについては、取引先金融機関の協力により、鎌倉市の工務店を紹介された。場所の問題もあり、正式な共同利用契約の締結まで至らなかったが、今後、その工務店が横浜方面で工事を受注できた際、あらためて加工場の共同利用について、具体的に検討してもらうこととなった。


■今後地域の工務店を巻き込んだ、生産性向上の進捗が期待される
 組織体制の整備、実行予算の作成など、改善活動に取り組んだ結果、(株)北澤建設の平成28度決算(平成29年3月期)の予想は、売上で前年比15%程度のアップ、営業利益では前年度比約3倍を確保する見込みとなった。経常利益も、前期は赤字であったのが、黒字に転ずることとなった。同社の大工職人4名が、「工事管理者」として実行予算を作成できるようになり、個別工事の原価管理能力が向上したことも、今後に向けての大きな成果である。
 職人の相互応援・活用による職人の生産性の向上については、(株)鈴木建設事務所の受注量が一時減少したこともあり、今回はごく短期間の取り組みに終わった。だがその実績は、共同での職人の活用へ向けての試金石となった。今後このことと、加工場の共同利用企業の増加とが相乗効果となって、
地域の工務店を巻き込んだ、生産性の向上が進むことが期待される。

 実行予算
 工事受注後にその工事をどのような予算計画で進めていくかを、工事の着手前に計数化したもの。工事のコストを管理し、利益を確保するために作成される。工事の詳細が決まった後、協力会社と発注金額の交渉を行うなどして作成されることから、工事原価総額の精緻な見積りといえる。


●2社で経営資源(木材加工場)を共同活用するにあたり、後々利益の分配等で揉めごとが起こることのないよう、契約を締結し、利用のルールを決めた。
●今後職人不足が深刻化する可能性を見据え、連携体の企業間でお互いに職人が業務を応援し合う体制を構築し、職人の生産性向上を目指した。