コラム

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ありがとうという情報共有

情報共有ツール導入の前に


ASPを利用した情報共有のススメ 〜 2つの追い風 〜


情報を「確実に守る」「タイムリーに打つ」「素早く走らせる」


求めるセキュリティ


ありがとうという情報共有


大切な情報を守るために


何でもかんでも情報共有?


ASPサービスの利用


クラウドについて


ありがとうという情報共有


私は、26年間建設業界の仕事に携わって来ましたが、そのうちの多くを現場での施工管理の職務に費やしてきました。今回は、施工管理の中で図面を作り上げる、いわゆる施工図作成という業務に絞って、情報共有がどのように変化してきたかを振り返りつつ、そのあり方が現在直面する課題について触れてみたいと思います。
そもそも図面は、成果としての建築物を造り上げるためのものです。企画設計図、設計図、施工図、完成図、取扱説明図と、その時点で必要とされる目的に応じた形で変容していき、精度と詳細度が高まっていきます。こうした図面を用いた情報共有について、私が仕事についてから、大きく3ステップの変化がありました。

1.青焼きをはじめとした複写による配布
入社して最初の仕事は、トレーシングペーパへ印刷された青焼き原稿を複写する作業でした。できた製本には契約図、見積図等の文字が背表紙に刻印され、現場担当者の手元まで届けられ、現場担当者は、届けられた図面を基に現場のイメージを膨らませることになります。青焼きは大変古くからある技術ですが、その誕生は、原図を紙という形で複写することで、多人数への配布を可能にしたステップといえるでしょう。もっとも、こうした修正作業は手間もかかるため、たとえ原図修正があっても、その内容は容易に更新・再配布するようなことが出来ませんでした。

青焼コピー機

コピー機

2.データという形での複写利用
その後、20年ほど前から、図面情報をデータで配布、流通させる試みが始まります。フロッピーディスク、MO、CD-R、DVD-Rなどといった記録媒体を介して、必要な情報が関係者に届くようになりました。結果、従前であれば原図を書き直さねばならなかったのに対し、データを取り込んで加工することが出来るようになりました。情報を媒体としてやり取り出来るようになったステップです。

各種メディア

3.クラウド技術とインターネット情報インフラ
足元ではクラウドを始めとするネットワーク技術を使った、最新の情報共有が動き始めようとしています。大きなデータセンターが建設されている状況から、描かれる未来への期待も膨らみます。どこにいても最新バージョンのモデルにアクセスできる、書き込みもできる、履歴も残る。今までできなかったことを可能にする技術が注目され、予算も投入されています。今現在、我々が身を置きつつあるステップです。

そしてクラウドへ

1.一方的な配布のみの時代から、
2.複写・修正できる時代、
3.クラウド一元管理が出来る時代というステップを経て、
施工情報を提供するための環境は日々進化しています。

しかしながら、こうした環境を整備するだけで、情報の共有が深化し、利便性が増し、高い生産性が確立されたのでしょうか。私には実感がわきません。

関係者が情報を得られる様、インフラを整えるだけでは足りないことがあります。実際、生産活動の効率化はおろか、現場に混乱を招く結果になっていることすらあるのです。

昔の青焼き製図の時代、裏図転写の作業は文字通りひっくり返した図面を書き上げるものでした。作業に従事する技術者は、単純な転写作業ではなく、頭の中に躯体図を思い描き、尚且つひっくり返して書き上げるという芸当をこなさなければなりませんでした。原図の裏側、施工者の必要とする情報を理解し、頭の中にイメージをするプロセスを、知的労働として展開することで、技術者は関係者へ提供できるまで図面に書きこみを施し、理解を促す見やすい図面を作るという作業があったわけです。

今日では、裏図転写という作業はなくなり、情報共有システムは当時と比べ格段の進歩を遂げました。しかし、昨今の情報共有における躓きを見てみますと、例えば必要とされる精度の管理、承認がなされているのか、誰まで情報が伝わるべきなのかを決めず、とりあえずメールを投げておけば見るだろうといった、経緯や管理がはっきりしない情報発信が、困った状況の引き金になっていることが数多く見られます。

その原因は何でしょうか。私は、情報共有システムの進化に比して情報共有の実際に進歩が見られないのは、判断を他人に委ねる受身の姿勢のようなものが浸透し、人間の情報取捨選択能力、いうなれば人間力が劣化してきているためではないかと思っています。

たとえば、何か定例の会議で決まった事柄がある場合、情報受領者は決まった結論について、その結果が何に影響するか、図面のどこに影響が及ぶのかを把握して、自らの持ち場に的確に展開しなければなりません。このとき、ただ結果のみを伝達することと、目的を含めた意味を共有することの違いが大きく現れます。

配布のみの時代は、定例議事録に事細かに記述し、回覧し、読み砕くというプロセスがありました。全て読み込んでいるわけですから、当たり前のように自分達への影響範囲を確認することが出来ていました。複写・加工ができるようになると、データの差し替えという形で差分を管理できるようになりました。何度も、複数人が更新を加えると、どれが最新の状況なのか分からなくなるなど、新しい課題も生まれました。
これが、クラウド一元化を進める今どうなっているのでしょうか。

便利になったわけですから、人々は当然その恩恵にあずかろうとします。また同時に、あふれる情報、選択肢、価値観を与えられ、情報過多になった人々はそれを処理できなくなってしまいます。事実、知っているはず、メールを送ったはず、言ったはずという言葉を聞くことが増えてはいないでしょうか。結果、最新の情報は常にサーバーにあり、誰でもアクセス出来ることを免罪符に、周知に費やしていた時間を削減するようになってしまったのです。これを言い換えれば、情報共有を放棄しつつあるともいえるのではないでしょうか。

たとえば、BIMモデルに焦点を合わせると、2013年は干渉箇所を周知する技術が多く紹介されました。例えば、対象オブジェクト相互の干渉を特定し、干渉箇所を帳票に管理してモデルとリンクします。そして、モデル情報からEXCELシートに画像として干渉箇所を描画、対象者、関係者へメールで状況を送付します。干渉課題が解決した場合、課題有りから、解決済みへ表示が変わる、と言ったようなものです。こうしたツールは関係者への周知までを一元管理できるわけですから、これぞICTによる情報共有、業務効率化の見本と言える事例でしょう。

しかし、ソフトによる自働化で課題が洗い出せるようになったとしても、課題部分の解決方法は人間が選択・判断をしなければなりません。こうした部分のマッチングが、上手にできていないのではないでしょうか。使いこなす管理者や関係者が付いてこられない状況と思います。

もちろん、現場実務で課題解決に向けて、BIMモデルの共有化、リアルタイム化環境を構築することは、うまく使えば本当の意味での時間を作る・価値を作る手助けとなります。今までのワークフローでは得られなかった新たな価値を手に入れることへの一歩であり、現場担当者のみならず、皆が待ち望んだ環境が整備されつつあることは事実です。

足元、施工現場では施工情報を扱うITツール操作者が増えています。難解なツールを使いこなす優秀なオペレータが増え、情報共有のための道具、インフラ、技術が揃いつつあるわけですから、もう一度人間の力を発揮する、コミュニケーションという情報共有に対する価値を高めることに評価の目を向けるべきではないでしょうか。

干渉課題解決ツールの例でも、結局のところツールに出来るのは問題点の機械的な指摘までですから、ツールの有用性は解決の選択肢提示をいかに的確に行うことができるかを評価されるべきです。ツール導入で魔法のように情報共有が進展し、問題が解決するわけではありません。課題解決の議論をする際には、最終的に解決策を作るのは人間であることを念頭に、現場作業者から設計者に至る、必要情報を取捨選択した効率的なコミュニケーションを土台として、リーダーは判断を行い、問題解決を試みる必要があります。

ICTは自動的には物事を作り上げませんし、システムにデータを蓄積するだけでは、集合知としての成長はありません。BIM情報共有者が、断片的な入力作業者から意思決定に参加できる技術者への成長するための時期が来ています。

情報共有の円滑化には、情報の取捨分別能力、すなわち人間力がいっそう求められてきているように思います。このあたりで一呼吸いれて、関係者にしっかり声がかかっている状況があるか見直して、人々の心の隙間で停滞・滞留している情報を活性化させるべく言葉を発して行こうではありませんか。

「頼んだよ」 「お願いします」 「ありがとう」