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連携体名 大工・設備人材雇用育成協議会 事業管理者名 (株)関工務所
所在地 群馬県利根郡川場村 構成員 (株)菅原設備

■地元密着で発展した建設企業が、新たな担い手が育たず悩む
 群馬県川場村にある(株)関工務所は、住宅の新築を主力事業とし、他に公共工事、リフォームなども手掛ける総合建設企業である。明治30年(1897年)創業と、1世紀以上にわたる歴史を持つ老舗で、先代社長は川場村の村長も務めるなど、地元での名望も高い。
 同社は現在、32名の社員を擁している。その約半数が大工であり、うち10名が棟梁である。また、常時13組の大工が現場で活躍している。
 ところが近年、若い大工見習たちが会社に定着しないため、同社は新たな担い手が育たないことに悩んでいた。新人が入社しても、続かないケースが後を絶たなかったのである。

■昔ながらの職人教育や進学率上昇などにより、建設業が若者から敬遠される状況に
 原因はいくつか考えられるが、その一つが、親方から「○○を持ってこい」などと言われ、道具や材料の名前を憶えることから始まるような、昔ながらの教育方法である。この教育方法では、系統だった教育というよりは、実際に親方の技術を見ながら、自分で学んでゆく、いわゆる「技を盗む」方法に重点が置かれる。しかし、親方も仕事では専門家だが、「教育」の技術には疎い人も多い。また、年齢の離れた若者たちとの間に、考え方や価値観に相当なギャップがあることも否めない。そのため、高校を卒業した若者が、一度は建設職人を目指しながら入社しても、未だに残る古い習慣になじめず、ストレスを感じて続かないのである。
 さらに、そもそも中小の建設企業に入職しようという若者が減少している。現在、新規学卒者で建設職人に入職する人は高卒者がメインであるが、最近では工業高校でも進学率が上がり、大学に進学する生徒が多い。就職の場合も、知名度の高い安定した大企業などがまず選択される傾向にある。その結果、地方の中小建設企業は人材不足に悩むことになる。特に近年、このような状況が顕著となっている。

■新規入職者の確保・定着を図るため、初期教育を行うOFF-JT訓練を実施
 そうした状況の中、(株)関工務所の社長は、仕事の面白さや心構えをしっかりと伝え、やりがいを早期に感じてもらうこと、現場では早期に即戦力になってもらうことで、新人と現場とのギャップを解消し、若手職人の確保と定着を図ろうと考えた。そこで、沼田市(川場村に隣接)に所在する職人養成学校、(一社)利根沼田テクノアカデミー(キーワード解説)の施設を活用し、各地の建設企業から受入れた若手職人に対する初期教育として、短期間(3か月)のOFF-JT訓練を実施することとした。なお、(株)関工務所の社長は、(一社)利根沼田テクノアカデミーの役員として、その運営に関与している。
 平成28年4月に開設された(一社)利根沼田テクノアカデミーでは、既に「瓦コース」、「板金コース」の開講実績がある。今回開講する訓練コースは、両コースを基本におき、必要なアレンジを加えて構築することとした。

■業種の違う2つの建設企業が連携、それぞれ専門分野の訓練を担当
 訓練コース開講の取り組みは、(株)関工務所と、愛知県津島市で管工事業の給排水設備工事と上下水道工事を営む(株)菅原設備との連携体、「大工・設備人材雇用育成協議会」により進めた。両社は(株)菅原設備が(一社)利根沼田テクノアカデミーを視察した際に知り合い、新たな担い手が確保できない・育たないという、共通の悩みがあることを知り、連携することとなった。
 (株)関工務所は大工職人の育成コースを、(株)菅原設備は設備工事の職人の育成コースを受け持つこととし、それぞれカリキュラムの作成にあたった。また、(株)関工務所は事業管理者として広報活動のとりまとめや、テキスト等のツール作成、事業の実施内容をデジタルデータとして蓄積・管理するシステムの開発なども行った。さらに、連携体外部との連携として、訓練施設となる(一社)利根沼田テクノアカデミーと各種訓練のノウハウを共有したほか、利根沼田地区高等職業訓練校(沼田市)からも訓練ノウハウの提供、講師派遣などの協力を得た。

■チラシなどを使い企業・組合ルートで広報、第1期の訓練生を募る
 開講に向け、まず訓練生を募集するため、チラシによる広報を行った。大工コース、設備コースとも1,000部ずつを作成し、前者については大工組合、工務店グループなどのルートを、後者については設備組合、メーカーなどのルートを利用した配布を行った。また、チラシを配布したところ、効果などについてより詳細に知りたいとの声があったことから、さらに訓練に関する総合パンフレットも作成した。あわせて大工組合、工務店グループなど、いくつかの場所での説明も行っている。これらの広報活動の結果、平成29年4月から、第1期生として大工コースで4名が、設備コースで8名(うち外国人技能実習生3名) が、訓練を受けることとなった。
 広報活動のほか、カリキュラムやツールの作成、訓練設備の設置なども、訓練コース開講までに順次進めた。

■訓練生の確保に苦労したことから、今後は広報体制の充実が重要課題
 第1期の訓練は、訓練生20名でスタートすることを目指したが、結果的には12名にとどまった。訓練に対しては多くの関心が寄せられたものの、新規入職者を確保できていないため、「人がいれば是非訓練を受けさせたいのだが…。」という企業が多く、目標数の訓練生を確保することができなかった。次年度以降の訓練生募集にあたっては、各企業・組合への広報活動だけでなく、高校などへの情報提供や、新聞などのメディアの活用により、広く情報を行き渡らせる仕組みづくりが課題である。
 また、連携体は開発したシステムなどにより、今後訓練の実施内容についてのデータを確実に蓄積し、それらを随時確認・分析することで、訓練の質の向上に取り組んでいきたいと考えている。

  (一社)利根沼田テクノアカデミー
 廃校になった旧南郷小学校(群馬県沼田市利根町)跡地と校舎を利用した3 カ月合宿制の建築職人育成施設。屋内・野外訓練施設や個室、食堂、休憩室等の訓練・宿泊施設を完備している。沼田市の建築板金工事業者、(株)テクノアウターが事務局を務める。

●新規入職者の少なさと離職率の高さに苦労している中小建設企業が、新人に対し現場に出す前に適切な初期教育をすれば、入職する新人と現場のギャップが解消され、状況を改善できると考えた。
●業種の異なる建設企業2 社が連携して、それぞれの専門分野について職人の初期教育を行う訓練コースを開設。地元の職業訓練学校からも、講師派遣やノウハウ共有などの協力を得た。