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連携体名 女性技術者技能者育成塾準備室 事業管理者名 (有)ゼムケンサービス
所在地 福岡県北九州市 構成員 ハゼモト建設(株)

■女性が十分に活躍できるのに、未だ圧倒的な男性多数の建設業界
 女性の社会進出が進む中、建設業においても材料・道具・重機等の発達や改良により、女性が十分に活躍することが可能となっている。しかし、そうした状況にもかかわらず、建設業は未だに圧倒的な男性多数の業界である。
 籠田(こもりた)淳子氏は、北九州市を拠点に住宅・店舗建築サービスを提供している、(有)ゼムケンサービスの社長である。大工の娘として育ち、建築家になること目指した籠田社長は、建築学科を経て建設業界に就職、一級建築士をはじめとする数々の資格も取得し、多くの実績を積み重ねた。出産から8か月後の平成12年1月には、(有)ゼムケンサービスの社長に就任。以来、建設企業のトップとして活躍を続けている。しかし、籠田社長も建築の仕事に携わり続ける中で、女性であることのハンディキャップを数多く経験し、実感していた。

■女性の活躍とワーク・ライフ・バランス実現を目指し、具体策を次々と実行
 このような環境の中で、籠田社長は、“母親女性一級建築士、かつ経営者”として、女性の活躍、及び女性のワーク・ライフ・バランス(キーワード解説)実現を目指し、次々と具体策を実行に移した。その一つが、男性が多数を占める建設業界で弱みとされてきた「女性である」ことを、女性特有の感性を活かし、逆に強みとするという取り組みである。その具体例が、「五感設計」というコンセプトを取り入れた、女性ならではの感覚を活かした高付加価値の空間プロデュースである。また、1人分の給与で2人が仕事を分けあって働く、“ワークシェアリング”の導入などにより、女性正社員の雇用も積極的に進めた。その結果、現在同社の社員は、籠田社長も含め、8名中6名が女性となっている。
 以上のような取り組みにより、平成21年、「北九州市ワーク・ライフ・バランス市長賞個人部門」を籠田社長夫妻が受賞したほか、内閣府の「女性のチャレンジ賞」受賞(平成25年)、経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」、選定(平成26年)など、(有)ゼムケンサービスは、女性活躍に関し数多くの評価を得ている。

■建設系資格を取得しながらも退職した女性人材の、復職を支援するスクールを設立へ
 こうした一連の取り組みの成果を踏まえ、(有)ゼムケンサービスでは、「女性が建設業で働けない、働き続けられない」原因を考慮して、女性に特化した教育と環境整備を行う、「けんちくけんせつ女学校」を開校することを決めた。
 「けんちくけんせつ女学校」の主な事業は、建設系の資格を取得しながらも、結婚、出産などを機に退職した女性人材の復職支援である。具体的にはeラーニングによる学習と、建設会社へのインターンシップがセットとなったカリキュラムの提供である。また、受講期間中に人材と会社とのマッチングを行い、地域の建設会社・工務店への就職あっせんも行う。さらに、将来的には、高齢者、外国人、LGBTなど、ビジネス社会においてマイノリティとされる人々全般に対して就業を支援するための、技術的カリキュラム導入も視野に入れている。

■インターネットを活用して行う、単位制eラーニングの仕組みを構築
 本事業は、(有)ゼムケンサービスと、新築工事、リフォーム工事、公共工事などを手掛ける、北九州市のハゼモト建設(株)の2社による連携体が母体となって進めた。
 連携体では、まず、実現可能性・持続性のある事業モデルとするため、事業目的や背景、ターゲットを整理し、事業スキームを作成した。
 eラーニングについては、建築・デザイン・コンピューター関連の出版社の協力により使用する教材を決定し、それを踏まえて学習の流れを決定した。具体的には、受講生がテキストやDVDで学習した後、インターネットを介して単元ごとに映像配信授業を受け、講師への質問も行い、さらに単元ごとに配信されるテストを受け、合格すれば単位が認定されるという流れである。これについて、講師を務める予定のハゼモト建設(株)社長により、スクールの流れと同じようにデモンストレーションを実施。学習にかかる時間、想定質問などの記録を取り、カリキュラムや、仕組みの不備の有無、改善点などについて調査を行った。

■若手女性技術者対象の研修会講師を務め、ターゲット層について定性調査を実施
 次に、(有)ゼムケンサービスの籠田社長が、愛知県主催の、経験5年以内の若手女性技術者対象の研修講師を務め、これによりターゲット層周辺の定性調査(マーケティング)を行った。その結果、当該研修参加者には、20代ながら、女性技術者としての採用は1期生という参加者が多く、建設業界の、女性活躍はまだまだこれからという実態がうかがえた。また、女性であるために総合職でなく一般職採用となっているなど、既存の慣習にとらわれた状況が多いことも判明した。これらの結果を踏まえて、連携体では、今後建設会社・工務店に対するセミナーの実施など、女性活躍のための事業プログラムを強化していく考えである。
 さらに、「建設業を一度リタイアし、再度トライしたい女性技術者」がどのくらいいて、どのような生活をしているのかを把握する、アンケート調査の準備に着手した。今後、各建設業界団体や、ハローワークなどのルートを通じて実施する予定である。このほか、各地の建設系大学を通じ、卒業生の動向を探るアンケート調査も実施する予定である。

■今後は受講生の募集と、受け皿になる工務店の組織化が課題
 連携体は平成29年3月、北九州市内にスクールの事務局を開設し、引き続き全国各地で女性活躍のポイントレクチャーと女性が現場に立つ指導を始めた。平成30年春からはIT活用カリキュラムを開始予定、全国各地の建設業で働く女性のコミュニティづくりの準備を進めている。
 今後の大きな課題は、生徒の募集と、インターンや就職の受け皿になる工務店の組織化である。そのため、連携体では、全国的な建設業組合などのネットワークを活用していくことを検討している。また、連携体は、開校時には10名程度を予定している受講生を、3年後には160名としたい考えである。それに対応できるよう、講師や事務局人材の確保を中心とする体制の整備も、大きな課題と位置付けている。

 ワーク・ライフ・バランス
 仕事と生活とを調和させ、性別・年齢を問わず、誰もが働きやすいように職場や社会環境を整えること。この「生活」には子育てや家庭生活だけでなく、地域活動や趣味・学習などあらゆる活動が含まれる。

●建設関連の資格を持ちながらやむを得ず建設業界を退職した、もしくは建設業界に就職できなかった女性に対し、建設業界での就業に再挑戦できる仕組みづくりに取り組んだ。
●建設業界への復職・就職を目指す女性に対し、スキル面やマインド面の訓練に加え、企業とのマッチングも行う、建設企業にとっても効率的な人材確保の機会が得られる事業スキームとした。