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連携体名 職人の多能工化に向けた教育体制の確立 事業管理者名 (株)ヤマガタヤ
所在地 愛知県名古屋市 構成員 ひまわり住設

■専門職人の人件費高騰のため、工事のコストが大きく上昇
 名古屋市に本社を置く(株)ヤマガタヤは、住宅の内装・外装の施工、木造住宅の設計基礎から完成までの責任施工、住宅建築にかかわる資材の納入、太陽光発電の販売・設置等、住まいに関わる事業を展開している。
  近年、既存マンションの活用ニーズが高まっていることから、リノベーション(キーワード解説)・リフォーム市場の需要が急速に伸長してきている。大手ホームセンターや通販事業者等、様々な業種からの市場参入も相次いでいるため、同社はこの分野における他社との差別化を図り、競争優位性を確保しようと考えていた。
  その実現のためには、工事におけるコストダウンが重要な課題であると同社は認識していた。工事のコストの多くは職人の人件費で占められるが、同社ではこれまで、大工工事、水道工事、タイル工事、クロス張り等の工程にそれぞれの専門職人をあてがってきた。だが、リノベーション・リフォーム市場の急速な拡大により、専門職人の供給体制が追いつかず、業者間で職人の取り合いが激化している状況もある。そのため職人の人件費が高騰し、同社でも工事のコストを大きく押し上げる要因となっていた。

■工事のコストダウンと品質安定化のため、多能工化に向けた教育体制の確立を目指す
 このような、専門職人を手配することによるコスト増を解決する方策としては、自社職人による施工の内製化を進め、さらに多能工化することが効果的であると考えた。自社の職人が、1人で複数の工程に携わることが可能になれば、生産効率が高まり相当のコストダウンを実現することが期待できる。また、施工のコストやスケジュールも管理しやすくなり、施工品質の安定化にもつながる。
 そこで同社は、自社の職人が大工業務、タイル業務、クロス業務といった各工程に1人で対応できるよう、多能工化を進めることを決意。三重県いなべ市の水道設備工事業者、ひまわり住設と連携し、職人の多能工化に向けた教育体制の確立に取り組むこととなった。ひまわり住設では、近年、ユニットバス一体、システムキッチン一体といった、水道設備周りのユニット工事の仕事が急増し、その需要に自社だけでは万全の対応ができないことから、水道工事以外の工事も自社で請け負える体制の構築が、喫緊の課題となっていた。

■職人のスキルアップと技能評価制度等の導入による、教育体制の整備に取り組む
 職人の多能工化に向けた教育体制の確立を進めるにあたり、課題となったのは、職人のスキルアップと技能評価制度等の導入による、教育体制の整備である。連携体2社の職人には、①特定の技能を有しているものの、その他の技能・知識が不足している、②技能を習得するための教育制度が確立されていない、③技能習得基準や、評価制度、人事制度が明文化されていない、④顧客対応に求められるマナーについて知識が不足している、⑤顧客対応についてのマニュアルが整備されていない――という状況があり、これらの克服が必要であった。

■マナー研修を実施し、施工時の場面別に実践すべきマナーについて学ばせる
 連携体では、ある販促メディア企業がWebで営業する「定額リフォームパック」の、施工を請け負う事業を開始することとしていた。この事業では、客先からの問い合わせに対し、多能工化した職人が現地調査、見積もり、施工等、リフォーム工事の契約から施工完了まで一貫して行う。この事業に携わる職人の接客及び技術スキルを一定以上にレベルアップすることも、今回の取り組みの具体的な目標となった。
 職人のスキルアップについては、連携体の職人向けに、「マナー研修」を実施することとした。研修に先立ち、支援チームは(株)ヤマガタヤの役員や管理職社員らにヒアリングを行った。そこで、①基本マナーのマニュアルを整備する、②基本的なマナーに加え、訪問時から施工完了時までの一連の流れの中で、職人と顧客が接する部分を抽出し、マナーのマニュアル化を推進する、③現場で考えられる顧客対応について、マニュアルをもとにトレーニングを実施する、④顧客満足の向上・ホスピタリティマインドの重要性を理解させる――という方向性を確認し、これらを反映させた研修テキストを作成した。
 平成28年10月5日、名古屋市内でマナー研修を実施した。連携体や協力企業の、リフォームパック事業に関わる職人ら約50名が参加し、意識改革に向けた第1歩として、施工時の場面別に実践すべきマナーのあり方について学んだ。また、顧客対応マニュアルのベースとなる資料を策定し、平成29年5月の完成をめざし、精度の高いマニュアル整備に着手した。

■職責の明確化や給与体系資料の作成など、「職人人事制度」構築の準備を進める
 技能評価制度等の導入による教育体制の整備については、支援チームは連携体に対し、人事評価制度マニュアルを使った人事考課についての講義を行ったほか、中小建設企業の人事評価導入事例についての講義、人事評価表の導入、及び人事評価表に関する評価項目検討の支援、職人生涯モデルのモデルケースの構築支援を実施した。これらの取り組みにより、職位による職責の明確化、職人の経費の実態把握、社内受取システムの構築、給与体系の資料作成など、「職人人事制度」の構築に向けた準備を進めた。
 このほか、支援チームは補助金を活用した人材教育を提案し、厚生労働省の助成制度である、「建設労働者確保育成助成金」についての説明を行った。

■今後は研修を定期的に実施し、多能工としての職人の品質向上を図る
 (株)ヤマガタヤでは、多能工化の職人の技術レベルの向上を図るため、社内に「職人部」を設け、職人数を増やしていく計画である。今回の取り組みによって職人部発足までの事業計画、及び人材育成スケジュールが明確となり、このことは、多能工を目指す職人たちのモチベーションアップにつながった。
 支援期間中は1回だけの実施にとどまった職人向けの研修だが、連携体では、今後リフォームパック事業の進捗にあわせて定期的に研修を実施し、多能工としての職人の品質向上につなげていく考えである。具体的には顧客対応や施工上の問題点などについて、職人同士がディスカッションを行うなどの研修内容を検討している。

 リノベーション
 既存の建物を大規模に改装して、性能の向上や新しい価値の付加を行うこと。用途変更や時代の変化に合わせた機能向上を伴う点で、リフォームと区別されることが多い。

●コストダウン、施工品質の安定化に向け多能工化を実現するために、職人のスキルアップと技能評価制度等の導入による、教育制度の整備に取り組んだ。
●多能工化した職人には、一層の顧客対応力が求められることから、スキルアップ教育においては、接客時や現場でのマナーの習得を重視した。