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連携体名 酒井工業株式会社・株式会社瀧原工業 事業管理者名 酒井工業(株)
所在地 京都府京都市 構成員 (株)瀧原工業

■橋梁の維持・補修工事が増加する中、人材不足と工事の赤字が問題に
 京都市に本社を置く酒井工業(株)は、橋梁の補修・補強工事を中心に、鋼構造物及びコンクリート構造物の維持点検、簡易な補修から、耐震補強工事までを総合的に手掛ける建設企業である。
 近年、高度経済成長期に集中的に整備された社会インフラの保守・補強・補修が、全国的に急務とされている。同社でも補修をメインに橋梁の工事が増えつつあり、今後もさらに増加する見込みである。橋梁の維持・補修工事の現場では、左官工事をはじめ、斫(はつ)り工事、塗装工事などの技術施工を同時に要求される。だが、それらの施工に携わる人材を同時に揃えることは、建設業の人材不足が深刻化する中、年々困難となっている。
 また、橋梁の維持・補修工事の発注者が予定工事価格の積算に用いる歩掛(ぶが)かり(キーワード解説)は、多くの場合、大規模工事をベースとした“標準歩掛”である。そのため、施工の内容や規模によっては、契約単価が実行予算(キーワード解説)を上回り、工事が赤字となる場合がある。酒井工業(株)では、比較的小規模な橋梁工事を多く手掛けていることから、そうしたケースが発生しがちで、経営上の課題となっていた。

■工程の少人数化と生産性向上を目指し、多能工を育成しようと計画
 人材の確保難と、実際の歩掛と予算上の歩掛の乖離による赤字の発生という、二つの問題に直面していた酒井工業(株)は、その解決を図るため、多能工を育成しようと考えていた。
 これまで、同社及び協力会社の従業員の多くは、一つの業務に特化した「単能工」であった。だが、単能工が1人で複数の工種を受け持つことができる「多能工」に変われば、工程の少人数化が可能となる。さらに、他工種の作業内容や段取りを理解している多能工は、工事全体に配慮した対応ができるので、作業の手戻りや輻輳(ふくそう)などが減少し、生産性が向上にすることも期待される。
 ただし、多能工にはそれぞれの専門工事技建設術を、一定のレベルで施工できる技術能力が要求されるため、各技能に関する資格取得者、検定合格者となることで、その技術能力を証明することが望まれる。

■教育訓練体制の整備など、技能者の多能工化を図るシステムの構築に着手
 多能工を育成し、さらに資格取得、検定合格などのスキルアップも支援するには、そのための教育システムの整備・運用ができる仕組みを構築することが必要である。ところが、酒井工業(株)には人材育成システムを体系的に整備した経験がないため、その作成プロセスや運用等に関するスキルやノウハウを有していなかった。
 そこで同社は、コンサルティング支援のもと、教育訓練体制の整備など、技能者の多能工化を図るシステムの構築に取りかかった。その取り組みを進めていくにあたっては、同じく多能工化を目指していた大阪市の(株)瀧原工業と連携体制をとった。

■多能工の育成により実現させたい、事業の将来像に焦点を定める
 技能者の多能工化を図るシステムの構築にあたっては、連携体が多能工の育成により実現させたいと考える、事業の将来像に焦点を定める必要がある。そこで支援チームは、連携体の両社が目指そうとしている方向性を明確にし、それに対するアドバイスを行った。具体的には分析ツールとして「対象顧客やエンドユーザー、提供している価値などを認識するためのシート」、「顧客・会社・従業員などの未来を描き現状との違いを分析し、行動を想定するためのシート」、及び「これからの事業展開の戦略・施策・計画を検討するためのシート」を用意し、連携体の両社に記入させた。これにより現状と将来の事業展開の方向性を確認し、アドバイザーが必要な助言を行った。

■連携体の考える戦略と、現場の実態・ニーズとの整合性を図る
 次に、多能工の育成において、連携体が目指す方向性に必要な専門技術・資格等と、実際に現場作業の効率化に役立つ専門技術・資格等との整合性を図るため、アンケート調査を実施した。具体的には連携体内、及び協力企業の従業員が身につけたいと考えている、現場作業に必要な技術や資格等を調査し、その結果を受けて、実際に行う研修・講習等の候補を選定した。また、連携体・協力企業の従業員が、すでに保有している技術・資格等についても調査し、研修・講習等の重要度や優先順位の把握と、講師候補の選定を行った。講師の資格や条件などに制約があり、連携体・協力企業内から講師候補の適任者を選定できない場合には、各種教育訓練センター等に確認して講師候補を選定した。
 これらの取り組みの結果、経営層の考える戦略と、現場の従業員等のニーズ、双方を踏まえた研修・講習プログラムを作成することができた。特に、現場の従業員等のニーズを反映させたことは、受講者が意欲的に取り組めるプログラムを作成する上で効果的であった。
 連携体は研修・講習プログラムを運用する費用を確保するため、厚生労働省の支援制度である「キャリア形成促進助成金」(注:平成29年4月から「人材開発支援助成金」に名称を変更)を活用したいと考えており、支援チームはその申請書の作成も支援した。

■今後は権限と責任を明確にした管理体制と、学習意欲を維持する仕組みの整備が課題
 今回の支援によって、技能者の多能工化を図るシステムの構築は完了した。今後のシステム運用にあたり重要となるのは、継続的に実効性のあるシステムを維持していくことであり、そのためには、表出する課題をその都度解決していく体制と、従業員の学習意欲の維持が求められる。具体的には、権限と責任を明確にした運用管理体制と、学習意欲を維持するための仕組みを整備することが必要である。

 歩掛
 ある作業を行う場合の単位数量または、ある一定の工事に要する作業手間、ならびに作業日数を数値化したもの。建設工事などの積算の際、歩 掛に対応する職種の労務単価を乗じ、工事費用の根拠とする。

 実行予算
 工事受注後にその工事をどのような予算計画で進めていくかを、工事の着手前に計数化したもの。工事のコストを管理し、利益を確保するために作成される。工事の詳細が決まった後、協力会社と発注金額の交渉を行うなどして作成されることから、工事原価総額の精緻な見積りといえる。

●多能工を育成することにより、今後どのような事業展開を目指すのか、その方向性を明確にした上で、多能工を育成するシステムの構築に着手した。
●連携体が目指すべき方向性を確認した上で、現場における実態、ニーズとの整合性を図りつつ、作業の効率化に最も役立つ研修・講習等を選定した。