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連携体名 伊香支部有志の会 事業管理者名 田中シビルテック(株)
所在地 滋賀県長浜市 構成員 阪本建設(株)

■建設業の従業員高齢化と若手人材の不足で、除雪作業ができなくなる可能性が浮上
 滋賀県の北東部に位置する旧伊香郡、現在の長浜市伊香地域は、地域の大半が豪雪地帯に指定されており、冬季には住民の安心・安全を確保するため、除雪作業の的確な実施が必要不可欠となっている。
 当地域の除雪作業の担い手として、これまで大きな役割を果たしてきたのが、地元の建設企業である。最近では11社が冬場の重要な仕事として除雪作業を手掛けている。ところが、全国の多くの建設企業と同様に、当地域の建設企業においても、近年は従業員の高齢化と若手人材の不足が深刻で、除雪作業に使用する車両系建設機械(キーワード解説)を運転・操作するオペレーターも、半数近くが60歳を超えているのが現状である。そのため、新たな除雪作業要員を確保できない状況が続くと、近い将来、突然除雪作業ができなくなることも懸念される。

■地域の建設企業の従業員を対象に、「除雪業務担い手育成塾」を開講
 地元の建設企業の集まりである、(一社)滋賀県建設業協会伊香支部では、支部の重要な地域貢献活動としても位置付けている除雪作業が直面する、危機的な状況を改善すべく、各関係先への働きかけを開始した。
 働きかけの一つとして、支部では当地域の建設業における、受注環境の安定化を訴えている。除雪作業は冬季だけの仕事であるが、除雪作業要員として確保した人材であっても、年間を通じた雇用を保証しなければならない。そのためには、安定的に仕事を受注できることが、絶対的に必要となってくる。
 受注環境の安定化を目指すと同時に、その実現を前提として、支部は除雪作業の担い手を確保・育成するための、具体的な活動にも着手した。それは、除雪作業を手掛ける地域の建設企業に、若手を中心とした新たな人材の確保を強く要請するとともに、その新規入職者をはじめ、各社の従業員を対象に「除雪業務担い手育成塾」を開講し、除雪作業に従事する人材を確保・育成するという取り組みである。

■除雪作業要員の技術向上・体制維持と、新たな人材の確保に取り組む
 育成カリキュラムの策定やその実施手順の検討をはじめ、担い手育成塾の事業には対応すべき課題が多い。そこで、それらの対応を円滑に進めるため、(一社)滋賀県建設業協会伊香支部の支部長企業、田中シビルテック(株)と、副支部長企業、阪本建設(株)からなる連携体、「伊香支部有志の会」が事業運営の中心となり、支部の会員企業が協力する体制をとった。また、外部機関である滋賀県長浜土木事務所木之本支所、滋賀県警木之本警察署、長浜市内の自動車学校、建設機械の販売・修理企業からも、それぞれの立場に基づく事業への協力を得た。
 平成28年度は、現状の除雪作業要員の技術向上、体制維持に取り組むと同時に、除雪作業に従事できる人材を、新たに3名以上確保することを目標に事業を進めた。併せて、気象情報を活用した、除雪作業時の的確な出動体制づくりについても検討も行った。

■警察署や土木事務所などの協力を得て、座学講義と実地研修を行う
 担い手育成塾は、平成28年12月5日に座学講義、平成29年2月8日に実技研修と、2回に分けて開講した。受講者は座学講義が17名、実技研修が16名で、支部の会員・非会員を問わず、地域の建設企業から広く募った。
 座学講義では、木之本警察署の交通課長が除雪作業前の交通安全について教育を行い、土木事務所職員が作業日報と記録写真のポイントについての講義を行った。屋外に用意した除雪車を前に、その始業・就業点検及び簡単メンテナンス要領についての研修も行った。
 実技研修は、使用許可を得た上で、一般車両の通行しない雪の積もった工事用道路を、実際の除雪現場に見立てて実施した。今は実務から引退したベテランオペレーターや、建設機械の販売・修理企業の社員による指導のもと、受講者らがドーザー除雪車、大型グレーダー除雪車、ロータリー除雪車を操作し、実践的な技能の習得に取り組んだ。

■自動車学校で運転技能訓練を実施、新規要員を育成し経験者の技量維持も図る
 担い手育成塾の開講に合わせ、平成28年11月から翌年3月にかけて、除雪作業に必要な車両系建設機械の運転技能を新たに習得する訓練も実施した。この訓練は、自動車学校が連携体の要請に応え、特別枠の講習を設定し、自動車学校のコースや大型車両等を使用して行った。
 車両系建設機械の運転技能を新たに習得する、自動車学校でのカリキュラム「担い手養成講座」には、地域の建設企業から19名の除雪作業未経験者が順次参加し、大型特殊車両や大型自動車の運転技能訓練を受けた。その結果、1人につき3時間の短期カリキュラムではあったが、当初計画の3名を上回る、4名が大型特殊免許、または大型自動車免許を取得できたことをはじめ、除雪車両操作の基礎訓練を受けた、除雪作業要員候補を多数確保することができた。
 また、60歳以上も含む、除雪作業の経験者4名を対象に、「技能継続講座」も実施した。このカリキュラムは、除雪シーズンに入る前に、実地訓練により除雪用車両の運転技術・感覚を取り戻してもらうというもの。現時点で地域の除雪作業を支えているマンパワーの、今後の維持・継続の一助とすることを目的に行った。

■今後は習得した技能の年間を通した活用や、共同採用・育成体制の構築などが課題に
 以上のように、事業初年度の取り組みにより、除雪作業に従事する人材の技術向上と、除雪作業要員の陣容強化が実現した。
 連携体では、この成果を踏まえて引き続き事業を進めていく考えである。その中で、今後は車両系建設機械の運転技能が年間を通して活用できる受注環境づくりや、若手人材を地域の企業が共同で採用・育成する体制の構築などが、新たな課題になるものと思われる。

 車両系建設機械
 労働安全衛生法施行令別表7 に掲げる建設機械で、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走できるもののことをいう。主なものとして、整地・運搬・積み込みに用いるブルドーザー、トラクターショベル、締固めに用いるローラーなどがある。

●冬季の除雪作業という、仕事を通じた地域貢献を確実に継続していくべきとの自覚に立って、地域の建設企業に共通の課題である、人材の確保・育成に取り組んだ。
●除雪作業要員の確保という、季節的な要員増への対応を主目的とする事業であるが、年間を通じた雇用を保証するため、受注環境の安定化をその取り組みの前提とした。