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連携体名 佐久地域担い手確保・育成
土木事業者連携体
事業管理者名 (株)小宮山
所在地 長野県佐久市 構成員 (株)オリエントエンジニアリングサービス

■中小建設企業の多くが実施できずにいる、効率的かつ効果ある人材育成の取り組み
 近年、少子化の進行や工業高校の減少、さらに全国的な労働力不足などを受け、建設業界では新規入職者を工業高校からだけでなく、普通高校や農業高校などからも採用することが多くなっている。しかし、普通高校や農業高校などの卒業生の多くは、建設業についての知識や技能はほとんどない。また、工業高校の卒業生であっても、必ずしも各建設企業が求める、基礎的な知識や技能を備えているとは限らない。
 こうしたことから、建設企業における人材の確保においては、採用対象の拡大に加え、採用した人材が入職した後、いかにして必要な知識や技能を身に付けさせるかが、重要な課題となっている。だが、中小建設企業の多くが、新規入職者への教育・訓練の重要性を認識しつつも、人手不足などのため、効率的かつ効果ある人材育成の取り組みを行えずにいるのが実情である。

■外部の教育機関の利用や各種資格の取得も、地方の建設企業にとっては大きな負担
 建設企業が自力のみで人材育成を行うことが困難な場合、外部の教育機関を利用するという方法がある。しかし、それらの教育機関の人材育成カリキュラムは、週1日程度の実施で、2~3年かけて教育していくスタイルのものが多く、短期間で新人を戦力化したい中小建設企業のニーズには合致しない。また、教育機関での研修や建設関連の各種資格取得のための試験は、東京や大阪など大都市で実施されるものが多い。そのため、地方に所在している建設企業では、研修受講や資格試験受験の際、従業員が宿泊を伴う出張がやむを得ず、このような状況は育成費用の増加、従業員が工事に携われない期間の長期化など、建設企業にとって少なからず負担となる。以上のような人材育成上の悩みは、(株)小宮山が所在する長野県佐久地域の中小建設企業においても、顕著なものとなっていた。

■地域のネットワークを活用し、人材育成を支える受け皿を作る
 そこで、建設企業が共同訓練等を実施するなど、地域のネットワークで人材育成を支える受け皿を作り、実践的な教育・訓練を行うことで、地方の中小建設企業が抱える人材育成上の課題を解決しようと、(株)小宮山と同社の関連企業、(株)オリエントエンジニアリングサービスの2社は、「佐久地域担い手確保・育成土木事業者連携体」として、地域での協働による建設人材育成の計画策定と、その実行に取りかかった。主な事業内容としては、複数企業の参加を得て、比較的安価な費用で地元での出前講座受講や資格試験受験を可能にすることや、地域の各建設企業に在籍する熟練技能者などを講師とした研修会の実施などに取り組むこととなった。
 また、近年は新たな担い手の確保・育成だけでなく、i-Construction(キーワード解説)に対応できる人材の育成や外国人技能実習生の教育なども、多くの建設企業において重要な課題となっている。この点を踏まえ、連携体では事業について、対象を若手に限定することなく、より広範囲の人材を対象に検討していくこととした。

■複数の企業が集まることで、地元に外部講師を招いての講習会を実現
 連携体の事業管理者である(株)小宮山は、既に建設業における人材確保・育成の推進を目的に活動する、地域の建設企業5社からなる任意グループを設立している。事業は連携体の2社を中心に、同グループを構成する企業の参加・協力も得ながら進められた。
 地方の中小建設企業単独では実現困難な、外部講師を招いての「出前講座」等の実施を、複数の企業が集まることで可能とし、各社の従業員が地元で教育・訓練を受けやすい環境を整えることが、今回の事業における主な目的の一つである。平成28年度はそれらを試行的に実施することとし、具体的には連携体、及び前述の任意グループ各社に在籍する従業員や外国人技能実習生らを対象に、i-Constructionに対応するための「ドローン安全運用講習会」と、外国人技能実習生を対象とした「玉掛け技能講習」を、(株)小宮山を実施会場として開催した。これにより、参加者らは地元に居ながらにして、業務上についての実践的な知識や技能を習得することができた。

■「職人学校」的なプロジェクトを構想し、先行事例の現地視察などを行う
 地域の建設企業のネットワークで行う担い手の確保・育成に関しては、連携体は新入社員~入社3年目以内の従業員を主な対象者として、各社協働で作業実習や資格取得に取り組ませる、「職人学校」的なプロジェクトを、将来的に実現したいと構想している。このような、建設企業の協働によるプロジェクトは、群馬県沼田市にある、(一社)利根沼田テクノアカデミー(キーワード解説)の取り組みが、先行事例としてよく知られている。そこで、連携体は構想実現に向けた足掛かりとして、利根沼田テクノアカデミーの視察を行った。この視察において、連携体は同アカデミーの校長よりアカデミー設立の経緯、現在の取り組み内容、今後の方向性や連携の可能性などについて説明を受けた。また、これからの課題等についての意見交換も行った。
 さらに、プロジェクトの実現に向けて、今回の事業の参加・協力企業の従業員数名が、型枠、鉄筋、とびなどの訓練技能士(指導員)の資格を取得した。これを受けて、連携体では引き続き各企業が講師を出し合い、地域における集合体として技能者を相互に育成できる仕組みづくりの、下準備を進めている。

■試行的な実施で確認された結果を整理し、今後の人材育成の取り組みに反映させる
 平成28年度は、地域の建設企業のニーズを調査し、その中で優先度の高いものから試行的に実施することで、事業スキームの基本的なあり方について、確認することができた。連携体では、それらの結果を体系的に整理し、地元において建設人材を確保・育成するためのカリキュラム作りや、職業訓練校の設立に向けた準備に反映させていくこととしている。

  i-Construction
 建設工事の一連の工程における3 次元データなどICT(情報通信技術)の全面的な活用や、規格の標準化、施工時期の平準化を図ることで、建設生産システム全体の生産性を向上させ、魅力ある建設現場の実現を目指す取り組み。平成28 年度から国土交通省により推進されている。

 (一社)利根沼田テクノアカデミー
 廃校になった旧南郷小学校(群馬県沼田市利根町)跡地と校舎を利用した3 カ月合宿制の建築職人育成施設。屋内・野外訓練施設や個室、食堂、休憩室等の訓練・宿泊施設を完備している。沼田市の建築板金工事業者、(株)テクノアウターが事務局を務める。

●地方に所在する中小建設企業の、人材育成における地理的なハンディキャップ、指導者不足などの問題について、地域の企業のネットワークを活用することで解決への道筋をつけた。
●新規入職者の確保・育成だけにとどまらず、i-Construction に対応できる人材の育成や外国人技能実習生の教育など、より広範囲のニーズに対応できる人材育成スキームを検討した。