連携体プロフィールを見る
連携体名 0831プロジェクト 事業管理者名 (株)重機建設水田組
所在地 兵庫県美方郡新温泉町 構成員 吉井建設(有)

■公共事業の減少で事業の多角化を目指すも、脆弱かつ非効率な人員体制がネックに
 公共事業の減少や、少子高齢化・過疎化による担い手不足で、事業継続のための苦しい対応を余儀なくされている地方の建設企業は数多くある。兵庫県但馬地方で、官公庁発注の土木工事を中心に事業を展開する(株)重機建設水田組も、そうした建設企業の一つである。
 同社は、公共事業が減少している現状を受け、民間工事への参入や、個人事業として行っている農業生産を法人に移行して事業規模を拡大するなど、事業の多角化を図り、売上を確保したいと考えている。ところが、いくら公共事業が減少したとはいえ、繁忙期には工事案件の集中が起こる。案件が集中することで、常用雇用の従業員は、現場の掛けもちにより長時間の作業をするなど、負担が大きくなっており、業務効率の低下、労働環境の悪化を招いていた。逆に、閑散期には人員がフル稼働するような状況はなく、手待ち時間が多く発生している。閑散期対策として継続的に除雪業務を請け負ってきたが、近年は積雪が少ないため、売上のない“待機”が多い。
 このように、同社の人員体制は脆弱かつ非効率な状況にあり、その改善が同社の今後を考えるうえで、大きな課題となっていた。

■経営の見直しを模索する中、障がい者雇用に積極的に取り組む同業他社の事例を知る
 (株)重機建設水田組に必要とされていたのは、繁閑に左右されない柔軟な人員配置、必要な業務量の確保、適切な労務管理、及び計画的な人員の確保・育成など、人員体制の整備を軸とした経営の見直しであった。しかし同社は、現在の体制の中で、過剰な負担がなく人員の充実が図れる方策を見つけられずに悩んでいた。従業員の教育訓練についても、何らかの機会を捉えて計画的に実施したいとは考えていたものの、その経験や具体的なノウハウがないため、日常業務に流されて実施の端緒をつかむことができず、具体的な取り組みに踏み出せない状態にあった。
 こうした状況の中、同社は同じ兵庫県内にある吉井建設(有)が、障がいを持つ人たちを積極的に雇用し、人員体制の充実・強化に取り組んでいることを知った。

■先行事例の経験・ノウハウの提供を受け、新たな体制づくりを進めることに
 そこで、(株)重機建設水田組は、吉井建設(有)の経験、ノウハウをもとに、人員体制の整備を軸とした経営の見直しに取り組むこととなった。2社は連携体「0831プロジェクト」を結成し、コンサルティング支援のもと、(株)重機建設水田組は新たな人員体制づくりを進め、吉井建設(有)は経験に基づくノウハウを提供すると同時に、自社の体制もブラッシュアップしていくこととなった。
 具体的な取り組みの目標としては、(株)重機建設水田組の経営について、①現状の手待ち時間を50%削減できる人員体制・業務量確保を達成するための中期経営計画の確立、②新たな人材を1名以上確保して業務繁閑調整を可能とする、③求められる力量を明確にした従業員教育訓練計画を策定し、具体的な教育訓練に着手できるようにする、の3点を掲げた。

■NPO法人の紹介で受け入れた人材が、トライアル雇用を経て正社員に
 繁閑調整や新事業参入に必要となる人員体制の整備に向けて、具体的な取り組みをスタートさせた(株)重機建設水田組の第一の課題は、人材をどこに求めるかであった。
 そこで、吉井建設(有)のアドバイスと紹介により、兵庫県但馬地域で就職困難者支援活動を行い、行政とも連携しているNPO法人「ぷろじぇくとPlus」(豊岡市)に相談を持ちかけた。その結果、同NPO法人が運営する就労継続支援B型事業(キーワード解説)を利用し、トライアル雇用の対象者を受け入れることとなった。
 平成29年2月に職場体験実習として受け入れた2名の人材は、(株)重機建設水田組の期待通りの能力を発揮し、同社の業務に貢献した。うち1名は、本人の希望もあり、引き続き同年4月からトライアル雇用として採用し、7月より正社員として活躍していくこととなった。

■効率的な人材配置を検討するため、過去の稼働状況をもとにシミュレーションを実施
 次に、繁閑に応じた効率的な人員配置を検討するため、(株)重機建設水田組の過去2年間の稼働状況を整理し実態を把握。計画している民間工事への参入や、個人事業として行う農業生産を本業とすることで、業務量の平準化が可能であるかのシミュレーションを行った。
 その結果、3名いる従業員のうち、比較的高齢な従業員の主業務を農作業とし、新規に受け入れる人材の管理責任者とすることで、年間を通じた業務量の平準化が図れる見通しが立った。また、同社専務が特定の工事を担当せず、営業活動、応札作業に専念しつつ、必要に応じて現場作業の応援に入ることも可能と判断された。さらに、新規に雇用した人材については、春から夏にかけては農作業を主業務とし、冬場は現場、資材置き場の整理など補助的業務に就くことで、年間を通して手待ちが発生することなく就労できることが確認できた。なお、シミュレーション上では、手待ち時間は新規事業への配置も行った上で、会社全体で従来に比べ、目標に掲げた50%の削減が可能と見込まれている。

■従業員の力量について現状を評価、それを踏まえて来期には教育訓練を実施
 従業員の教育訓練については、その取り組みの前提として、従業員に求める力量の設定と、その力量に対して、現状は各従業員がどの程度の力量であるかを評価する必要がある。そこで、中央職業能力開発協会が公表している「職業能力評価基準」を参考にして、(株)重機建設水田組の今後の事業体制に必要な、従業員の力量基準を設定し、現状を評価した。それにより、設定した基準と現状とのギャップが明確にすることができ、来期には課題を反映させた教育訓練の計画立案から実施まで出来る目処が立った。
  農業生産への取り組みと、民間工事参入による業務量確保の見通しが立ち、3部門(公共、民間、農業)の事業計画及び中期経営計画も予定通り完成した。これらを足掛かりに、(株)重機建設水田組は新しい体制のもと、懸案だった事業の多角化による経営改善を着実に実現させていこうとしている。

 就労継続支援B型事業
 障害者総合支援法に基づく障がい福祉サービス。企業等での就労が困難な障がい者に働く場を提供し、就労に必要な知識や能力を身につけるための訓練を行う。雇用契約は結ばず授産的な活動(売上から工賃の支払あり)を行いながら、雇用契約のある「就労継続支援A 型」への移行、もしくは一般就労を目指す。

●地域の先進事例に学び、働くことで社会参加したいと願う障がい者に活躍の道を開き、担い手確保が困難な中、柔軟かつ効率的な人員体制を確立した。
●過去2年間の従業員別の稼働実績について、定量的な把握・分析を行い、予定している事業の多角化にあたり、業務量の平準化を図れる人員配置を具体的に設定した。