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連携体名 北一タカハシ合田連携体 事業管理者名 (株)北一タカハシ建設
所在地 北海道札幌市 構成員 (有)合田板金工業

■宮大工の技を生かし、北海道の気候風土に適した住宅建築を展開
 札幌市の(株)北一タカハシ建設は、北海道では数少ない社寺建築を得意とする建築企業である。伝統の技を継承する大工職人十余名からなる宮大工集団として、道内全域から青森県内の寺院の新築工事や補修を手掛けるばかりでなく、その匠の技を本格的な木造住宅建築にも生かし、高い評価を受けている。
 近年、工務店では大工を雇用しないで請負大工を活用することが主流となるなか、「人材が会社の成長の鍵を握る」と人材育成にこだわりを持つ同社は、新卒者を社員として雇用し一人前の大工に育ててきた。社内で技を磨き、宮大工としての自覚を持って鍛錬を重ねる若手は順調に育ち、既に経験10年以上のベテランになった30歳代の宮大工が中心となって事業を推進している。
 若手大工の育成にこれほど同社が熱心なのは、宮大工として培った日本伝統の技を北海道の住宅建築に生かし、さらに最先端の技術を組み合わせて、北海道の気候風土に適した、時代を越えて住み継がれる唯一無二の家を提供・普及させたいという強い思いがあった。

■瓦葺職人の不足から、寺院の増改築や和風建築の需要増への対応に課題
 それというのも、北海道は本州との気候の違いから、伝統的な和風様式の住宅が後退してしまった経緯がある。そのため、屋根の造りは大きく異なっている。戦後の北海道では、排雪に便利な三角屋根形式のブロックづくりの住宅が普及したが、近年では無落雪屋根が多く見られる。いずれにしても伝統的な和風建築に使われる瓦屋根は少なく、トタン屋根が主流となっている。
 このような理由で住宅が独自に発展してきた北海道では、瓦屋根にほとんど馴染みがないため、瓦を葺く職人は極端に少ない。実際に、国家資格である「かわらぶき技能士」の道内の資格取得者は、1級が3~4名、2級も6~7名であり、瓦を専門とする職人は合わせて10名程度である。また、かつては道内でも社寺の瓦葺や屋根の修繕において宮大工が活躍していたが、今ではほとんどが廃業し、現在、道内で瓦を扱う企業は3社程度、個人を含めても5~6社程度に過ぎないのが現状である。
 このように瓦職人が非常に不足しているなか、道内の寺院からの新築・補修の依頼や和風建築に関心の高い顧客の需要増に応えるためには、瓦葺職人を計画的に育成・確保することが必要となっていた。

■瓦葺技能の習得に適任となる、高い技能を持った大工職人
 そこで同社は、屋根工事や板金工事を専門としながらも瓦屋根の普及に取り組む(有)合田板金工業と連携体を組織し、地域建設産業活性化支援事業を活用して、瓦葺職人を育成・確保することを計画した。かつては、「左官屋」が兼務して瓦を積んでいたことを考えると、大工は垂直や水平に目が効くので瓦をきちんと積むことができるし、釘を使って固定する今の瓦の施工法においては、大工の方が間違いなく瓦を上手く葺くことができると判断した。

■国家試験である技能検定の受験を軸とする育成計画を策定
 連携体は、瓦職人を一から育てるよりも、大工に瓦葺技能を習得させることが合理的で最も適切な方法であると考えていた。さらに、和風建築において極めて重要な要素である瓦屋根を大工が自ら施工できるようになれば、社寺建築一式を手掛けられることにもなり、宮大工としての技量がさらに高まり自信に繋がる。また、会社にとっても、自社で施工できる幅が広がり、収益性を高められることになる。
 そこで連携体では、大工を中心に「かわらぶき技能士」の資格を取得させることを計画。まずは「二級」の技能試験を受検させ、二級の合格者には2年以上の実務を経験させた後に、「一級」の資格を取得させるという3ヶ年の育成計画を策定し、技能士資格取得者の拡大に向けて実践に移すこととした。

■本場から指導員を地元に招請し、技能検定に備えて実技講習を実施
 瓦葺きの現場が限られ、指導者も少ない北海道において、「かわらぶき技能士」の技能検定の受験に備え万全の準備を進めるためには、実習の場を設け、本場の技術を習得する必要があった。そのため、連携体は、三大瓦産地の一つである石州(せきしゅう)瓦工業組合(島根県)に協力を要請。石州瓦に注目したのは、寒さに強く、凍害が少ない性能と、耐震性に優れた施工法が開発されたことから、冬が厳しく地震の多い北海道でも十分に利用できるようになったからである。石州瓦工業組合も、地元産の瓦の普及のために積極的にPR活動を展開しており、連携体の取り組みにも非常に協力的であった。
 こうして、石州瓦工業組合から指導員を札幌に招請することになり、瓦に関する知識の習得、瓦を割るタガネの使い方やバランスの取れた瓦の積み上げ方など、受検を想定した実技指導や受検のコツや心得などを学ぶことができた。
 これをきっかけに、社内でもトレーニングを重ねて、平成29年1月に島根県大田市で開催された平成28年度の技能検定試験に、連携体から合わせて7名が受検に臨んだ。事前に予想した通り、ほとんどの大工が制限時間内に完成、寸法精度や出来栄え等においても高い評価を得ることができ、7名中5名の合格結果に確かな手応えを掴むことができた。

■太陽光パネルと瓦屋根を組み合わせ、道内に瓦葺の和風住宅の普及を目指す
 本事業の結果、瓦葺技能を習得した宮大工が誕生し、さらに磨きのかかった技によって建てられる寺院や和風建築が増えることによって、道内の街並みの魅力向上に大きく貢献することになる。
 一方、平成26年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画ではZEH(NET ZERO ENERGYHOUSE)(キーワード解説)の実現が政策目標となり、住まいの省エネと創エネが重視されることになった。連携体では、既に数寄屋(すきや)造りに高断熱工法を採用した省エネ型住宅で「北のブランド」として認証されるような実績を重ねているが、さらにこの機会を和風住宅を道内に普及させるチャンスと捉え、瓦屋根と太陽光パネルをセットにした和風住宅の建築を推進していきたいと考えている。

 ZEH
 Net Zero Energy House の略称。住宅の高断熱化と高効率設備により、快適な室内環境と大幅な省エネルギーを同時に実現したうえで、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概ねゼロ以下となる住宅。

●特定分野で技能者や指導者が不足している地域において、既存の専門人材の多能工化を図ることによって、必要とされる人材を効率的に確保・育成することを可能とした。
●国家資格などの資格取得という目標を設定し、実習に取り組む機会を提供することは、技能者のさらなる能力向上に資する有効な取り組みである。