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連携体名 施工VR研究会 事業管理者名 (株)藤本組
所在地 静岡県掛川市 構成員 (株)正治組、(有)丸中建設、(株)山口土木

■建設現場の生産性を向上させるi-Constructionの推進
 建設業では、就業者の実労働時間が全産業平均を上回り、週休二日制がほとんど普及していないなど、多くの企業において長時間労働が常態化している。また、建設業では労働災害が多く、他産業と比べ死傷事故の発生率が約2倍となっている(国土交通省資料による)。
 これらの状況は、昨今の少子高齢化とともに、建設現場における担い手不足を深刻化させる要因となっている。ゆえに建設業では、長時間労働の是正、賃金の向上や、工事の安全性確保が喫緊の課題である。その解決を図る施策として、国土交通省は、建設現場における生産性を向上させることで、企業の経営環境を改善し、建設現場に携わる人の労働時間短縮や賃金の水準向上を図るとともに、安全性の確保も推進するi-Construction(キーワード解説)の取り組みを進めている。

■i-Constructionの流れに乗せるべく、施工VRの研究開発を本格的に始動
 i-Constructionの取り組みにおいて、生産性の向上を実現させる、主要な方法の一つとして提唱されているのが、「ICT技術の全面的な活用」である。これは、土工における調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの、あらゆる建設生産プロセスにおいてIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの革新的な技術の導入や、三次元データの活用を行い、抜本的な生産性の向上を図ろうというものである。
 静岡県掛川市の(株)藤本組は、平成26年から実際の現場を3Dでモデル化して設計の元データとして用いるなど、建設現場の3D化に取り組んでいるが、そのさらなる有効活用の可能性としてVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)を模索していた。そこに国の施策として発表された「i-Construction」は、まさに同社が目指す方向と合致するものであった。施工VRの必要性と市場の拡大を確信した同社は、同業者ネットワークを通じて交流のある、VRやその周辺技術に明るい企業と連携し、施工VRの研究開発事業を本格的に始動させた。

■三次元モデルとVR技術を組み合わせ、現場の仮想空間で会議や安全教育を行う
 連携体が取り組む研究開発の核となる内容は、建設現場の仮想空間(三次元モデル)とVR技術とを組み合わせ、VRヘッドセットを装着した人間に対して、あたかも建設中や完成後の建設現場に入り込んだような状況を再現することと、仮想空間内でCIM(キーワード解説)の属性情報を効率的に付与できるシステムの構築である。そして、これらの技術を用いて、①遠隔地にいる複数の人が、同時に同じ建設現場の仮想空間に入り込み、細部を確認しながら会議を行う「VR会議」、②現場作業員を建設現場の仮想空間に入り込ませ、開口部から転落する、重機と接触するなど、現実空間では出来ない体験をさせる「VR安全教育」、③建設現場の仮想空間内で、専用のコントローラーを用いて、直接的に三次元モデル(道路や法面、重機など)の作成や移動・編集を行う「VR設計CIM」――の3点を実現し、設計、施工、安全対策における生産性を向上させることが、今回の事業の目標である。

■まず「VR会議」の実用化に取り組み、普及・展開を見据えた活動も行う
 連携体「施工VR研究会」の4社は、平成28年度の事業目標として、まず「VR会議」のシステムを実用化し、連携体内において試験運用することを掲げた。また、建設現場向け施工VRソフトウェアの、業界内での普及・展開を視野に入れた活動として、「i-Construction+VR・CIM」をワンパッケージとした施工講習会を、全国の建設関連業者向けに講師として行うこととした。さらに、施工VRの開発に必要な経験の蓄積と、技術力の向上を図るという観点から、連携体内の企業において、i-Construction関連の業務もしくは工事の受注を目指すこととした。

■建設現場の仮想空間に入り込み、現実の疑似体験できる段階まで到達
 「VR会議」のシステム開発は、VRソフトウェアの開発を手掛ける企業からの、技術的な協力を得ながら進められた。協力企業に、建設現場の3DモデルをVRとして会議システムに読み込む、という概念がなかったため、開発にやや難航する部分はあったが、システムは建設現場の仮想空間内に入り込み、細部の状況を現実であるかのように体感したり、コントローラーを使ってその内部を移動したりすることができる段階まで到達した。この開発に合わせて、連携体各社は施工VRの勉強会・講習会・セミナーに参加。必要となるVR機器やソフトウェアもそれぞれが調達し、三次元モデルやVRについての基礎的知識・技術を習得した。現状ではまだ複数人がシステムの仮想空間内に入り込むことができないため、VR会議の実用化は、目標としていた、平成28年度内には実現できなかったが、連携体では引き続き情報収集や技術力向上の取り組み、協力会社との協議を進め、平成29年度下半期をめどに、システムを完成させたい考えである。
 施工講習会については、連携体の各社が依頼を受けて、国土交通省中部地方整備局や、静岡県情報化施工推進ワーキンググループ、静岡県測量設計業協会などにおいて、i-Constructionをテーマとする施工講習会の講師を務めた。
 i-Construction関連の業務もしくは工事の受注については、連携体の一員である(株)正治組が、静岡県のICT活用工事の適用対象工事を1件受注している(平成29年2月末現在)。

■今後はICT分野の著しい状況の変化に、確実・迅速に追随していくことが課題
 連携体は「VR会議」のシステム完成後、引き続き「VR安全教育」、「VR設計CIM」の実用化に向けた取り組みを進めていく予定である。
 ICTの分野では、その目ざましい進展に伴う状況の変化が著しい。例えば数年前に数十万円したソフトウェアが、現在はほぼ無料で使用できるといった状況もある。そのため、連携体としてはそうした変化についての情報を迅速かつ正確に把握し、適宜事業の方向修正を行っていくことが、今後重要な取り組みになると考えている。

 i-Construction
 建設工事の一連の工程における3 次元データなどICT(情報通信技術)の全面的な活用や、規格の標準化、施工時期の平準化を図ることで、建設生産システム全体の生産性を向上させ、魅力ある建設現場の実現を目指す取り組み。平成28 年度から国土交通省により推進されている。

 CIM
 Construction Information Modeling/Managementを略した用語。調査・設計段階から三次元モデルを導入し、施工、維持管理の各段階での三次元モデルに連携・発展させることで、設計段階での様々な検討を可能とするとともに、一連の建設生産システムの効率化を図る取り組み。平成24 年に国土交通省が提言した。

●生産性向上の効果が高いi-Construction にVR 技術を組み込むことで、作業 や情報共有について効率化と簡素化を図り、さらなる生産性向上の実現に取り 組んだ。
●施工VR のニーズを探り、将来の普及・展開に向けた足掛かりとするため、 i-Construction をテーマとする施工講習会を通じ、施工VR についての周知と 関心の喚起を図った。